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謎女神様、祝福完了!

運命改変アクションRPGを全クリしたんだが、チュートリアルが終わったんだそうです。




「もうこの際、チュートリアルってなんなのかとか、なんでおれがこんなところにいるのかとか、どうでもいい、諦めます、もう全部諦めます」


この切実なおれの発言に対して、ふむふむ、とか言いながらにこにこしてる謎女神。

ねぇ、軽いよね?

あっ、もういいんだけどね!

もうどうとでもなーあれ!


「真面目な話なんだが、おれってちゃんと帰れるのか?」


これだけは確認しておきたかった。

こんな謎空間から自力で帰るとか不可能だし。


「んー?帰るー?」


首をかしげて、キョトーン?ってなっちゃった謎女神。

はい知ってた!!!

そういう反応するって知ってたよ!!

でも見たくなかったよ!?

実際にそんな反応するなんて見たくなかったよー!!?


「んーと、帰るって、どこに?」


「いやどこって、おれの家な!?地球の!日本の!!」


「んー?なんでー?」


「いやなんでって!なんでってそりゃ、おれにだっておれの帰りを待つ人が…」


いなかったわーーー!!!

おれのッ!

帰りをッ!!

待つ人なんて!!

いなかったわあぁぁぁーーーッ!!!!!


「だよねー!?なんでおれ、帰ろうとか思っちゃったんだろうね!?おれ帰る必要とかないよね!!?そうだったよね!」


この女神とんでもねぇよ!

残念女神なんかじゃない、残酷女神だよ!!

切れ味鋭くエグってくるよ!

待ってる人もいないのに、なんで帰るの?

ってことだよね!?


「もう行こうぜ?早く異世界に行こう?」


「ふふふー、やる気まんまんだね!」


女神様、そう見えますか?

おれって、やる気まんまんですか?

やる気なんてもうとっくにありませんけどぉー?


「それじゃあ、ちゃちゃっと基本を確認して、本番いってみよー!」


「はぁーい、やったりまぁーす」


「まずは制限時間ね!チュートリアルと同じで、5年間だよ!次元バローグに打ち込まれた、運命楔の2点間にあるその時間だけは、運命の女神の名にかけて守り通すよ!」


「へぇー、そうなんだねー、ただのチュートリアルだったヴァーランド・リフォージと同じで、5年間を何度もやり直して運命を変えていけばいいってことねぇー?」


「えっとねー、そんな感じ!バローグの世界の人の中に入って、その人を動かすみたい!運命改変者の祝福をしとくから、ちゃんと運命を変えられるからね!祝福がない人は、運命楔の2点間では運命が固定されてるんだよ!でも改変者の動きに合わせて世界の修正力が働くらしいから、それで周りの運命も変わるんだって!」


「へぇー、さすが女神さんだねー、物知りだねぇー」


「ふっふーん!あとね、5年経ったらその人から抜け出して、ここに帰ってくるようになってるからね。途中で死んじゃった場合もチュートリアルと同じだって!」


「へぇー、ただのチュートリアルだったヴァーランド・リフォージと同じで、死んだ場合はそのキャラはとりあえずそこで死ぬ運命ってことになるのねぇー」


「そうだよ!あっ、それでね、えーと、アレ、なんだったっけ?なにか言おうと思ったのに、忘れちゃった!」



テヘペロこつーん☆



うんうん、カワイイなぁー、癒されるなぁー、残念カワイイ謎女神だなぁー。


「死んじゃったら、ちゃんと痛いと思うから、気をつけてね?わたしもがんばるからね!」


「うんうん、謎女神もがんばれよぉー」


「えへへ……嬉しいな…がんばるよ……これで最後までがんばれるよ!」



あぁー、なんかやる気なくしてた間に色々なフラグが立ってた気がするなぁー。

まぁいいかー、なんかすっごい頭が疲れてるし。

頭っていうか、なんだろう、なにか失われてはいけないものが削られてるような、漠然とした危機感みたいなものが…。


「あぁー、なんか疲れたんだが、ちょっと休ませてくれ……」


これ駄目だな。

視界が薄れていく。


違うか。

おれが薄れていくのか。


最後に、残念なあいつの顔がすぐ近くで見えた気がした。

















あれ?

どうなった?

おいちょ待て!?

朝チュン?

朝チュンなのか!!?

なぜどうして謎女神がおれに抱きついてきてるんだぜ!?

ど、どうしてこうなった!!?

教えてエロい人!!!


「な、何してんの?」


「…………ごべんだざい」


「な、え、なんて?」


答える代わりにぎゅっと強く抱き締めてくる謎女神。

ものっすごい鼻声だけど。

しばらく鼻をずびずび鳴らす謎女神に抱きつかれながら、返答を待つ。


「………ごめんね」


「あー……いや、なんかあったのか?」


「……………この空間…生身の人間には耐えられなかったみたいで……」




え?

ひょっとしておれ死にかけたの?

っていうかまさか。


「おれ生きてる?」


「……………………いちおう」


コワイ!

いちおうって!?

えぇぇっ!!?

いやコワイコワイ!!

謎空間だもんね!?

生身で無事なはずがないよね!!?

さすが残念カワイイ謎女神!!

この女神のテヘペロこつん☆は殺人級やでぇ……。


「えっ今はもう大丈夫なの?」


「もう大丈夫だよ!もう生身じゃないもん!」


あーそうなんだ、生身じゃないのね。

生身じゃない?

それ大丈夫じゃなくない?

それってもう死んじゃってる話じゃない?


「じゃあ、おれ今幽霊ってこと?」


「違うよ!肉体の制限がなくなっただけ!今は運命の女神の代行者になったんだよ!」


よくわからん。

よくわからんけど、妙に頭が落ち着いている。

さっきからツッコミどころ満載のとんでもない事態に陥っているはずなのに、なぜか大した問題じゃないような感覚がある。


「………怒ってる?」


さっきからずっと抱きついたままの謎女神が、こっちを見上げて上目遣いで見つめてくる。

頭が妙に落ち着いていたはずなんだが、これは無理だ。

もうこの女神には命すら振り回されっぱなしなんだが。

目が赤すぎるんだよ!

どんだけ泣いてたんだこの残念女神は!!

とりあえず頭をぐっしゃぐしゃにして、思いっきり抱き締めたあとで引っぺがす。


「さっき運命の女神の代行者とか言ってたよな?まさかとは思うけど、謎女神って運命の女神なの?残念の女神じゃなくて運命の女神なの?」


ムッとしてふくれる謎女神。


「これでもがんばってるんだからね!ずっとがんばって、ちゃんと運命の女神として立派に成長してるんだよ!残念は仕様です!」


お世辞にも立派とは言えない胸を張り、開き直る謎女神。

うん、この残念女神には、落ち込んでるよりアホなことを言っててもらわないとな。

それだけがただのチュートリアルだったヴァーランド・リフォージの名残りなんだから。

っていうか、ひょっとして。


「運命の女神として立派に成長してる、ってことは、もともと運命の女神じゃなかった、ってことか?」


「えっ!!い、いや、ちち、違うよ?もともと立派にゃ運命の女神だよ?だ、大ベテランなんだからね!」


うん、バレバレだわ。

かんじゃってるし。

立派な、って言えてないし。


「まぁいいや、そろそろ本番とやらを始めようか。最初のキャラはもう決めたよ。まずどうすればいい?」


「うん、そうだね、そっか……もう行っちゃうのか…ううん、ちゃちゃっと終わらせないとね!」


ちょっとだけ寂しそうにした謎女神は、すぐににっこりと笑って見せた。

おれの右腕をくいくいと引っ張って、体をかがめるように要求してくる。

謎女神が目をつぶり、その全身が柔らかく強い光に包まれていく。

再び目を開いた謎女神は、おれの頭部をがっしと掴んで固定し、頬にキッスをかましてきた。

数秒後、唐突に逃げ出した謎女神は、目をそらしたまま、真っ赤な顔で言い放つ。


「祝福完了しました!」


「あぁ、行ってくるよ」


「じゃ、じゃあ送るからね!」


おれの体が光に包まれる。

目の前の謎空間に一本の細い縦線が入ったかと思うと、スッと空間が左右に開く。

その先には、色褪せた光景が広がる。

時間の止まった世界。

霧深い森林。

そこに立つ、1人の男の背中。

ボロボロの外套に身を包み、岩のような槍に体を預ける、浮浪者のような人物。

その人物に向けて歩を進める。



謎空間から出る直前、耳に届いた。


「いるからね……帰りを待つ人…」


その声に返す。

後ろは振り向かない。


「待ってろよ」




運命改変アクションRPGを全クリした。


チュートリアルは、既に終わった。


おれたちの戦いは、これからだ!!

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