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出会い

 魔王城の訓練場、と呼ばれたその場所へやってきて少女がまず思ったのは、城の中に訓練場なんて作ったら危ないんじゃないだろうかということだった。

 普通の魔族でさえ一軒家を吹き飛ばすことぐらいならできないでもないのに、ここで訓練する魔族というのはより限られた強大な力を持った魔族たちのはずだ。

 訓練場の端には、むき出しの地面に木の棒がささっている。剣などで斬りかかって練習するための的かなにかなのだろう。そこから離れた場所では何匹かの魔物がいて、訓練目的で戦っていたりする。

 その魔物たちの戦いをどこかつまらなそうな様子で見守っていた褐色の肌の魔族が、少女や魔王である男が訓練場にやってきたことに気づいてのろのろとそちらを向いた。あまり身だしなみに興味がないのか、髪の毛はぼさぼさで服に妙なしわが寄ったままになっている。

 魔王から紹介された。

「つまり、新たな魔王候補ということになる。よくしてやってほしい。そして」

 魔王の後継者を紹介された魔族が顔をしかめている。今の魔王を尊敬しているとかそういうことではなく、こんなのが新しい主になるのかよ、やだなー、というような顔だ。

 そんな様子を気にすることもなく、魔王はその褐色の肌をした魔族について語る。

「この子はルリエラだ。土属性の魔術を得意としていて、四天王のひとりとして働いてもらっている。頼りにするといい」

 そしてルリエラと呼ばれた魔族が、しぶしぶという様子で言った。

「……よろしく」

 その言葉に、魔王の後継者である少女はにっこりと笑った。

「よろしくねー、ルリエラちゃん」

「ちゃん!? あんたふざけてんの!?」

「えー?」

 少女が小首をかしげると、ルリエラはちっと舌打ちした。

 少女が自分より背の高いルリエラのその表情を眺めていると、ルリエラはあざけるような笑みで言ってきた。

「それで、あんたは魔王候補ってことらしいけど。いったいどんな力があって、なにができるってーのよ。あたしじゃなくわざわざどっかからこんな子供を連れてきたってことは、それなりになにかがあるんでしょ」

 そんなふうには思えねーけど、という様子のルリエラ。

 少女は胸を張った。

「ふふー。桃李もの言わざれど下自ら蹊を成す、という言葉があります」

「なにそれ」

 ルリエラが怪訝な表情をする。

 少女は答えた。

「桃やすももは素晴らしいからみんな集まってきて自然とそこには道ができるの。素晴らしい人物のもとには自然とみんな集まるよーってことだね」

「で?」

「私のこの魅力をもってすれば……」

「ぷっ、あ、あははははははははは、ばっかじゃないの! ぷははははは」

「笑われたー!?」

「でたらめ言うにしたってもっとましなこと言いなさいよ。なによ魅力って。あはは」

「えー」

 少女はがっかりしながらルリエラに訊ねた。

「それで、ルリエラちゃんはなにができるのー?」

「ぷぷ……こほん。あたしが土魔術が得意ってのは聞いてたわよね。でも、特別に面白いやつを見せてあげよーじゃねえの。ほら」

 ルリエラが魔術を使うと土が空中に浮きあがった。その手際には熟達したものがあった。そして浮き上がった土はただの土ではなく、なにやら不思議な力が感じられる。

 浮き上がった土を少女は見上げる。

「これが面白いもの?」

「こっからよ。この液体を魔土に入れて混ぜ合わせると……」

「おおー」

 ルリエラが懐から取り出した小瓶の中の液体を土にかけて勢いよくこねはじめる。一見すると動作が雑に見えるのだが、慣れていて手の動きが素早いだけで実際は丁寧にこねているらしい。

 その土が次第に動物の形を作り始め、二つの頭を持った犬の魔物となって地面に降り立つとワンと吠えた。

「すごーい」

 少女は瞳をきらきらとさせた。

 ルリエラは小さく笑った。

「ま、そうでしょうね」

「私もやってみたいー」

「あん?」

 本気? とか言いつつルリエラは少女に魔土と小瓶を渡す。

 少女はルリエラの真似をしつつわくわくと土をこねた。しばらくして、頭がひとつで不細工な犬のようななにかが四足で地面に降り立ち、ぐわーと鳴いた。

「あ、あれー?」

 少女が困惑の声をあげる横で、それまで余裕そうな表情で見ていたルリエラが愕然とした。

「な、なんでよ! 魔物の作成はあたし以外、魔王様でさえできなかったってーのにどうしてこんな小娘が……!?」

 しかし少女も愕然としていた。

「ペンギンみたいな魔物を作ろうと思ったのに、どうしてこんなに犬っぽくー……」

ルリエラとの出会いの話。

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