試合
魔王城の城下町でテニス大会が開かれていた。
太陽は燦々と輝いて会場を照らし、穏やかな風が垂れ幕を揺らしていた。さっきまでは。
魔王な女の子が観客席に座ってテニスを眺め、執事な男の子が傘を両手で支えて女の子を日差しから守っていた。たぶん業火に焼かれても無傷なんじゃないかというような魔王を、日差しから守ることに疑問を抱きながら。
そして今は、無駄に頑丈で壊れない傘が暴風に吹き飛ばされないよう押さえつけることに必死だった。
テニスコートの中で、燃え盛る炎が太陽よりも熱を周囲に放出し、吹き荒れる風が観客たちをあおっている。
このテニス大会の特別試合。
「カロンくんもシュ……くんも、やる気だねー」
四天王のふたりが迫力の試合を繰り広げている。風の四天王が操る魔術によって不可思議な軌道を描いたボールが、怪力を持ち味とするカロンを翻弄しながらコートに突き刺さる。
15-30。
「魔術って、使って、いいんですか?」
「気にしなーい、気にしなーい」
魔王が朗らかに言う。
「そういえばねー、さっき係員さんから聞いたんだけど。なんでテニスが、0から15、15から30とかって点数が増えていくのか」
「どうして、だったん、です……? おっと」
風が止んで、執事が体勢を立て直す。
魔王は言う。
「分かんないって!」
「…………。えーと」
「なんか、いくつも説があるらしいよー。昔のことだから、このまま分からないままなのかもしれないね」
ふたりの見ている先で、カロンがサーブを打とうとした。
放り上げたボールが、風の四天王の魔術によってとんでもない方向に流れていって落ちた。
執事は呆れを込めて言った。
「さすがにあれはひどいんじゃないですか?」
「……そうかもねー」
テニスな話。




