眠り
魔王城の一室で、魔王な女の子がこたつに突っ伏していた。だらーんと手が伸びている。
「うー。牢屋なんて使わないなんて言った翌日に、まさかルリエラちゃんを牢屋に入らないよう説得するはめになるなんて」
がっくし、といった雰囲気でこたつに突っ伏したまま、魔王はまったく手の先を見ず器用に蜜柑を手に取って皮をむいていく。
部屋の整理をしていた執事な男の子が、魔王に訊ねた。
「……なにかあったんですか?」
魔王が顔を上げた。皮をむいた蜜柑を食べるために。
「はむ、むぐ。予定してた魔物がこないーって報告があってね。ルリエラちゃんのところに私が行ってきたんだけどー……」
「けど?」
「ルリエラちゃん、寝ちゃってたの」
「あー……。まあ、ルリエラさんも完全無欠ってわけにはいきませんからね……」
執事は気まずい表情を浮かべる。
魔王は手近な布で手をぬぐうと、紙と鉛筆を取りだしてぱぱぱっと絵を描いた。
執事は訊ねる。
「なんですか、それ」
「鳥人間、セイレーンです! 下半身が鳥の代わりに魚の場合もあるね」
ふふーんと魔王は絵を自慢した。
「セイレーンの歌声には魔力が宿っていて、聞いた相手を狂わせたり眠らせたりする力があるんだよ」
「海で歌って船を沈没させたりするやつですよね。……もしかして」
「ルリエラちゃんが作ったセイレーンが、つい歌い始めたらしくてー……」
「寝ちゃったんですか」
「うん」
執事は眉をひそめた。
「ルリエラさんが作った魔物は、普通より賢いって話はどこへいったんですか」
「責任をだいぶ感じちゃったみたいでー。牢屋に入れてくれってうるさくって」
「ですが、引き留めたのですよね?」
「牢屋に入れたって仕方ないじゃない。働いてもらわなきゃ。そして」
ごろーんと魔王がこたつの布団の中にくるまった。
「おやすみー」
「ちゃんと寝室で寝ましょうよ……」
執事はため息をついて、こたつの上に置かれたままの蜜柑の皮をゴミ箱に捨てた。
セイレーンの話