あわあわと
魔王城の一室で魔王な女の子が、壊れた楽器を前にしてうなっていた。
「慌てた時ってあわあわとか、あわわわとか言ったりするよね。慌てるのあわからきてるのかなぁ」
とか言ってみたりもした。
そんなこと分かるはずもなく、そして興味もなかった執事な男の子は、壊れた楽器を見ながら訊ねた。
「どうしたんですか、それ」
「ルリエラちゃんの作った魔物の集団が勢いよく魔王城の通路を歩いていったらしくてー」
のんびりと魔王は言う。
「それを見たとあるメイドが慌てて近くの部屋の物陰に隠れようとしたんだってー。そしてその背中に楽器が当たってどんがらがっしゃんと」
「……僕のほうからあの子に注意する必要はありますか?」
「ないねー。楽器を壊しちゃったことにも慌てて、かわいそうなくらいだったしー」
「シャティさんも、もう少し落ち着きを持ってくれると嬉しいんですが……」
はぁ、と執事は仕事仲間の働きぶりにため息をつく。
そんな様子に魔王は苦笑する。
「分かってると思うけど、執事くんのほうが後輩だからねー」
「それはそうですけど。ところで、この楽器はどうするんですか」
「捨ててきてー。あとね、同じのを補充しておいてほしいな」
「分かりました」
執事は了解して楽器を手に取り、ふと気づいた。
「この仕事をシャティさんに頼んだりはしなかったんですね」
「よろしくねー」
「…………」
慌てるの話。