悔しがる
魔王城の一室で魔王な女の子に、
「これ持って行ってあげて」
と頼まれたので、執事な男の子はよっこらせと魔土を抱えてルリエラのもとに向かっていた。火山地帯から魔法の花を持ち帰り、花を欲しがっていた鍛冶屋の親方に渡した数日後のことである。
魔土を受け取り火山地帯での話を聞いたルリエラは、ひどく悔しがった。
「なんだってのよ! ああもう、そういうことならあたしも行きたかったのに! いつもいつもこの執事と役立たずのメイドばっかり!」
魔物を作る仕事があるからルリエラは置いて行かれたのではないかと思ったが、執事は黙っておいた。メイドのシャティが役立たずかどうかということに関しても、反論しても火に油を注ぐような結果になるだけだろう。
黙っていたからといってルリエラのいきどおりがなくなるわけではなかったけれど。
ぐにぐにと魔土をこねながら、褐色肌の少女は告げる。
「だいたいあのメイドは昔っから気に入らなかったのよ。なんであんなやつが……っ」
「……なにか、因縁でもあるんですか?」
執事が恐る恐る聞くと、ルリエラはぎらっと目を光らせて答えた。
「あの女だけよ! 魔王様が直接連れてきてこの城で働いてるのは! 料理人のおっさんから採用されたあんたはどーでもいいとしてっ。むかつく!」
言いながらルリエラは魔土をぐしゃっと潰す。ルリエラや料理人たちは先代魔王の時代から魔王城で働いている。彼女はシャティが魔王にとって特別のように思えて気に食わないのだろう。
あー、と執事は納得しつつ告げた。
「ですが、悪い子ではないので」
「いい子だろうと悪い子だろうとむかつくものはむかつくんだってぇーのよ。ちっ。このむかつきを晴らしてやらなきゃ気がすまないわ。執事、あんたなにかあのバカメイドに嫌がらせしてきなさいよ」
「お断りします」
「役立たず! せめてなんかいい案ないの。あの子が嫌がりそうな」
「…………たぶん普通に話しかけるだけでも大迷惑だと思いますよ」
「そんなんであたしの気が晴れるか、この馬鹿! ……いや」
しゅばばばとルリエラは迅速に魔土の形を整えると魔物を作り上げた。
「たくさんの魔物を作り上げてシャティにまとわりつかせれば、面白いことになりそうよね」
「たぶんルリエラさんが魔王様に怒られますね」
「中止。中止」
あっさりとルリエラは悪だくみを撤回する。作った魔物をぽいっと。
一時の感情に振り回されているだけで、ルリエラがそこまでシャティのことを目の敵にしているというわけでもない。むしろ生暖かい目で見守っているぐらいだ。
「くぅ、昔に戻りたい……魔王様が君臨することを当時は無邪気に喜んでたけど、魔王様が魔王様になる前があたしの一番幸せな時期だった……」
「……どんな時期です?」
「魔王様と毎日楽しく過ごしていた日々よ! そりゃあんたは知らないでしょーけどね、魔王の座を継ぐために頑張っていた魔王様はそれはもう可憐だったわ」
「へぇ……。それはそれとして、今でもほぼ毎日なにかと理由を作って魔王様に会いに来てますよね。ルリエラさん」
「たんないのよ!」
ルリエラは魔土をこねてかわいらしい魔王の人形を作るとぎゅーっと抱きしめた。当然のように器用だった。
シャティにぎゃふんと言わせたいルリエラの話。




