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かわいいけど

 魔王城の魔王の私室で魔王な女の子がちっちゃな手に本を持ち、かわいらしい声音で言った。

「昔々あるところに心優しくかわいい少女がいました」

「……急に語り始めましたけど、どうしたんです。昔話ですか?」

「少女は日々を幸せに暮らしていましたが、ある日のこと、田んぼで鳥が遊んでいるのを目撃しました。何匹も飼育されているアイガモたちです」

 魔王は楽しそうに、感情をたっぷりとこめて語る。

「少女は言いました。かわいいですねって」

 執事な男の子はもはやなにも言わずおとなしく魔王の話に耳を傾けた。これも仕事の一環だろう。

 魔王は開いた本のアイガモの挿絵を執事に見せながら話を続けた。

「少女はしばらくのあいだアイガモたちを眺めて愛でていました。少女の友達は言いました。アイガモさんたちは雑草や害虫を食べてくれるんだよー」

「なんだか一瞬で昔話の感じが消えたというか、特定の誰かが思い浮かんだんですけど」

「あとアイガモさんは最終的に食事用のお肉になるねー、とその友達は言いました。それを聞いた少女は、おいしそうですね! って笑顔で言いました。ふたりはアイガモのお肉に思いをはせたのでした。おわり」

「その少女、きっとシャティですよね」

「そうだねー」

「おいしそうって言ったんですか?」

「うんー」

「……魔王様はともかく、シャティが?」

「なんかすごく失礼なこと言われてる気がするー。シャティちゃんだって鳥のお肉ぐらい食べるよ」

「そりゃあ食べるでしょうけど……」

「そして今日の夕ご飯には鴨肉が出てくるの。楽しみー」

 魔王は嬉しそうに言った。

 なんでこんな話をしていたのか、ようやく執事は納得した。

「……ところで、シャティを友達枠に含めていいんですか? 部下ですよね?」

「私は国民みんなのことを友達だって思ってるよ?」

 きょとん、としてから魔王は首をかしげた。

合鴨の話。

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