俺の返事
「断る。済まないがここは親父の店だ。その親父の打った武器を見向きもせずに俺に頼みこんで来たあんたの依頼を受けると思うか? 悪いが時と場所を考えてくれ。それ以外の場合なら受けてやるよ。昨日の酒場に夜行くから、それで納得してくれ」
「(・・・・・・返す言葉が無い・・失礼した)」
息子が父親の誇りを踏みにじり、金を受け取る行為を仮にも勇者である彼が勧める。そう捉えられてもおかしくない状況に気がついたエンガイさんは、ゆっくりと目を閉じると、黙って頭を下げてから、店を跡にした。
金貨500枚よりも親父の誇りと腕は高いんだよ。そう心の中で毒づいていると、横からニヤニヤしたリンメイが俺の顔を覗きこみ、からかい始めやがった。超うぜぇよ!
その日の夜。俺はまた懲りずに酒場へと繰り出す。もちろん大人になってな。今日は飲みに行くのが目的じゃねぇ、それに……
「初めてのデートですね」
「なんで付いて来んだよ……アイナだって置いて来てるのに……」
「だって……お父様が私を見る度に「エレンの奴! エレンの奴!」って叫んでは、お母様と奥でバトルが始まるからさ、アイナとモモにおいだされちゃったんだよ。正確にはエレンが無茶しないか見て来いってのもあるけど」
「ガキ扱いかよ……」
「子供じゃない。ふふふ、でも、大丈夫よ。今夜、話を聞いたら大人にしてあげる。」
「よろしくお願いします!」
「ただし、その時には元の姿になってね。」
「おっ、おう。リンメイの趣味がそうなら俺は合わせるさ。」
「理解が早くてあたしは好きよ。」
酒場のカウンターにエンガイを見つけたので左からリンメイ、俺、エンガイの順で座った。
「待たせてすみません。結構待ちました?」
店では一時、素で受け答えをしてしまったが、相手は時の勇者様。口の聞き方を敬語に変えた。
「いや、大丈夫だよ。そんなに待ってないし、それに昼間は失礼した。」
「へぇ~……勇者って結構、勘違いしてるバカが多いけど、流石はカクヨームのエースの勇者様は一味違うのようね。」
「そういう輩のいるが、全員そうじゃないさ。で、改めてお願いするが、依頼を引き受けてくれるだろうか?」
「…………構いませんが理由を教えて下さい。エンガイさんの装備品は駆け出しの俺から見ても一級品ですし、腕だって音に聞こえる位に有名で……依頼の意図が分かりません。」
エンガイさんは顔をやや下に向け、右手に持っている木のジョッキを強く握りしめる。ギュウっという音が鳴り響き、俺と酒場の親父はギョッとする。……悔しさで顔を歪めている。一体何が……
「この剣を見てどう思う……リンメイ、君も見てほしい……」
返事の代わりに俺に、鞘に納められた長剣を手渡す。見事な装飾が施された鞘。それは華麗さと優美さを兼ね備え、まさに勇者の装備にふさわしく、続いて剣も引き抜き刀身を見る。
すると、ランプの光を反射し、眩い光を放つ。凄い……とてもじゃないが俺の作る武器とは天と地ほどの差がある。
「…………名刀の一言です。これのどこが……………………あっ……」
「ダーリン貸して……………………コレを使えって? なんともまあ………勇者様も大変だな。ほらっ、返すよ。」
長剣を受けとるエンガイさんの顔の理由が分かったそれは……
「見た目だけの剣なんですね、これ……もったいない。これほどの逸品でありながら、重点に置いているのが見た目の形やデザインだなんて……」
一級品には間違いない。けれども職人風に言えば魂が込もっていない。まさにそういった物であった。
「バカにしてるね……命や誇りを乗せて振るに値しないね。こんないもの。」
「そうなんだ……勇者は国から支援を受けて各地に発生した魔王を討つ。その為にランキングの上位に残った物を名誉として受けとるが……」
「だんだん見た目が良いものが、王様の目にとまりましたとさ、ってとこか?」
無言で頷くエンガイさん。
「職人として言わせてもらうと分かります。目にとまってもらえなければ俺達の武器は手にすら取ってもらえませんからね。形から入るのは仕方がないにしても……」
「そこでお願いだ! 来週、カクヨーム王国で小さな大会が行われる。それには王も見学に来られることになっている。そこでエレン君には優勝してもらい、私と一戦する権利を勝ち取ってほしいんだ!」
優勝者に与えられるエキシビジョンマッチって奴か。
「いいねぇ~……ダーリン?」
「金はいらねぇ。あんたさ、やっぱ勇者だよ。リンメイの言葉じゃないけど、勘違いしてる王様の目を覚まさせなきゃな。道具に魂込めてこその鍛冶職人であり、使われる道具だ! この依頼引き受けた!」
手を取り握手をし、三人で楽しく酒を飲み、今日は宿を取り、違った意味で俺は大人になった。




