報告と
「魔王、だと……!」
王の驚きの言葉とともに、謁見の間がざわめく。
当然、疑うような意見も出たが。
「いや……」
王がそれを押しとどめた。
「……近寄りがたい威圧感を感じたと、兵士たちからも報告があった。なるほど、勇者の言うことは本当のことなのかもしれん」
鋭い目つきで、王が言う。
「魔王を倒すことはできなかったのか?」
「刃が通りませんでした」
「なに?」
「相手の油断をついて一撃を入れましたが、魔王の肌に聖剣の刃が通りませんでした。魔王というだけあって、並大抵の魔物よりも頑丈なようです」
「…………」
どよめきはなかった。信じられないのか、信じたくないのか、ひそひそとした静かなささやきが周囲に広がる。
王が視線を横に控える男に向け、男がそれに対してうなずく。なにかしらの確認をとったらしいが、その内容は分からない。
「……そうか。とにかく、勇者が無事でなによりだ」
そのいたわりの言葉は、ラウルが身につけていた貴重な装備が失われずに済んでよかった、という程度の意味合いだったのかもしれない。
それから王はラウルに向け質問を続ける。
「だが、魔王がいたとしてなぜ今回に限って魔王が出てきたのだ?」
「……自らの側近に戦場を見せることが、目的のひとつだったようです」
ラウルが答えると、王は考え込む様子を見せた。
「側近だと……? それは、どのような魔族だったのだ?」
「見た限りでは、魔王のそばには召使いがふたり、強力な魔物が一匹、それと戦闘能力も持たないような小さな魔物が何匹かいました。その中のどれかでしょう」
「であれば、その強力な魔物とやらであろうな。どのような魔物だったのか述べよ」
ラウルは正直に、鶏の声で鳴く二尾の獣について知る限りのことを言った。
本当の側近は小さな魔物たちなのだと、魔王はペットを連れて遊びに来ただけなのだと言ってもどうせ誰も信じはしなかっただろう。
魔王と戦った後、彼女が手をかざすと真っ二つになったはずの魔物が元通りに動き出した。魔族にとってはあの争いは遊びに等しいような、なんでもないことだったのだ。そのことまでを、王に伝えることはできなかったが。
どうにか無事に責任を回避して謁見が終わり、数日が経つと勇者が魔王に一撃を喰らわせたと街中で噂になっていた。その噂が次第に、魔王は重傷を負い撤退したという話になるにしたがって、ラウルは人の認識がいかに適当かを理解せざるを得なかった。
聖剣などの装備を国へと返還し、魔族の土地へまた侵攻することがあれば必ず参加するという約束をさせられて、ラウルは旅に戻った。魔王に負けない力をつけるための修業のためであり、人々が語る魔族の悪逆非道について調べるためでもある。
魔族の仕業ではない、という証拠を見つけることは難しかったが、確証のない話も多かった。
そんなある時、ある国で、ラウルはとある研究をしているという施設に招待された。魔王と戦ったことのある勇者に意見を聞きたい、ということのようだった。魔王との戦いについては、あの侵攻を主導した国が積極的に噂を流しているらしい。
魔族との戦いに関係する研究と聞いて、ラウルはとても興味をひかれていたが、一方で胡散臭いものも感じていた。国家機密を扱っているという割に、その施設は僻地にあったからだ。
実際に訪れると、巨大な施設が武装した多くの人員で警備されている。重要な研究を行っているというのは嘘ではないらしい。
研究員に連れられて通路を歩く間に、ラウルはいくつか戦場の話をした。研究員は話を聞いて興味深いと言い、魔物や魔族の能力への対処法を考えていた。
「そろそろ……です」
しばらく歩いていると、研究員が告げた。通路の角を曲がり、建物の中でも大きく開けた場所に出る。
そして、ラウルはそれを見た。
この施設の研究内容。
「これこそ、魔王に並ぶとされる最強の生物……です」
「…………!」
ラウルは見上げたその巨体に、思わず息をのんだ。
勇者の話のエピローグな話。