霊
魔王城の一室で魔王な女の子がこたつに入り、具材たっぷりのラーメンを食べていた。そんなのどかなお昼のことである。
比較的知性のある魔物からの報告書を持ってきた執事な男の子が、その書類をこたつの上に置くことを諦めて近くの棚の上に置く。こたつにも書類を置く場所の余裕くらいはあったのだが、ラーメンのスープが書類に飛び散ってもたまらない。
そんな執事を見て、魔王が言った。
「そういえば執事くん。人間たちの国のひとつで暴動が起きたらしいよー」
「暴動、ですか」
「なんでも昔占領した場所のひとつで、住民たちをだいぶ無理やり働かせてたらしいんだけどー」
「ああ、魔族と和解しようとかそういう暴動ではないんですね」
「ないねー。それでね、すごい霊能力者がいたんだって」
「死霊を操る、とかですか?」
「んー、なんかその土地のすごい有名な過去の人と話したらしいよ」
もやしをぱくぱくと食べ飲みこんでから。
「で、このまま支配されていてはならない。反旗を翻すのだ! みたいなことを告げられたんだってー」
「それは……まあ、実際にそういうことがあれば、暴動もありえるかもしれませんね。しかし、霊能力者なんですよね?」
「うん」
「それってつまり、霊を操って無理やり言わせている可能性もあるんじゃ……」
「そもそも本当に霊がいるかどうかも分からないけどー。それでね、剣で斬られても効かない魔法道具を作って暴動を起こしたんだって」
「それはすごい……ですよね。斬られても平気だなんて。弓矢とかはどうなんでしょう」
「そこまで万能だったら、とっくに国が転覆してると思うなー。剣限定ならうちにはあんまり影響ないし、気にする必要ないと思う」
「剣を使うとなると……それこそスケルトンとかですか」
「そうだね。魔王軍のスケルトンは別に幽霊とか関係ないけど」
「そうなんですか?」
「ルリエラちゃんの魔力と反応して発生した疑似人格だからー」
そんな話をして、しばらくしてからラーメンを食べ終わる。
執事がふと気づいて魔王に訊ねた。
「そういえば、魔王軍はその暴動に乗じて攻め込んだりしないんですか?」
執事の言葉に、魔王は不思議そうに首を傾げる。
「……暴動が起きてるところに略奪しても、実入りは少ないと思うよ?」
「…………」
「それにー。シュなんとかくんいないしー」
「まだ観光旅行してるんですか。あのかたは」
人の国の暴動の話。