マント
魔王城のまったく使われることのない見張り台から、魔王な女の子が落ちていた。そしてあっという間に地面に激突した。
まったく関係なく離れた場所で仕事をしていた執事な男の子は、激突音を聞いて様子を見て、倒れ伏す魔王の姿を見つけて慌てて駆け寄った。
「魔王様、ご無事ですか!? いったいなにが……」
「うう、失敗したー」
もちろん無事だった魔王は、身にまとっていた白い布に包まれながらむくりと体を起こした。
執事は安堵しながら訊ねた。
「なにがあったんですか?」
その言葉に、魔王は見張り台の上を指さす。
「あそこからねー」
「はい」
「飛び降りようと思ったら落ちちゃったの」
「え?」
執事が疑問の声をあげる。
それは当然のことだったので、魔王は言い直した。
「このおっきなマントを使って空を飛ぼうと思ったのー。ほら、あの動物みたいに!」
「マントじゃなくてベッドのシーツのように見えますけど……」
「あの動物みたいにー……えっと、なんだっけー」
むむむむ、と魔王は眉間にしわを寄せて考え込んだ。
それからどうにか言葉をひねり出して言う。
「そう、マントヒヒみたいにー」
「もしかして、ムササビやモモンガみたいなのと間違えていませんか」
「うん、それだねー」
素直に魔王はうなずいた。
マントヒヒはサルの仲間だった。たぶん空は飛ばない。そしてムササビたちはリスの仲間で、滑空するための飛膜を持っている。
ちっちゃな魔王が地面の上にしっかりと立って、大きく手を広げると、両端を握られた白い布がそよ風に揺らいだ。その布の端っこは少し汚れている。
魔王はにっこり笑顔で宣言した。
「じゃあまた挑戦してくるねー」
執事があきれてなにも言えずにいる間に、魔王はたったか走り去っていった。
とても楽しそうな様子だった。
ムササビの話。