いつわ
魔王城の一室で魔王な女の子がおごそかっぽい雰囲気で言った。
「エピソードが欲しいの」
「エピソードですか?」
問うたのは執事な男の子だった。魔王が急に言い始めたので話についていけない。
魔王はこくんとうなずく。
「物語とか歴史とかだと、その人物を象徴するようなエピソードがあるでしょー」
「そう、ですね」
「敵に塩を送ったりー、険しい崖を馬でおりたりー、三人の英雄との戦いをひとりで相手したりー、くじ引きで将軍に選ばれたりー」
「それで、魔王様もそういう逸話みたいなのが欲しくなったと」
「うんー。私の特徴をとらえたものが欲しいのー」
「どんなのが欲しいんですか?」
「えっとね、かっこいいのがいいかなぁ」
「すでに、魔王城ほどの大きさがある巨大鳥を投げ飛ばした話とかありますよね。魔王様には」
「えー。ただちょっと鳥を投げただけだもん」
「城ほど大きかったらただ投げただけにはなりません。ではたとえば、四天王全員をひとりで打ち倒した、みたいな?」
「四天王を倒しても自慢にならないもん」
「いや……まあ」
「うーん。なにかないかなー」
「……歴史上の人物の逸話って、後世で語られるような気がしますし。あきらめたほうがいいのでは。少なくとも自分で作ろうとするのはなにか違う気がします」
「えー」
特徴的な話。