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 魔王城の調理場。料理人のいない時間帯。

 その部屋の中をこっそりのぞき込んでいる魔王な女の子がひとり。

 忍んでいる魔王の視線の先には、まな板と向かい合っているメイド少女の姿があった。いつもと違ってゴーグルをしている。そして、その手にはなんだか危なっかしい手つきで包丁が握られていた。

 あまり深くは聞いていないが魔王城に来る前はどのような形の生活をしていたのだろうか、と魔王は思った。包丁とか使う習慣はやはりなかったのだろうか。

 まな板の上に置かれているのは玉ねぎだ。メイドのシャティが片手でその玉ねぎを押さえ、ぐっと魔王は身を乗り出した。そして声をかけられた。

「なにをしてらっしゃるんですか……?」

 声の主は偶然通りかかったらしい執事な男の子だった。彼はきちんと場合をわきまえていて、声を潜めている。

 魔王はいっさい取り乱すことなく答えた。

「シャティちゃんがねー。玉ねぎを切っても涙が出ない方法をどこからか聞いてきたらしくてー。さっそく玉ねぎを切りに来たみたいなのー」

「それは素晴らしいことですね」

 執事が深い気持ちを込めた様子で言った。

 魔王はゆっくりと執事を振り返って訊ねた。

「素晴らしいって、どういう意味でー?」

「他の方たちとコミュニケーションが取れているという意味で」

「シャティちゃんのほうが、執事くんより先輩なんだけどなぁ……」

 魔王はメイドな少女へと視線を戻した。少女は玉ねぎを切りながら泣いていた。

「う、うえーん……あ、あれぇ……どうしてでしょう……涙が……」

 メイド服の少女が、目にかけたゴーグルをのろのろと外した。

 執事は、なにも言わずに眺めている魔王へ訊ねた。

「玉ねぎを切っても涙が出ない方法があったんじゃないんですか?」

「涙を流す成分が目に入るのを、ゴーグルで防いだみたいなんだけどー。鼻から成分が入ってくることは知らなかったみたいなの」

「…………」

「風で成分を飛ばしちゃうといいって話もたまに聞くねー。換気ー」

「ところで……なんでこっそり隠れているのか、というのはまた魔王様の気まぐれなんでしょうけど、いつまで隠れているつもりなんですか?」

「ふふー。シャティちゃん、玉ねぎしか用意してないでしょう? 玉ねぎを切ることだけに意識がいって、切った玉ねぎをなんの料理に使うか考えてないみたいなんだよー」

 魔王は嬉しそうに言う。

「だからねー。シャティちゃんが玉ねぎを切り終わったところで、肉じゃが作ろーって出ていく予定なのですー」

 言いながら魔王はメイドの少女を指さした。

 指さしたその先で、メイドの少女が玉ねぎを口に入れた。

「そのまま食べ始めた!?」

 魔王は愕然とした。

 そんな様子を見て、執事がため息をついた。

玉ねぎの話。

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