グラタン
魔王城の一室で、魔王な女の子がちっちゃな手でスプーンを握ってグラタンを食べていた。
出来立て熱々なので普通なら食べられたものではないはずなのだが、そこはさすが魔王というべきなのか平然と食べていた。
以前かき氷を食べていた時はつめたーいとはしゃいでいたので、その場の気分で感じ方を変えているのかもしれない。そんなことを執事な男の子は思った。
にこにことしながら黙々と魔王はグラタンを食べていたのだが、急に、はっとした様子で顔をあげた。
「執事くんー」
「なんでしょう、魔王様」
「バルジって、なんだっけー……?」
「……バルジ?」
「バルジ」
繰り返す魔王の口の端に、グラタンのクリームがちょっとだけついていた。
わざわざそれを指摘することもなく、執事は告げた。
「たしか、ふくらみとかそういう意味じゃなかったでしたっけ」
「ふくらみー?」
「船とかにふくらみがあると、沈みにくくなるらしいですよ」
「そうなんだー」
「それで、バルジがどうしたんですか?」
執事の問いかけに、魔王は唇を尖らせた。
「急に思いついたの」
「バルジをですか?」
「グラタンにかけたらおいしいかと思って」
「…………」
「なにか別のもの、だったみたいー」
「ちなみに、どのようなものを思い浮かべていたんですか。印象では」
「粉……チーズ的なー?」
そんなことを言う魔王の手元では、まだまだ熱々らしいグラタンの表面がこぽこぽとふくらんでいた。
ふくらみの話。