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運命改変アクションRPGを全クリしたんだが  作者: 子泣地頭
2キャラ目、まだ攻略中
81/88

2-49、草の者

『邪剣使い』攻略、85日目。



(どうするの?)


どうしよう。


とりあえず、茂みに隠れなおそう。

ついつい勢い余って立ち上がっちゃったけどね。

よし、と。


確かめたいことは、まず一つ。


この都市は「イルイール王国の領地なのか?」ってこと。


南の小国、イルイール。


小国って、どれくらいの規模なんだろうね。

この都市、バルゴンディアの王都と比べると、かなーり小さい。

でもアレ、比較しちゃいけないのかな、あの王都がでかすぎただけかもしれない。

今まで見てきた集落の規模からすると、ちょっと異常なでかさだったよね。

この都市は村落と比べたらだいぶ立派だけど、一国の首都ではなさそう、かな。

んんー。

そんくらいしかわからん。


とりあえず、街に忍び込んでみるしかないか。


目撃されたら大変なことになるっていうのは確実じゃん?

目撃されないように、目の前の都市から情報収集しなきゃいけないわけだ。

きっつ。

きつすぎて草も生えない。

っていうか、どうやって中に入ろう。

まさか、既に攻囲中のところに辿り着くとは思ってなかったよね。

おれが出会ったクシュルパーニャの軍隊は、この戦地への増援だったわけだ。

先にこっちで戦ってる軍がいて、都市の包囲が完了してから援軍要請した、って感じなのか?


ふーむ。


この軍隊の陣中で盗み聞きするのは無理そうだしな。

歩哨いっぱいいるし。

いや、夜ならいけるか?

よし、とりあえず、夜待ちだな。

軍で盗み聞きするか都市で盗み聞きするかは、それから決めよう。


そういうわけで邪剣さん。


(はい、マスターさん)


このまま夜を待ちます。


(了解です)




待ってみたけど、夜になる前に変化があった。




(終わったね)


終わったね……。


展開早いなぁ……。


クシュルパーニャの陣中から歓声が上がっている。


都市の門は開かれ、大国の威容を表す整然とした部隊が、降した街の中へと進んでいった。


都市をめぐる攻防が終結したようだ。


んー、これは、降伏かぁ。


増援の部隊を見て、この都市の上層部が観念した、ってことなのかな。

あー、ってことはクシュルパーニャの方も、ひょっとしたら敵の降伏を見越して増援送ったのかもしれんね。

兵を見せることで、お互い無駄に損なうことなく降らせたのか。


やっぱり、ここは首都じゃなかったんだな。


そうじゃないと、こんなにあっさり降伏できないよね。

あぁ、どっかの国の端っこの地方都市とかなのか?

首都に近ければ救援部隊もすぐに来るはずだし、もっと持ち堪えるためにがんばらざるを得ないだろう。

それが無いってことは、この街は首都から離れてるんじゃないかな。

あと、ここが大国に接してた地域だったら、たぶん、もともと経済圏には取り込まれつつあった、って可能性もある。

もしそうなら、都市側の本音は最初から「降伏」一択で、安く見られないために抵抗は示しておいた、ってとこか?

だから増援を見て、すんなり降伏した、って感じだろうか。


うん、しかし、こりゃ完全に机上の空論だよね。


んー、クシュルパーニャ軍が占領したら、街の中も見張りが厳しくなるかなぁ。


夜に忍び込めるかね?


(どちらにせよ、夜になってから決めるので良いのではないか?)


ん、それもそうか。




夜まで待つ。




その間、夜になる前、まだ陽も高いうちに、またしても急展開。


隣の茂みがカサリと揺れる。


なんだろうと思ってチラ見すると、人がいた。


うおぉっ!!?

やべぇ見つかった!!?

……いや、こっちに気付いてない?


「フターハリは既に降っていたか」


なんだコイツ、ぜんぜん気配がわからなかったぞ?

農夫みたいな、なんかどこにでもいそうな服装。

っていうか嘘だろ、二人もいんじゃねーか!!


「予想以上に早かったですね」


「半ば調略済みであった、ということだろう」


「そうですか、なら、同様の都市がチャフル王国にはまだあると見るべき?」


「だろうな。チャフルの王に覇気は無く、暗愚でなくとも凡夫ではある。その臣下は商いに親しみ、利に聡い、いや、賢しらというべきか」


「王は売られる、と。クシュルパーニャは早くも一国、降しますか。やはり生属界の連中は醜いですね、肥え太った国に大義無く、痩せ細った国にも忠義無しとは…」


おっ!!


ギィン、と鳴り響く金属音。


近いほうにいた男に斬りかかられ、邪剣で受けた。

おい、バレてたのか?

不意打ちかよ。

なかなかの素早さ。

もう一人、一瞬遅れて寄せてきた。

受け太刀で封じられた邪剣を持つ右手側に迫っている。

声が女だったほうだ。

へぇ、強いな、こいつら。

特に、男のほう。

女は無視、『邪剣使い』のおれを即死させる攻撃はそうそう無いだろう、身体で受けてやる、その代わり左拳を眼前の男に…。


男が弾かれたように跳び退がる。


勘も良い。

じゃあ空いた邪剣で女の小太刀を受けよう。

いや。

投擲刃だ。

女が右で小太刀を持ったまま、左手で咄嗟に投げてきやがった。

マジか、男が退がったの見て瞬時に切り替えたのか?

おいおい、こいつらマジで強ぇじゃん。


左手で投擲刃をキャッチ。


おぉっ!!

すげえぇ!!!

これクナイそっくりじゃん!!

忍者か!!?

アイエェェ!!?

まさか異世界ニンジャなのか!!!?

よし、とりあえずこのクナイはしまっておこう。


「待て、すまない、手違いかもしれん、邪神教団の者で違いないな?」


男のほうが話しかけてきた。

武器を持ってない手のひらをこちらに向け、静止を促すような身振りをする。

こいつ今、「邪神教団」って言うとき、「邪神」と「教団」の間でほんの少しタメたな?

こっちの反応探られた感じする。

うわ。

女が超ダッシュで逃げてやがる。

すげー。

いつの間にだよ。

ぜんぜん気付かなかった。

おれってそんなに隙だらけだったの?

話と手の動きで男がおれの意識を誘導した隙に、だね。

虚を突かれる、ってこういうことか。

すげー、ニンジャすげー。


「あれは合流地点の確保に向かった、そちらの進捗は?」


へぇ、まだその演技続けるのか。

演技だよな?

こちらは喋れない。

『邪剣使い』は喋れない。


「ん、どうした、何か…」


何も喋ろうとしないおれのことを不審に思ったようなセリフを口にしつつ、その途中でごく自然に投擲刃を投げてくる。


「…あったのか?」


投擲中でも投擲直後でも表情一つ変えずセリフの続きを喋っている。

コワイ!

これたぶん、常人だったらセリフ終わる頃に気付いたら死んでるやつだわ。

飛んできたクナイっぽいやつを邪剣で斬り払う。

ほう、既に右手側に来てる。

男が小太刀で顔面を突きに来る。


速い、強い。


でも、化け物たちよりはマシ。

振るった邪剣を翻し、狙う。

小太刀の刃を断ち切ろうとしたんだけど、ダメだったか。

察知されてまた右側に回り込んでくる。

こいつ、左拳を警戒してるな。

初手で左拳使おうとしたから、こっちの左手に何かあるのを察したのか。

たったアレだけの攻防で、か。


化け物たちよりマシだけど、「人外じゃない人ランキング」が更新されたな。

そう、こいつは、あの僧より強い。

身体能力的には僧がそうとう上だけど、技術的なものが格段に違う。

こいつ、たぶんめちゃくちゃ修羅場くぐってきてそう。

いいぞ。

悪くない。

おれの最終目標は、言うまでもなく『奴』を倒すこと。

そのために必要なものは、強力な人間。


おれは笑った。


また投擲。

正確に眉間を狙って飛んでくるそれを回避し、右へ。

相手が右手の小太刀を振ってく…ッ!!?

あっぶねー!!

こいつ至近距離で小太刀投げてきやがった!!

出会って二分でメイン武器投げるかフツー!!?

っていうか逃げてるし!!!

またかよ!!

いつの間にだよ!!

足、速っ!!!


あー。


ニンジャ、すげぇなー。


(即断即決で全力逃走、誰とは言わないが、どこかのマスターにも見習ってほしい決断力である)


どこかのって、それ完全にここのおれのことじゃん?

まぁ、おれもそう思うんですけど!

それにしても、人の住んでる地域って、やっぱりエンカウント率高いんだなー。

3日目から15日目くらいの、水精の土地あたりを走ってたときは、ぜんぜん人に会わなかったもんね。

会ったのは、魚馬に襲われてた人たちぐらいか。


(マスターの変な人を引きつける吸引力の問題もあると思うの)


いや、それは、その、そんなこと無いと言いたいのに言えないよね。

おれのせいじゃないはずなのに。

でもまぁ、今回の出会いは良かった。

思わぬ盗み聞きができたよね。

あの異世界ニンジャの会話。

「フターハリ」っていうのがたぶんこの目の前の都市のことで、「チャフル王国」っていうのが、この都市が属していた国の名前だ。


(ということは)


ということは。


(つまり)


つまり。


(ハズレだったね、マスター)



イルイールじゃなかったああぁぁぁーーーーッ!!!!



だよね!?

そうだよね!?

そう簡単に上手くいくはずないよね!!?

はい知ってた!!


(マスター、よしよし)


ふぐっ!!

ふぐうぅぅッ!!!

ちくしょう!!

くやしい!

ウソ、ぜんぜん悔しくない!!!

超余裕ッ!!

だって知ってたし!!

どうせこうなるって知ってたからぜんぜん平気!!!


あー。


あぁー。


コミュ力、コミュニケーション能力だよ、やっぱり。

難易度高いんだよ、コミュ力が無いと。

国の場所なんて、誰かに聞ければ一発じゃん?

でも『邪剣使い』は喋れないじゃん?

どうすんだこれ。

もう85日目、31日目が終わってからもう50日以上経ってんじゃん。

誰か察しろよ。

いないのか?

察し名人なこちらの気持ちを読み取ってくれるような……。


あっ、それ邪神じゃね?


いや、無い、それは無い。

あの変態には二度と会わないから。

っていうか、アレに頼るとかありえないし。

あと、ひょっとして今アレと出会ったら、たぶんあのほぼ全裸ももれなく付いてくるのか?

うわ、やば。

邪神と『道断の反英雄』のセットとか絶対ヤバイ。

あんなの同時に相手するとか、日常会話ですらお付き合いしたくない。

ん?

そういえば、あの、竜騎士の残念イケメンって、今どうしてるんだろ?

すっかり忘れてたわ。

……まさか、そのまま邪神に付いて行ってたりしないよね。

………まさかまさか、あの変態主従コンビに付き合わされてたりしないよな?


(もしそうなら、さすがに我も同情するのだぞ)


ほんとにね……。

いや、それは別にどうでもいいんだった、それより自分の今後だよ。

なんとかコミュニケーションを図れそうな相手っていないのか?

おれのジェスチャーで、こう……。

ジェスチャー……ギャオギャオ、つまり竜、口呼吸できない、エラ呼吸………うっ、頭が!!

あっ、いや待て。


エラ呼吸、そうか!!


ーーー事情はわかんねぇが、困ったときはいつでも頼ってこいよーーー


いたわ。

いたじゃん、頼れる兄貴が!!

『流れ島の喧嘩王』だ!!

そうだよ、大兄貴は意外と頭良くて、話のわかるやつだったじゃん!!!

いやいや、でも待て!


このまま自分で走り回ってイルイール王国かもしれない場所を探すのか。


どこかの島にいる『流れ島の三兄弟』を探してからなんとかしてもらうのか。


まーたこんなしょうもない二択だよ。


(マスター、我は、あのサカナ野郎たちを探すほうがいいと思うのだ)


おっ?

意外な意見。


(あのね、いっしょにいてよくわかったのだ、マスターは、あんまり自分の思いつきで行動しないほうがいいと思うの。頼れるなら他人を頼ろう?)


あっ、はい。

うん、そうだよねぇ。

50日さまよって、今後も成果出なさそうだもんねぇ。


(それにマスター、動き回ると色々引き寄せちゃうんだもん)


邪神教団とか、勇者町だとか、世紀末野蛮メンズとか、あとは軍と僧と、ニンジャとかね。

いや、異世界ニンジャはマジすごかったな。


背後から刃を突っ込まれ、胸を貫通、身体の中をえぐられた。


瞬時に反転、邪剣で一閃。


敵の腕を切断した。


背中に手を回し、生えていた小太刀を引っこ抜く。



「………『黒衣の邪神』、本物ということか」



逃走したはずの異世界ニンジャが、そこにいた。


逃げたフリかよ。


『邪剣使い』じゃなかったら、今ので死んで攻略終了か。


ほんとすげぇな、このニンジャ。

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