食べる
魔王城の敷地内で魔王な女の子と、そして魔法の指輪に取りついている幽霊みたいな半透明の影が話し合っていた。
執事な男の子の持ってきたお菓子を魔王は時おり口に運んでいて、影にもお菓子を勧めたものの当然のように食べられないようだった。
影はどうしても魔法の力を身につけたいので、訓練したいと言い張っている。
だが魔王としては、危なそうなので許可できない。とにかく平穏無事で無難にこの状況を収めたいところだが、どうしようもなければ魔王として力技にでるしかないだろう。国のためだからしかたない。
影が言った。
「周囲に危険が無ければいいのだろう。山の上で訓練するというのはどうだ」
「山が崩れたり火山が噴火したりしそうだからだめー」
「ぬぅ」
影がうめく。
魔王もいくらか考えてみた。
「いっそもう肉体がないんだから海の中……、は訓練の事故で海が汚染されたりしたらみんなに怒られちゃうねー」
「誰も住んでいない場所はないのか? そこならば迷惑になることもないはずだ」
「人間じゃあるまいし、そんな場所ないよ。海には海の魔物や魔族が住んでいるし、山には山の、森には森の、草原にもお空だってー……。マグマの中で生きてる魔物がいるくらいだもん」
「それは……いや、それだ!」
「どれー?」
強い勢いで言われて、魔王は首を傾げた。
影は半透明な姿のまま大きく身振りして言う。
「どこか遠くの人間の国で訓練を行えばいい! 誰にも迷惑はかからないはずだ!」
そーかもしれない。
魔王はそんなことを思いながら黙り込み、考えてみた。そして首を横に振る。
「指輪とか魔法が暴走してどんどん力を強めていったとき、遠いと弱いうちに対処できなくて危ないしー」
「魔王がそんな弱気でどうする! いや、お前が魔王だということにまだ納得したわけではないが……」
「魔法の指輪に対抗できるのなんて、他にはいないもん」
「まあ、それはそうだが」
「あとねー、人間の国に指輪を持ってくのはもっと重大な心配があるのー」
「む、なんだ?」
「あなたが退治されて人間に魔法の指輪が奪われたら、魔王軍としてちょっと困るかなーって」
「ばかな! 人間に敗れるなどと!」
「魔法の訓練に夢中になってる間に、背後から浄化されるイメージ」
「い、いや、人間にそんな使い手がいるはずは……うーむ」
「やっぱりおとなしく成仏してもらうのがいいと思うのー」
「う、だがわたしは魔法を……っ」
影が感情的になり、また指輪の力を振おうとしているように見える。あとなにかもうひと押しで説得できそうに感じるのだが、そのための材料はなにも見つけられなかった。
かわいそうだがあきらめて力技に頼るべきだろうか。
そう思った時だった。
「あ」
「あ」
魔王と、そして半透明な影が間の抜けた声を発した。ふたりの視線がある一点に向く。
半透明な影の一部がぱっくりと食われ、消え去っていた。
「めー」
食べる話。
魔法の指輪がたびたび魔王の指輪って書いてあって、慌てて修正してます。