動揺
これまでの騒動がなんだったのか、というくらいなにごとも起きなくなったので、魔王な女の子は退屈していた。
とはいえ魔法の指輪がまた暴れ出したら困るので、放っておくわけにもいかない。
なので退屈な時間をすごしたのちに魔王は魔物のめーちゃんと遊び始めたのだが、めーちゃんが満足したころになってようやく、事態が動きを見せた。
地面に転がる魔法の指輪の上に、半透明の影が浮かび上がる。
魔王は影に向かって歩きながら、挨拶をした。
「こんにちはー」
魔法の力が地面をえぐり指輪が勢いよく転がり始め、そして声をかけられたことで止まった。
指輪の上に浮かぶ人物の影は魔王へと振り向くと、大仰な身振りで驚いたようにしながら声をあげた。
「子供だと? お前は何者だ。なかなか立派な建物のようだが、ここはいったい……」
「私は魔王だよー。ここは魔王城!」
魔王が明るく自己紹介すると、それを聞いた指輪の上の影が固まったように動きを止めた。ついでに、なんにも事態が動かないのでお菓子を持ってくるように頼んでいた執事な男の子が戻ってきて、状況が分からずに魔王と人物の影を交互に見比べた。
指輪の上の半透明の影は、ようやくふたたび動き始めると、魔王ではなく周囲の光景を見回した。折られた木とか、えぐれた地面とか、あとは大穴の開いた壁とか壊れて転がっている扉とか。
人物の影は取り返しのつかない行為を後悔するかのように口を震わせていたが、さっと表情を取り繕うと叫んだ。
「知っているぞ!」
「なにをー?」
「魔王様がこんな無力な子供のはずがない! ここも魔王城ではないのだ!」
「代替わりしたからー……」
はたして影は、いつの時代の魔王を知っているのだろうか。
そして、魔族の年齢や力を見た目で判断しようとしている影は、冷静ではないようだった。
「黙れええええぇ!」
相手を無力な子供と言ったにもかかわらず。
まったく手加減なく魔法の指輪の力を振るったのも、冷静ではなかったからなのだろう。
魔王に襲い掛かってくる話。