エイプリルフール
魔王城の一室で魔王な女の子が、メイドのシャティに向かって気軽な様子で言った。
「そういえばねー。昨日、占い師さんが一輪車に乗って猛スピードで街を走ってたの」
「え、ええっ……?」
「まあ嘘なんだけどー」
困惑するシャティに、魔王はあっさりとネタ晴らしをした。
「世の中にはエイプリルフールっていう風習があったりするの」
かくかくしかじか。
説明されてシャティが小さくうなずく。
「そうなんですかぁ」
「うんー。それでねー、このあと執事くんにも嘘をつきたいなーって。できれば相手があんまり傷つかない嘘がいいねー」
「傷つかない、嘘、ですか……?」
シャティが首を傾げる。
魔王はつい先ほどの出来事を思い出しながら告げた。
「さっきクルールちゃんに死んだふりされたの。最初見つけた時はびっくりしたねー」
「ああ……あの子ですかぁ……」
どこか声に疲れたような色をのせてシャティが言う。
留守の時のために最近作った魔物の子である。ぐいぐい寄ってくるのでシャティはまだ慣れずに苦手にしているようだった。
魔王は言った。
「ルリエラちゃん相手には絶対そんなことしないように言い聞かせて、お城の外へ向かってぶん投げておきました」
「う、うわぁ……」
シャティが驚いたのか、あるいは同情したかのような声を漏らしている。
とにかく魔王は話を続ける。
「というわけで、嘘をつくにしても執事くんが傷ついたり困ったりしないような嘘にしようと思うのー」
「え、えっと、幸せになれるような嘘……っていうことですかぁ?」
「それは結構難しいような気もするけどー……。幸せかー」
あーでもない、こーでもないと話し合って。それから準備をしてしばらく時間が流れた。
執事がやってくる。
「あ、執事くんー」
「どうしたんですか、魔王様。宝箱……?」
部屋になぜか置かれた宝箱を、執事は不思議そうに見つめる。
魔王は宝箱の鍵を執事に手渡した。
「なんだか壊れちゃったみたいで開かないの。執事くんも試してみてー」
「……? わかりました」
執事は素直に鍵を鍵穴に入れ、ひねる。
ガチャリ。
まったく抵抗がなかったことで逆に執事は驚いたようだった。
「…………開いたみたいですけど」
「ふふー。今日はエイプリルフールなんだよー」
「なんていうか、どうしようもなく嘘の内容が小さいですね」
「…………」
なんということもない口調で指摘されて、思わず魔王は口を閉じた。
けれどすぐに気を取り直して魔王は言った。
「ほらほら、宝箱のふたを開けてー」
「あ、はい。ケーキ?」
宝箱の中身にはふさわしくないお菓子の存在に、執事が目を丸くする。
魔王は満面の笑顔を浮かべる。
「えへへ。さっきシャティちゃんと一緒に作ってきたの。普段のお礼にと思って」
執事くんいつも頑張って働いてくれてるからー、と感謝の気持ちを向ける。
魔王の言葉に執事は面食らったようにしていたが、しばらくしてから言った。
「ええと、その……ありがとうございます」
「こちらこそー」
エイプリルフールな話。
次回で最終話です。




