取り上げる
魔王城の一室で魔王な女の子が本を読んでいた。
「うーん」
「どうしたんですか、魔王様」
首を傾げる魔王に、執事な男の子が問う。
魔王は言った。
「人間の書いた本を読んでるんだけど、共感できないのー」
「……なんだかついこのあいだも同じような言葉を聞いた気がしますね」
「そうだっけー?」
魔王は不思議そうにした。
純粋に疑問の色を浮かべる魔王の瞳に見つめられて、執事は居心地の悪さを感じた。
「ええと、それで、どんなものを読んでいたんですか?」
「それがねー」
はっとして魔王が本に視線を移す。
「悪い部下の倒し方!」
「…………」
「…………」
沈黙した執事が奇妙な表情を浮かべているのを見て、魔王はまた首を傾げた。
執事が言う。
「誰か、倒したいんですか?」
「ううん。悪い部下なんていないもん」
「それならいいんですけど……共感できないというのは?」
「えっとねー。王様がいるのに、部下のほうが実権を握っていたりする場合の倒し方なのー」
「はい」
「礼儀が重んじられる場面にその部下を呼んでね。武器を取り上げておいて、武装した人がずばーっとその悪い部下をやっつけちゃうの」
「うわあ」
その光景を想像した執事はうめいた。
魔王は上下に本を揺らしながら言った。
「でも、共感できないの」
「どういうところでですか?」
「魔族って、武器とかよりも基本的に魔術のほうが危ないからー……」
「それは、そうですね。というか……」
「なーにー?」
「魔王様だったらどんな部下がいても拳ひとつでやっつけられますよね」
「…………そうだねー」
だまし討ちみたいな話。