果物
魔王城の一室で魔王な女の子がにこにことしながらこたつに座っていた。その対面には困惑した様子で執事な男の子も座っている。
こたつの天板の上には、切り分けられた果物がお皿に乗っている。
お皿の横にはフォークがふたつ。
「あの……言われたとおりに座りましたけど、これはいったい」
若干不安をにじませて、執事が問う。
この果物は魔王が持ってきたものだ。
「ふふーん。いつも頑張ってる執事くんにご褒美だよー! 滅多に手に入らない超高級な果物をごちそうします」
とっても自慢そうに言ってから、魔王はフォークを手にする。
「ではいただきます。ほら、執事くんも食べて食べて」
ひょいっぱくぅ、と魔王はその果物の高級さを気にさせない気軽な様子で果実を食べる。
この状況で断るわけにもいかず、執事は正体不明のよく分からない果物をしぶしぶ口にした。
目を見開く。表情が顔に浮かぶのを、執事はどうにか自制した。とっさに自制できたのはおそらく奇跡のようなものだっただろう。
魔王はぱくぱくとすでになん切れも果物を食べていた。
執事はまだまだ残る果物に目を向ける。
「あの、超高級って言ってましたけど、どのくらい……」
「執事くんが一生かかったら払えるかもしれないくらい」
「っ」
執事はぎょっとしてフォークを取り落しそうになった。
「あの、やっぱり魔王様が……」
全部食べたほうがいいのではないかと続けかけたが、当の魔王ににっこりとほほ笑まれて執事は言葉を止めざるを得なかった。
執事も果物を食べていく。
「超高級だけあって、いままで食べたことのない味ですね」
「おいしくないよねぇ」
魔王が直接的な言葉で果物の味を否定した。
自分の味覚がおかしかったわけではないのだと執事が安心している中で、魔王がフォークを置いた。ちょうど半分の量を食べ終わったのだ。
それからしばらくして、執事も残りを食べ終える。
残ったのは妙な沈黙。
「超高級、なんですか」
「うんー。滅多に買えないし、買う魔族もいない超高級品。知ってる魔族も少ないかなー。執事くんの疑問にお答えするために購入しました」
「疑問、ですか?」
「前に執事くんの願いをかなえたでしょー」
「ええ。魔王様がストレス発散のためとか言って暴れて、雲が全部吹き飛びましたね」
「寿命を延ばせって言われたらどうするつもりだったのーって執事くんが疑問だったみたいだから、買ってみました。一か月寿命が延びる魔法のフルーツ」
「!?」
執事が驚いてお皿に視線を向けるが、そこにはもう果汁ぐらいしか残っていない。
「一か月、ですか……」
「そうだよ。でもあんまり採れないから貴重なのー」
「それで、超高級な果物なんですね」
「うん。それに、一か月延びるだけであのお値段だからー。買いたい魔族も少なくって」
「それはそうでしょうけど……魔王様」
「なにー?」
「ありがとうございます」
「ふふー」
延びるフルーツの話。