魔王軍の魔物
魔王城にある作成室には、あちらこちらに土が置かれている。ただの土ではなく、魔土と呼ばれる特別な土だ。
そんな作成室で魔王な女の子と執事な男の子が、これまでの事情をルリエラに説明していた。
魔王軍四天王のカロンによって訓練場の魔物がことごとく再起不能にされたことや、魔王が訓練場にあけた穴についてだ。
魔王は頭を傾けて訊ねた。
「どうにかしてくれるー?」
「もちろんです!」
元気よくルリエラが応えた。
近くにはつい先ほど土をこねて作った花瓶が置いてあって、青い花が飾られている。
「にしてもあの格闘馬鹿、役に立たねぇどころか足引っ張りやがって。味方潰してどうすんのよ。なんの価値もないくせに態度ばっかり偉そうで――」
カロンのことを嫌いきっているルリエラは思いつくままに悪口を吐いたが、
「ふふー、ルリエラちゃん。そこまでにしとこー。私だってさー、そこまで考えなしに四天王を選んでるわけじゃないし」
「申し訳ございません!」
魔王にたしなめられて、ルリエラは当然のごとくものすごく素直に謝罪した。
それから、彼女は魔術を使った。ルリエラの意思に従って、周囲の土のいくつかがうにょうにょと地面を這って集まってくる。
「まずは魔物のほうから作ってしまいましょう。ああ、魔王様のお役に立てるなんて……」
ルリエラは手元にいくつか小瓶を用意すると、魔王に訊ねた。
「今日はどのような魔物にしましょうか」
「んー、ルリエラちゃんにおまかせー?」
特に考えもなかった魔王は自分の部下に丸投げした。どうせいつも仕事を部下に任せてばっかりだ。
ルリエラは小瓶を選んで中身の液体を土に振りかけていく。
「魔物のエキスを土に染み込ませて、あたしの魔力を混ぜ合わせながらこねていけば……っと。自然の魔物よりよっぽど賢くて出来がいいですからね」
ルリエラの褐色の指先が、こねられた土の造形をあっという間に整えていく。生み出された魔物の形。
そして、動き出す。
「ぐごぎゃあ」
魔物が鳴いた。
「はやい……さすが四天王のひとり。土のルリエラさん」
さほど時間も置かずに出来上がった完成度の高い魔物を見て、執事は感嘆の息を吐く。
ちっちゃな魔王は胸を張った。
「ふふーん。すごいでしょー」
自慢げな魔王に、執事はうなずいた。
「こうしていくらでも作られる手製の魔物が、今日も魔王軍の主力として各地で戦ってるんですよね」
「そうだよー。いくらでも、無限に、ルリエラちゃんが作ってくれるからね。魔王軍は安泰だよー」
「も、もちろんです。魔王様のためですから」
魔王の言葉にルリエラがちょっとひるんだ。
いくらでも作ってくれるとはいえルリエラの魔力に限度があることくらい、魔王も執事も分かってはいたが。期待が重すぎたらしい。
そして魔物は一向に命令がされないので暴れもせずにその場で待っていた。賢かった。
魔物の作成についての話。