戦場
魔族を倒すための戦いは、はるか昔から様々な国で幾度も行われている。
魔族の力は決して侮れないものであったが、戦いに勝利して場所を確保し、陣地を築いたこともあった。もっともすぐに魔族側の逆襲を受け、陣地は手放すことになってしまったのだが。
数少ない成功例である侵攻ルートを、勇者を含む軍団は進んでいた。
森林の中を、魔物の襲撃を警戒しながら進むというのは楽だとは言えなかった。だが、険しい山を踏破したり、海を進んでろくに戦えもしない船の上で魔物に襲われるよりはましだ。
魔族の住む領域へ進むには、だいたいそのような厳しい地形を乗り越える必要があった。
そして魔族が襲ってきたのは、森を歩き始めて数日後、兵士たちが疲れ果てた頃だった。
「ちいっ、魔術使いはなにやってやがるっ」
「逃げろぉおおおおお!」
「こいつ、くそっ、硬い!?」
「重傷者だ! 早く癒しを――」
「魔術を弾かれた!」
様々な声が戦場に響き渡る。
それは戦況があまりよくないことを示していたが、そのこと自体は勇者であるラウルにはどうでもよかった。命を懸けて魔族と戦ってくれている仲間なのだから、文句はない。問題は戦わない兵士たちだ。
魔物の大部分は、背が低くずんぐりとした木の人形のようなもので占められていた。それに混ざって大小の鬼のような魔物。あとは何匹か異形の鳥が、空中を自由に飛び回っている。
空を飛ぶ敵は勇者にも手出しがしづらい。今この場は弓兵や魔術使いに任せるしかなかったが、生い茂る木々の葉に遮られ、見えたと思った時にはすぐに視界の外へ消えてしまい攻撃がしづらいようだった。このような状況では魔術よりも弓のほうが戦果を上げやすいということを、ラウルははじめて知った。
勇者に授けられた聖剣を駆使して、彼は次々と地上の敵を切り裂いていく。
鬼たちはともかくとして、人形のような魔物は切った断面から血が出てくるでもなく、倒した実感が薄かった。
魔物が減少し一息つくと、彼は補佐役の男に言った。
「もっと兵士たちがきちんと戦ってくれていれば、被害が減ったと思うんだが」
「兵士たちは必死に戦っていたと思いますが、どういうことでしょう」
「戦っていた者たちはそうだろう。だが、食料などの物資を守るという名目で、戦わない兵士たちが多すぎはしないか?」
「ああ……それは違います。勇者様」
「なんだと?」
「過去の事例を見ると、魔物たちは基本的に物資を奪うことを主眼に襲撃を仕掛けてくるのです。食料がなければ我々は撤退するほかありませんから、正しい戦略なのでしょうな」
「魔物が卑劣なだけさ。兵士たちを臆病者扱いして、申し訳ないことをした」
その時、兵士たちの悲鳴が聞こえる。魔物との戦いで窮地に陥ったらしい。
すぐさまラウルはその場に駆けつけると魔物を倒したのだが――彼を背後から攻撃したのは、味方のはずの兵士だった。
勇者たちと魔物の戦いの話。