普通に歩いて
魔王城のあちこちを探し回って、それでも怪盗は見つからない。
物語だと屋上で高笑いしながらマントをひるがえしたりするよね、と思って探してみたものの誰もいなかった。まあ何事もないのに屋上で高笑いを始めるようだとそれは怪盗ではない別の何かだけれど。
そうして魔王な女の子やメイドのシャティ、ちっちゃな魔物たちは屋上から帰ってきて、今度は廊下を調べていた。
「いないねー」
「そ、そうですね……」
受け答えをしながら、シャティはきょろきょろとあちこちを見回していた。
魔王は頑張ってくれているちっちゃな魔物たちを向いて言った。
「怪盗探しが終わったら、またお菓子を買ってきてみんなで食べようねー。がんばろー」
えいえいおー。
魔王が腕を上げるのに合わせて、魔物たちが楽しそうに鳴き声を上げる。
一拍おくれて、シャティもおずおずと小さく腕を上げた。
「お、おー……」
腕を下ろす。
それからまたきょろきょろとあたりを見回して、シャティは首をかしげた。
「シャティちゃん、どうかしたー? もしかして怪盗の痕跡とかー?」
「え、あ、いいえっ。ただ、そのぅ」
「うんー」
「じょ、城内が、きれいだなぁって、思ったんです……」
「いいことだねー」
「それは、そうなんですけどぅ……」
シャティは言った。
「まだ、掃除してないのに……?」
「執事くんがしてくれたとかー」
「い、いえ。ちゃんと割り当てが決まってるので……」
「……そうなんだー」
ふたりが話し合いできるのはいいことだなー、とか思っていた魔王は、はっとした。
「もしかして、怪盗が城を綺麗にして自分の手掛かりを消してるとかー」
「えっ、ええっ」
シャティが驚いたような声を出す。
魔王は汚れのない窓のふちに手をやりながら言う。
「それだったら綺麗な理由も……。……?」
窓の外、庭を眺めながら魔王は言葉を止めた。というより、かすかに動きが止まった。
シャティはそんな魔王の様子を疑問に思いながら、自分も外を見ようと窓へ近づいた。
「あ、あの、どうしましたか……?」
庭を優雅に、ふたりの魔族が歩いていた。まるでこの城が自分の自宅であるかのように。
魔王はそれを見ながら言った。
「怪盗が普通に歩いてるー!」
言葉を聞いたシャティがびっくりしていた。
怪盗発見の話。