因縁
魔王な女の子はたたたたっと走り、怪盗の歩いている庭へと向かっていた。
後ろからはメイドのシャティがついてきていて、さらにはちっちゃな魔物たちがぞろぞろ。魔物たちは種類によって速度がまるで違うため、間が空いて列が長くなっていた。
ふと魔王は速度を緩め、その魔物たちをちらりと見た。
少し考えてから、彼女は言った。
「シャティちゃん、お願いがあるの」
「は、はい」
「もしも……というか、たぶん戦いになると思うんだけどー。危なくなったら親衛隊を守ってあげてー」
魔王が親衛隊と呼ぶちっちゃな魔物たちには、ほとんど戦闘能力がない。だからこそ前線に送るでもなく城に住まわせているのだ。
走り慣れていないシャティは頑張って魔王の後を追いながら声を出す。
「あ、あの、でもっ、魔王様がすぐに怪盗さんを倒せばいいのではっ」
「それはちょっと、難しいかなー」
「えっ」
魔王は残念そうにむーっとうなっている。
シャティは訊ねた。
「あ、あの、もしかしてなんですけど、ま、魔王様は怪盗さんに会ったことがあるんですかぁ?」
「あるよー」
「た、戦ったことも……?」
「ぼっこぼこにされたねー」
そして庭にたどり着く。
その頃には後ろについてきている親衛隊の魔物たちも少なくなっていたが、そのうち時間が経てばやってくるだろう。
メイド少女は不安そうに言った。
「わ、私、魔王様がぼこぼこにされるような相手から、魔物たちを守る自信ないです……」
「うーん、たぶん親衛隊に攻撃を当てないように配慮はしてくれると思うよー」
庭にはふたりの魔族がいた。
ひとりは怪盗。ボーイッシュな銀髪の魔族で、白いシャツに黒のベスト、そしてズボンといった装いだ。美少年然とはしているものの、女の子らしい柔らかさが見て取れた。
そしてもうひとりは怪盗の従者で、メイド服を着た長髪の魔族。怪盗よりもはっきりと背が高い。女性にしか見えないものの、たしか男性だったはずだ。
「ひさ――」
「見つけたよー。怪盗は捕まえて、盗んだものを全部返してもらうからねー。ふふー」
びしっと魔王は怪盗を指さす。
言葉を遮られた形になった怪盗は一瞬きょとんとしたものの、高らかに笑い声をあげた。
「はははははっ、面白いじゃないか。だが探偵くん、君にボクが捕まえられるかな」
「今度こそやっつけてあげるもんー」
「そうかい。それにしても魔王城にはかわいい魔物たちが増えたようだね。土の四天王の仕事かな」
「ううんー。私が作ったのー」
「へえ。ボクがしばらく見ないうちに成長したみたいだね」
「えー」
むしろ成長してないからこの子たちが生まれたというかなんというか。
魔王はちょっと目をそらした。
「さて、本当にボクを捕まえられるかどうか試してあげよう」
「よーし。いくよー」
魔王が構えを取ったのと同時。
怪盗の放ったなんらかの魔術が地面に叩きつけられる。
途端に灰色の煙があふれ出して魔族たちの視界をふさぎ、庭全体を覆い尽くした。その中に声だけが響く。
「あははははっ」
怪盗と対面する話。