危ない
魔王城の一室で魔王な女の子がぶんぶんと刀を振り回していた。
女の子は笑顔を浮かべて楽しそうにしているものの、なんだか最近魔王の傍に居ついたちっちゃな魔物たちは困った表情で、巻き込まれないように退避している。
壁際に身を寄せて鳴き声を交わしたり、部屋の外に出ていったりだ。
ぞろぞろと部屋の中からちっちゃな魔物たちが出てくることに、通りがかった執事な男の子が気づいて部屋の様子を見た。
執事は魔王が刀を振り回している光景に一瞬呆然としながらも、すぐさま言った。
「……魔王様」
「なーにー?」
魔王がのんきな声を出している。
執事は言った。
「危ないので武器を振り回さないでください」
「…………。はーい」
案外素直に魔王が言うことを聞いて、刀を近くに置いてあった鞘に納める。
ただ、鞘に納めた刀をあさってのほうにかざして、格好をつけている。
「……なにをやってるんですか?」
「かっこいいでしょー」
「ええと、はい」
執事の返答は思わず歯切れの悪いものとなっていたが、魔王はそれを気にすることもなく満足げだった。
「本当はねー、たくさんの刀を床に突き刺したかったんだけど」
「やめてください」
「執事くんにおこられると思ってやめておいたのー。はーい」
魔王が刀を下ろす。執事は深く息を吐いた。
ぽいっとその刀を投げ出して魔王は言った。
「ところでどこかの人間の国には征夷大将軍って呼ばれるえらーい役職の人がいたとかなんとか」
「そうですか」
「まあ大将軍っていうだけでなんとなく偉いような響きがあるよね」
「将軍だけでも地位は高そうですね」
「征夷大将軍っていうのは役職だから、いろんな人がその地位についたんだね。もともとは異民族をやっつけることが目的だったの」
「異民族ですか?」
「うんー。征夷っていうのはざっくり言うと異民族を征伐するぞーってことなの。だから、征夷大将軍っていうのは、異民族をやっつけるぞ大将軍ってことだね」
魔王と執事がそんなことを話していると、もう安全だと分かったらしくちっちゃな魔物たちがぞろぞろと列になって部屋に戻ってきた。
部屋に残った魔物たちと出て行った魔物たちが、再会を喜ぶように鳴き声をあげていた。
征夷大将軍の話。