私のおかげ
昼下がり。
魔王城にある魔王な女の子の私室。こたつなどの置かれているその部屋で、魔王は膝を抱えるようにして椅子に座り、新聞を読んでいた。
時折目をわずかに大きく開いたり、不快げに歪ませたり、ころころと表情を変えながら、しかし怠惰な様子で文字を読み進めていく。
おやつを持ってきた執事な男の子が、こたつの上へ魔王の食べやすいように準備をする。
魔王がぴょんと跳ねて、こたつの上に降り立った。振動も音も立てずに、現実味のない着地の仕方だった。
ぎょっとした執事が見上げる前で、新聞紙を片手に持った魔王は威厳とともに言葉を告げた。
「魔族との戦いに勝利できたのは我が国の知略によるものである!」
もちろん執事はぽかんとした。
「あ、あの……」
「というようなことを、言った人がいたみたいなんだけどー」
ふっ、と魔王は凛とした表情を崩した。
執事は戸惑いながら訊ねた。
「我が軍が、負けたのですか?」
「焼き芋あったじゃない」
「ああ、カロンさんが焼きすぎて山火事になって撤退することになったとかいう……」
「うんー。それで、魔族を撤退させたのは私の力だーっていう国に対して、別の国とかが猛反発したんだよって新聞に書いてある。人間の国っていっつもいがみあってるもんねー」
「魔王様」
「なあにー?」
「こたつから降りましょう」
「…………。はーい」
すごすごと下に降りてこたつに入ると、新聞紙を横に置く。
執事が気を取り直してカップに飲み物を注ぐのを眺めながら、魔王は言う。
「もしもー……人間たちがいがみあいをなくして、手に手を取れるようになったら。いつか、魔王軍も危ないのかなー」
「……そんな日は、きっとこないでしょうけどね」
「あははー。こんな記事が出てるうちは安心だねー」
ほほえみを浮かべながら、魔王はお菓子を食べ始めた。
新聞記事の話。




