1キャラ目、インフェルノ!
チュートリアルは既に終わった。
運命改変アクションRPG「ヴァーランド・リフォージ」を全クリした。
謎女神に召喚されて、謎空間にいた。
肉体を失って、運命の女神の代行者になった。
ここからが本番だ。
初めての異世界。
ゲームではない現実世界の、運命改変がこれから始まる。
おれが1キャラ目に選んだキャラクターは、『無明の万眼』だった。
『邪剣使い』について考えてみたとき、最大のメリットは、歩く中二病そのものであることだと感じた。
おれの魂は震えたね。
だってシンプルに『邪剣使い』だもん。
その想像力、語彙力の低さは、中二レベルそのもの!
そして全身真っ黒のその装備!!
こいつ実は中二病を患っている転生者なんじゃね?とか疑っちゃうよね。
ただ、こいつを選ぶとデメリットがでかい。
『邪剣』なんてまず間違いなく呪われた武器に決まってる。
初めての異世界、残念女神のおかげで情報不足。
もしもおれ自身に影響を及ぼすような呪いがあったとしたら、1キャラ目にして詰んでしまう可能性がある。
おれの中で封印されし中二病魂が疼いているが、まだコイツを解き放つワケにはいかないぜ……。
次に『若き木狩りの戦士』だが、いかにも初心者向けな感じで、気が乗らない。
装備から大体の戦闘パターンも見当がつくし、意外性が無さそうだよね。
せっかくの異世界!!
知らない間に肉体まで失って!
元の世界には帰れない!
楽しまないと損だよね!?
失ったものが大きすぎるよねぇ!!?
だからこんなパッとしないキャラなんて、使ってる場合じゃない。
っていうか、イケメンすぎるんだよ、コイツ。
だから却下だ!
いや、いちおう、マジメな理由もあるんです。
使いやすそうなキャラを、1人は手付かずにしておきたいのだ。
「ヴァーランド・リフォージ」をプレイして培った、『未使用キャラを確保すべし』という、おれの鉄則。
一度でもプレイしたキャラクターは、運命が大幅に改変されてしまう。
未使用キャラを残しておけば、本来の運命に近いシナリオを確認したくなったときに、ある程度の目安となる。
そして、その役目に最適なのは、モーションに癖がなくて扱いやすいキャラなのだ。
そういうキャラクターなら操作に慣れる為に余計な時間を割く必要がなく、少しでも多くの時間をシナリオの攻略に当てることができる。
そんなキャラが未プレイで残っていることが、のちのち活きてくるってわけですよ。
そんな感じで『無明の万眼』が第1候補に挙がるのだ。
でも1番の理由は、単純に気に入ったから、だよね。
薄汚れたボロボロの浮浪者みたいな格好で、武器なのか何なのかよくわからない、ゴツゴツした岩の槍みたいなものに、両手で縋りついて立っている。
こいつの背負った『運命』は、過酷なものだったに違いない。
背負ったものが重すぎて、この岩の槍のような、「一本の支え」がなければ、立ち上がることすらままならない。
それでも、『無明の万眼』は、前を向いていた。
こいつの顔は、しっかりと前を向いていた。
「ヴァーランド・リフォージ」にも、こんなキャラがいた。
『運命』に打ちのめされて、ボロボロになって、それでもやるべきことがあって、絶望的な戦いだとわかっていても、立ち止まることができない。
おれは知っている。
こういうキャラは、その想いを果たせぬままに、「一本の支え」を叩き折られて、その身に余る『運命』に圧し潰されて、人知れず消えていくのだ。
おれは知ってしまった。
こんなキャラが、こんな人物が、本物の異世界にいる。
おれが『運命改変者』だというのなら、こいつの『運命』をこそ『改変』せねばなるまい。
このようにして、最初のキャラクターセレクトで見事に失敗してしまいました!!
実際に『無明の万眼』で始めてみてわかったけど、最初の3人のキャラクターの難易度って、きっとこんな感じだったと思うんだ!
『若き木狩りの戦士』 難易度:普通
『邪剣使い』 難易度:難しい
『無明の万眼』 難易度:インフェルノ
やっぱり調子に乗ってかっこつけるとロクなことが起こらないよね!
とりあえず、色々と慣れる為に、色々と整理する為に、30日くらい必要だと思うんだ!!
まずはキャラクターの操作方法、そこからヤバかった。
これ、憑依って感じかな?
おれが『無明の万眼』になったわけじゃなくて、『無明の万眼』本人っていう着ぐるみをかぶった、いわゆる「中の人」ってやつになった感覚だ。
例えば、歩こうとしたときには、リアルタイムでおれの意志が『無明の万眼』の肉体と連動して、すんなり歩くことができる。
ただし、元々の『無明の万眼』の歩き方でしか歩けない。
いくらおれが『運命』を変えられるとはいえ、その肉体に可能な動きしかできないようだ。
おれの選んだ行動は、『無明の万眼』という人物の行動に相応しい動きに、自動的に変換される。
しかし、問題なのはその感覚ではない。
『無明の万眼』、コイツは、『視え』過ぎだったのだ。
まるで複眼でも持っているかのように、まず前後左右、上下に至るまで、全方位が『視え』ている。
それどころじゃない、自分のことすらも全方向から『視え』ている。
さらに俯瞰視点で自分の周囲が同時に『視え』、遠くを意識すれば、さらにさらに望遠拡大視点も同時に『視える』。
これら全ての映像が、常に同時に頭に流れ込んでくる。
こんなもん、常人に耐え切れるはずがない。
っていうか、無明さん、とっくに気が狂ってました!
喋ろうとしてみても、
「………………ブツブツ………」
全然言葉にならないよ!
そして、これこそが難易度推定インフェルノの、最大の理由。
『視える』能力に関しては、どうにかなりそうな予感があった。
謎女神の祝福のおかげか、肉体の制限がなくなったおかげか、おれはもはや、常人ではないようだ。
それに、どうやらこの『視える』能力は、無明さんが身につけたものではないらしい。
なんとこれ、無明さんが握りしめてる岩っぽい槍の能力でした!
試しに岩の槍から両手を放してみると、一瞬で何も見えなくなる。
だからまぁ、見え過ぎるのに疲れたときは、この槍っぽい岩から手を放せばいい。
それで、最大の問題はまともに喋れないこと、こっちの方なのだ。
ただのチュートリアルだった運命改変アクションRPG「ヴァーランド・リフォージ」には、数値化されていない、超重要な隠しステータスが存在する。
っていうか、おれが攻略の為に便宜的に設定してみたんだが。
その隠しステータスとは。
『コミュ力』である!!!
コミュニケーション能力のことだよ?
「ヴァーランド・リフォージ」を全クリする為には、当然、全てのキャラクターをアンロックする必要があった。
新しくキャラクターをアンロックする為には、様々な条件がある。
その中で最も多かったアンロック方法が、「出会って話して知り合いになる」という流れだったのだ。
コミュニケーション能力が低く設定されているキャラクターだと、新しいキャラを発見できても、次の会話の段階が上手くいかない。
つまり、コミュ力が低いほど、新キャラのアンロックが困難になる、ということ。
もちろん、コミュ力が低いキャラクターでしかアンロックできない、そんなキャラもピンポイントで存在するが、ピンポイントすぎて今度はなかなか見つからない。
『無明の万眼』は喋れない。
コミュ力は最低ランクと言ってもいいだろう。
それゆえ、攻略において重要な新キャラのアンロックの難易度は、ものすごく高い。
さらに、情報収集すらろくにできないだろう。
初めての異世界で、この世界の知識が手に入らない。
もう一度、『無明の万眼』に喋らせてみようか。
「………………ブツ…ブツブツ……」
チュートリアルは既に終わった。
おかしいよね、あんなにチュートリアルで練習したのに。
キャラセレでミスっちゃうんだもんね!