戸棚から
魔王城の一室で魔王な女の子が、唇に手を当てながら戸棚を見ていた。
その女の子の後ろにはずらっと、輪を描くようにちっちゃな魔物たちが並んでいる。
魔王は言った。
「置いてあるはずのお菓子が……ないー」
「ぐあっぐあっ」
「めー」
「こけー」
魔物たちが悲しむように鳴き交わしている。思わず身体を丸めていたり、隣の魔物に身体を擦り付けていたりもした。
どこか重苦しい雰囲気が部屋に満ちた。
そして、魔王が振り返る。
「犯人はこの中に――」
「!?」
思わぬ魔王の言葉にちっちゃな魔物たちがざわめいた。
身の潔白を証明するようにそれぞれが必死に鳴き声をあげ、つぶらな瞳などで魔王を見上げる。
さすがに魔王はたじろいだ。
「ご、ごめんねー。言ってみたかっただけー……」
推理小説とかでよく使われそうな台詞だったから。
しかし、お菓子はどこに消えたのだろう、と魔王は首を傾げた。ちっちゃな魔物たちもみんなして首を傾げる。
それからメイドな少女がやってきて、魔王も魔物も全員が首を傾げている状況にびくっと怯えて入り口の陰に隠れた。
顔半分と指先だけ見えているメイドに魔王は訊ねた。
「シャティちゃん、ご用事ー? あ、もしかして」
しなさそうだけど、シャティがお菓子を食べちゃったのではないだろうか、そう魔王は考えた。
メイドのシャティは言った。
「あ、あのその、新しいホウキがなくなってるんですけど、し、知りませんか……?」
「え?」
お菓子がなくなった話。