探して
魔王城の通路を歩きまわりながら魔王な女の子はあっちこっちで怪盗を探し回っていた。
柱の陰とか、机の下とか、壺の中とか。
新しいホウキをあきらめて掃除をしようと思ったメイドのシャティは、魔王の希望でいまだに一緒についてきていた。彼女は言った。
「あ、あの、さすがにそんな小さな壺の中には入ってないんじゃないでしょうか……」
「そうかなー」
などと言いながら魔王は棚の引き出しを開けて中を覗き込んだりする。怪盗はいない。
シャティは落ち着かない様子で言った。
「そ、そういえば、その」
「なーにー?」
「か、怪盗さんから、お、お手紙来たんですよね。ど、どういうものを盗むとか書かれていなかったんですか?」
「うーん。そういうのはなかったかなー」
「あ、挑戦状は、その、出すのに、盗むものは書いてなかったんですかぁ」
どこかがっかりした様子のシャティはまだちっちゃな魔物を抱えている。なんだか慣れてしまったのかもしれない。
魔王は手紙の文面を思い出しながら言葉を口にする。
「挑戦状っていうより、今度おじゃまするねっていうだけのお手紙だったからー」
「そ、そうなんですか……」
あちこち探したものの、怪盗は見つからない。
魔王は肩を落とした。
「見つからないねー」
「どこにもいないなんてことは、ないんでしょうけど……うう」
シャティがきょろきょろとあたりを見回す。
ふと、思いついて魔王はそんなシャティをじっと見た。そのことに気付いたメイドの少女はびくっとして後ずさりする。
魔王は軽やかに距離を詰めると、腕を伸ばしてシャティのほっぺたを引っ張った。彼女の顔がむにむにと形を変えるのを見上げる。
シャティはなにやら戸惑ったように抗議しているようだったけれど、ほっぺたを引っ張られながらあやふやに言葉を口にしているからなにを言っているのかは分からなかった。
魔王はうなずいた。
「怪盗の変装じゃ、なさそうー?」
「うう……」
シャティは引っ張られた頬を手で押さえる。
魔王はちっちゃな魔物に目を向けた。
「もしかして……」
びくっと魔物たちが体を震わせる。
魔王は首をかしげた。
「ちっちゃすぎるから、違うかなー?」
「で、でもあの」
シャティがおずおずと言った。
「変身の魔術を使えば、その、身体をちっちゃくすることも可能なんじゃ……」
「おおー」
魔王は感心したまなざしでメイドを見た。
だけど。
「あ、でもー。そもそも変装してたら、それこそ魔物たちににおいでばれちゃうかも」
「そ、そういえば、そうですね……」
この中には怪盗はいなさそうだった。
怪盗を探したり変装を疑う話。