小さな大きな
魔王城の図書室で魔王な女の子は椅子に座ってくつろいでいた。
さきほどまで本を読んでいたのだが、途中まで読んで休憩に入ったのだ。
図書室に同行してきた執事な男の子は、せっかくの機会だからと勤勉にも本の整理や掃除を始めている。
メイドのシャティには魔王から、ふたりも掃除している中で本を読むのは寂しいからと言って、本を読むことを強要してある。今日はちゃんとメイド服姿のシャティは、色彩豊かな絵がたくさん載っている本を、目を輝かせて読んでいるようだった。
魔王が近づいていって本をのぞき込むと、それは動物の本だった。
「おもしろいのー?」
「は、はいっ。えっと、そ、その……可愛らしくていいですよね……。ほら、このレッサーパンダなんて、実に愛らしくて」
「ふーん……。そういえば、ずっと気になってることがあるんだよね」
「な、なんでしょう……?」
顔が近いからなのかおどおどとしながら、シャティが訊ねてくる。
「レッサーデーモンとかグレーターデーモンとかいるじゃない、悪魔の種類分けで」
「は、はいぃ」
「でも、レッサーエンジェルとかグレーターエンジェルとかってあんまり聞かないなぁって」
「それは……ええと、でもぉ、その……」
なにか言いたげな様子のメイドが、ちらっと魔王を見る。
「どしたのー?」
「あ、あの……レ、レッサーエンジェルだったら、私でも勝てそうかなって!」
ぐっと拳を握って言うシャティに、思わず魔王は噴き出した。
「あははー。そうだね。レッサーエンジェルだとすっごい弱そうだよね。実際、レッサーデーモンとかあんまり強くないけど」
「ま、魔王様の手にかかればそれはそのぅ、ど、どんな魔物でも……」
「そうだけどー」
魔王は自分の強さを否定しないまま、動物の本に目を向けた。
「でも、レッサーパンダもかわいそうだよねー」
「……ど、どうして、ですか?」
「もともとただのパンダって呼び名だったらしいのに、レッサーパンダなんて呼ばれるようになっちゃって。ジャイアントパンダは普通にパンダって呼ばれてるのに……」
「そ、そうなんですか?」
「そうなんだよー。ところでシャティちゃん」
「は、はいっ」
びくっとするシャティに、魔王は言った。
「動物の姿を愛でてるだけで、実は文章読んでないでしょー」
「え、ええええええと、あのその……」
悪いことをしているわけでもないのに、シャティはとってもうろたえた。
パンダの話。




