パイン
魔王城の一室で、長身ですらりとした男が人気菓子店の箱をこたつの上に置いた。
「どうぞ。ルブルールの新作をお土産に持ってきました」
「わーい! あ、ケーキだケーキー」
いそいそと魔王な女の子が箱を開け、中に入っていたパイナップルの飾られたケーキに歓声を上げる。
嬉しそうな魔王とは反対に、執事な男の子はじと目で言った。
「長期間遠くに旅行に行ってたのに、なんで持ってきたものが近所の菓子店のケーキなんですか」
「ふっ……お土産というのはね、もらう人に喜んでもらってこそ意味があるものさ」
「旅行したその土地の特産物を持って帰るからこそ、お土産って言うんだと思います」
「それは見解の相違というやつだね。はっはっは」
「…………」
シュビルアーゼスケルロステムハイロアン――シュビルはきざな様子で笑っている。
執事はあきらめて、食器を取りに歩き出した。魔王がケーキを食べたくて、今か今かと見えない尻尾を振って待っている。尻尾など実際にはないが、架空の尻尾が本当に見えそうなほどの様子だった。
戻ってきた執事がケーキを皿に載せフォークを差し出すと、魔王は甘いため息を吐いてからケーキを食べ始めた。
「おーいしー!」
魔王がフォークを強く握りしめたのを見て、執事は眉をひそめた。あとで予備のフォークと交換しておいた方がよさそうだ。
魔王の口元のクリームを拭いてから、執事は四天王に問いかけた。
「なにやら作戦を練るために旅行に出たと聞きましたが」
「ああ、そうだとも」
「成果は?」
「ふっ。心配しなくても、魔王様のご期待には背かないさ」
シュビルはどこか遠い目をした。旅先の風景を思い出しながら、
「とある地方では昔から落雷が多く、その地の魔族たちによって雷の精霊が信奉されていた」
「はあ……」
「このシュビルアーゼスケルロステムハイロアンがその地にたどり着いた時にも、ちょうど落雷が樹木を直撃したらしく炎が燃え広がり、それはそれは綺麗だった」
「嬉しそうに言うことじゃないです」
「そうかい?」
「そうですよ」
「ま、カロンのような粗雑な破壊と違って、大自然の神秘というものを感じたということさ。そして面白い話を聞いた」
「面白い話ですか?」
「そうとも。あまりにも火災が起きるからそれに適応した植物の話さ。樹皮を厚くして火災でも生き残ったりとかね」
執事は驚きながらシュビルを見る。
魔王は一心不乱にケーキを食べている。
「たとえばこのシュビルアーゼスケルロステムハイロアンが行った土地に生えていた松の木などは、火事の熱に反応して実が開き種子を周辺にまき散らすらしい。他の植物がいなくなった焼け野原でゆうゆうと成長するわけだね」
「それはすごいですね……」
「そうとも」
笑みを浮かべるシュビル。
執事はうんうんとうなずいて、それから訊ねた。
「で、作戦にどうつながるんです」
「…………」
「作戦はどうしたんですか」
「はっはっは」
「さーくせーんはー」
執事が詰め寄り四天王が目をそらす横で、
「パイナップルおいしー!」
魔王はご満悦だった。
パインの話。
シュベル……なんだっけと四天王の名前を思い出せなかったので、前話に戻って名前をコピー。シュベルですらありませんでした。