耳
魔王城の一室で魔王な女の子が、色の地味なパンフレットを眺めていた。
執事な男の子がそのパンフレットに目を向ける。
「どうしたんですか、それ」
「えへへー。今度、劇場でミュージカルをやるんだってー。王様の耳はロバの耳ー。シャティちゃんがパンフレットをもらってきてくれたの」
「シャティが……?」
「押しつけられてきたと言い換えてもいいけどー」
「なるほど」
あっさりと納得した執事に魔王は苦笑する。
それから歌い始める。
「王様の耳はロバの耳ー。ミュールジカの耳はラバの耳ー」
「ミュールジカ、ですか?」
「うんー。ミュージカルとミュールジカってなんだか似てる気がするよね。ミュールジカっていうのは、耳がラバに似ている鹿なんだよ」
「そもそもラバもよく分かりませんけど……」
「んー、ロバと馬を掛け合わせた生き物」
魔王は手を耳に当ててぴょんぴょん飛び跳ねる。
その様子を眺めてから執事は訊ねた。
「もし魔王様の耳がロバの耳になったら、どうしますか?」
「自分で髪を切る!」
魔王は言い切った。
そして、
「でも、別にロバの耳を隠す必要ないよねー。人間じゃあるまいし。耳の形が変わっただけだもん。ロバの耳だって可愛いよきっと」
執事はロバの耳をした魔王を想像してみた。
そして言った。
「隠しておきましょう」
「なんでー?」
「ルリエラさんが興奮して面倒なことになりますよ」
「……そうだねー」
ミュールジカの話。