じゃんぷ
魔王城。
四天王のひとりであるルリエラの作った魔物が列をなして通路を歩いていく。ルリエラの部屋の近くはそうでもないのだが、彼らは飾られた通路を通ることもある。無骨な魔物たちが絨毯を踏みしめ、壺や絵画などが飾られる前を通り過ぎていくというのはどこか不思議な光景でもある。
メイドのシャティがあわてて近くの部屋に駆け込んで縮こまったりしている光景と合わさって、なんだか城が部外者に制圧されたかのようでもあった。実際にはまったくそんなことはないのだけど。
客人との話し合いを終えた執事な男の子が洗濯した衣服を運んでいると、窓の外に訓練場で仁王立ちしているカロンの姿が見えた。戦闘をするために新しい魔物がやってくるのを待っているらしい。
四天王で風をつかさどっている長い名前の魔族は今日も旅行中で魔王城にその姿はなかった。残るひとりの四天王は水をつかさどっているのだが、料理人がその分の食事を作っている様子がないため実は水槽の魚が四天王だったりするのではないかと執事は最近疑っていた。執事が話しかけても魚はまったく返事をしてこなかったけれど。
衣服をタンスにしまって執事が歩いていると、魔王な女の子がなんだかおもしろいこと思いついたというような表情で外を眺めていた。
なのでたぶんまたろくでもないことを考えたのだろうなと執事は思った。
「どうしたんですか。魔王様」
「あ、執事くんだー」
魔王が執事に気が付いて笑顔を浮かべた。
「えっとねー。私ってけっこう頑丈でしょー」
「はい」
ゴーレムよりも頑丈な魔族なんて魔王ぐらいしかそうそういない。
魔王は言った。
「だからねー。階段なんて使わずに飛び降りたら移動が楽なんじゃないかなー」
「子供じゃないんですからそういうみっともないことをしないでください」
切実な思いで執事は言った。
「この国の王なんですから、民に示しがつかないようなことはやめてください。それに……」
「それにー?」
執事は魔王の足元に視線を向けた。魔王が親衛隊と呼ぶちいさな魔物たちがごろごろしている。たまにぷかぷかと宙を浮いている魔物もいたりはするが、そうでないものも多い。
「親衛隊がまねをしたら絶対にケガをしますよ」
「それはやだねー。うん、やめとくー」
魔王がしゃがみこんで、魔物の頭をよしよしと撫でる。
えへへと幸せそうに笑うその姿は、なんだかほのぼのとしていた。
あらためて日常風景の話。