悪くないもん
魔物のめーちゃんが宝物庫から持っていった指輪には、とってもすごい魔法の力が込められていることが判明した。
そして鳴り響く轟音……。
音がしたほうの窓へ執事な男の子が駆け寄っていき、魔王な女の子もとことこと歩いて後に続いた。
執事が窓の外を見てあんぐりと口を開けている。だからというわけでもないのだろうが、お城の壁も大きく壊れて穴が開いていた。
あまりにも時期が一致しすぎているので、めーちゃんの魔法の指輪のせいなのだろうなぁと執事も魔王もふたりとも思った。その深刻さの度合いはまったく違ったけれど。
「そういえばポークカレーが食べたいんだけど、料理人さんに今から言えば作ってもらえるかなー」
「魔王様、お怒りますよ」
「ごめんなさいー」
とりあえず魔王は謝っておいた。ご飯のリクエストの話はしてはいけないらしい。
執事が真剣な声音で言う。
「たぶんあの、指輪を持っていった魔物の仕業ですよね。指輪に込められた魔法の力に気づいて、自由に遊んでるといったところでしょうか」
魔王は執事の言葉を聞いて、がーんとショックを受けた表情をした。両手を胸の前でぎゅっと握って言う。
「あの子はそんな悪い子じゃないもん! ……たぶんー」
「そこは言い切ってくださいよ。たぶんじゃなくて」
「仮にめーちゃんの仕業だったとしても、それは社会が悪いの。冷たい社会のシステムがめーちゃんを苦しめるからいけないのー」
「回りまわって魔王様が悪いってことですよね。この社会を運営している王様なんですから」
「…………」
魔王は思わず沈黙してから、言葉を見つけてゆっくり反論した。
「社会は王様ひとりじゃなく、そこに属する魔族や魔物さんたちみんなでよくしていくものだと思うのー」
「あの魔物を世話をしているのは魔王様なんですから、やっぱり責任は魔王様に帰結すると思いますよ」
淡々とした執事の言葉。魔王はひとつうなずいた。
そして言った。
「とりあえずめーちゃんを探しにいくねー」
「そうですね」
事件が発生した話。