持っているもの
孤児院にいた子供との約束を果たすために野球の試合でホームランを打った次の日。
孤児院はその日のために急いで建てたものだし、子供は雇っただけでようするに全部やらせだったけれど、とにかくひととおりやり終えて魔王な女の子は満足したようだった。
ちなみに魔王がたやすく毎打席ホームランをかっ飛ばしたので、約束を守ってくれたんだ! みたいな感動は皆無だった。真剣に試合にのぞんだ相手チームのピッチャーは、あまりのひどさに精神的に崩れ落ちていた。あんなことができるのは魔王ぐらいなものなので気にする必要はないと思う。
とにかくそんな次の日。
城へやってきたお店の魔族とほしい服の方向性などを話し合ったりしたあと、魔王が言った。その頭上には魔王が親衛隊と呼んでいるちっちゃい魔物のうちの一匹が、だらんと手足を伸ばして乗っかっている。
「ねえねえ執事くんー。アトリビュートってなんだっけー」
「アトリビュート、ですか?」
「どこかで聞いた気がするんだけどー」
「……そもそもどこから出てきたんですか、その言葉」
「なんとなく思い浮かんだの」
「そうなんですか」
「そうなのー」
執事はすこし虚空を眺めて考え込んだ。
それから、ややたどたどしい口調で言う。
「ええと、たしか、属性、とかシンボルみたいなことだったと思います。神様を象徴するようなアイテムみたいな……」
「おー。じゃあ、今度お祭りでやる神様の、魔術を感知する腕輪とか魔法の記された書物とか、そういうのなんだねー」
「そうですね。どちらも魔法をつかさどっていることを象徴したアイテムですから……」
「なんかいいよねー。そういうのー。私を象徴するようなアイテムとかないかなー」
そんなことを魔王は言って、きょろきょろと部屋の中を見回した。
だったら頭上にあるものでいいのではないかと執事は思い、視線を感じたのか、魔王の頭上のそれは首をかしげた。
アトリビュートの話。