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身代わり

 魔王城の一室で、魔王な女の子が読んでいた本をばんっとこたつの上に置き勢いよく立ち上がった。

「いいこと思いついたー!」

「どうしたんです?」

 魔王に訊ね返した執事な男の子は、壊れた魔術道具を修理しようと悪戦苦闘していて直る気配はまったく見えなかった。

 そんな執事に向き直ると、魔王は嬉しそうに言った。

「私が思いつきでなにも言わずにひょっこりお菓子を買いに行ったり劇を見に行ったら執事くん怒るよね?」

「もちろん注意しますけど」

「それは私が魔王だからだと思うの」

「……つまり?」

「私が魔王じゃなければいいんだよ! そしたら遊びたい放題ー!」

 高らかに言う魔王に、執事はぎょっとした視線を向けた。

「な、なにを言ってるんですか!」

「つまりね、新しい魔王を立てて、私が補佐をするの。影の黒幕みたいな。そしたら今の体制は維持したまま好き放題できるはずー」

「……滅多なこと言わないでください。だいたいだれを傀儡にするつもりですか」

「シャティちゃん」

「やめてあげてください本当に。ただでさえ目立つの苦手なんですから」

「えー」

 わずかに頬を膨らませると、魔王は座りなおしてまた本を読み始めた。

 本気で言っていたわけではないのだろう、と執事は安心した。そして魔術道具はそれから数時間直らなかった。

実権の話。

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