表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
運命改変アクションRPGを全クリしたんだが  作者: 子泣地頭
2キャラ目、まだ攻略中
76/88

2-44、さす残

かなり間が空いてしまいました。

申し訳ございませんが、またお付き合い頂ければ幸いでございます。

ごめんなさい!







「こっ、こっこっ」


おやおやぁ?


ニワトリさんのモノマネかなぁ?


こっこっ、コケコッコー?


「こっ、ここッ、『黒衣の邪神』だあああァァーーーーッ!!!!」


あっ!


そうなるのかぁ!!


そうか、こういう展開かぁ……。



『邪剣使い』攻略、43日目。



以前に、門前払いされた町にやってきていた。



前回と同じ、焦りすぎの門番から、またしてもこういう反応を返されたのだ。

そう、あのバルバル言ってた門番だ。

今回はニワトリさんのモノマネときたもんだ。

芸達者だね。


カァンカァンと、けたたましく警鐘が鳴り響く。

叫び声が飛び交い、兵隊が駆けつけてくる。

うん、これ、前回この町に来たときより、だいぶ酷い反応だよね。

めちゃくちゃ警戒されてる。


うーん、そうかぁ、『黒衣の邪神』かぁ。


31日目、バルゴンディアの王都で、残念イケメンな竜騎士にそう呼ばれた。

あのとき、王都の住民を追い立てて逃がすために、おれのことを『黒衣の邪神』であるということにして、喧伝していたのだ。

その情報が、10日ちょっと経って、この町にも伝わっていた、ってことだね。


なるほどなるほど。


これ、たぶんアレだよね?

この町だけじゃなくて、世界中に、どんどん『黒衣の邪神』の噂が広まっていくよね?

そうすると、行く先々で、こういう事態に陥っちゃうよね?

さす残。

さすが残念異世界物語。


町の門前や、柵の内側にも、決死の表情の兵隊がぞくぞくと集結してくる。


『邪剣使い』は喋れないだとか、そんなチャチなもんじゃあねー!

コミュ力がどうだとか、もはやそういう問題じゃない。

これ、おれ、もう完全に人類の敵ですよね!


情報収集の難易度が、いつのまにか爆上げされている。


いや、マジでどうすんのよ、この展開。

南の小国、イルイール王国ってところに行きたいのに、その場所がわからない。

どれくらい南に行ったらいいのかわからない。

喋れなくても、町の中に入りさえすれば、聞き耳立てたりして軽い情報収集はできたはずだ。

でも、もはやそれすら許されない?


どうしてこうなる……。


いや、しょうがない、これがおれの残念異世界物語。

とりあえず、これ以上ここにいても兵隊さんにご迷惑だから、立ち去ろう。


とぼとぼと歩き出す。


ん?


なんか聞こえる。


誰かの叫び声が近づいてくる。


「………ーーーーーんっ!!!」


「じゃしいいぃーーーーーんっ!!!」


えっ、じゃしん?

邪神のこと?

あの全裸の変態がどこかにいるっていうのか?


(マスターのことだと思うのだぞ、『黒衣の邪神』様、ぷぷっ、マスターが邪神とか、うぷぷっ!)


まーた邪剣に笑われたよ。

おれが邪神って呼ばれるのがどうしてそんなにおもしろいのか。


(ぷぷっ、よいのかマスター、その、「ぐっ、オレの魔力が荒れ狂っているッ!!」とか、ぷぷぷっ、言わなくてよいのか?)


ぐぅっ!!

やめろ、おれの中二病魂を呼び起こしてはならない!!!

人は誰しも己の胸にダークブラックヒストリーを秘めているのだーッ!!!

安易に呼び覚ますものではないぞッ!!


「邪神ーーーっ、待てえぇーーーーっ!!!」


叫び声が聞こえる町のほうを振り返る。

町の外に出てきていた兵隊さんたちも、その声を聞いてキョロキョロとしている。


「とうっ!!!」


いまいちユルい感じがする掛け声とともに、一つの人影が、町の門を飛び越えてきた。

ジャンプ力高すぎない?

それ、ふつうに着地したら足の骨とかいろんな骨とかやっちゃうよね?

高いところから落下したら死ぬんだよ、現実から逃げちゃダメ。

なに、ファンタジーだから大丈夫だって?

さすがは異世界ファンタジー。

さすファン。


「そこまでだ、邪神っ!!!」


その人物は軽々と着地し、バーーンと片手を突き出して、そう言った。


「この『勇者町三丁目の代表当主』が、きさまの野望をうちくだいてくれるーーーっ!」


どう見ても普通の町娘だけど、そう言った。


「今こそ見せよう、わが聖剣よ、来たれっ!!」


たぶん17才くらいの、茶髪ポニテの華奢で普通な女の子が、そう言った。


しかしなにもおこらなかった!


「…………あれっ?」


普通に見える普通じゃない女の子は、上体だけくるりと振り返る。


再びこちらを向いた。


「邪悪なる野望、打ち砕くは今っ」


腕をブーンと振ってビシッとする。


「勇者より受け継がれし破邪の聖剣よ、きたれーーーっ!!!」


シュバってして、叫んだ。


しかしなにもおこらなかった!


イタイ。

そんなお年頃でそんなポーズ、そんな発言。

おれのダークブラックヒストリーが自傷ダメージを生み出している。

アイタタタ……。


再びくるりと後ろを振り返る。


「おーい、せいけーーーーん!!!」


「出番だよーーーっ!!」


「きたれーーーっ!!」


間の抜けた声で、聖剣とやらがいるらしき方向に叫んでいる。


アイタタタ……。


あぁ、っていうかマジかよ、邪剣の次は聖剣か?


(ほう、マスターが再起動した、心の闇に打ち勝ったのだな)


しかも呼びかけてるってことは、その聖剣とやらも意志を持ってる感じなのか。

「来たれ」ってことは、主人の呼びかけに応じて自分で飛んでくる仕様なわけだ。

いや、それよりも、なんか変なこと言ってなかった?

勇者がどうとか言ってたけど、勇者町三丁目とか、なんかすごいマヌケなフレーズが聞こえたよね?

邪剣さんご存知?


(いや、我も知らぬ。聖剣とやらも勇者町とやらも、おそらく、我が封印されたあとの時代にできたものであろう)


そうなのか。

あー、そういや、邪剣が封印された時期が今から何年前なのかとかもわかんないんだよね。

あぁー、情報欲しいなぁー。

町に入りたいなぁー。


あっ。


なんか、もう一人誰か出てきたな。


町の門の前に整列していた兵隊たちの間、その兵隊たちにペコペコと頭を下げながら、一人の人物が出現した。

それから走ってこちらに近づいてくる。

見るからに、急いで走ってきてもう既に疲れ果てたあとの、ヘロッヘロの走り方だった。


「おそぉーーーーいっ!!!」


目の前の町娘風の変人娘が、その人に向かって叫ぶ。


「はやくはやくっ、邪神逃げちゃ……、まだ大丈夫だけど急に飛んでいっちゃうかもしれないよーーーっ!!」


チラチラとこっちの様子をうかがいつつ、町娘風の変人がそんなことを言っている。

虫捕り少年みたい。

ひとのこと、てんとう虫かなにかだと思ってるの?


それより、まさか。


まさか、ひょっとして、あの走ってくる人が聖剣、なのか?

自走式ヒトガタ聖剣、だと?

っていうか、この子、遅い遅い言い過ぎ!!

あの聖剣の人あんなに頑張って走ってるじゃない!!!

この町娘、まだまだずっと急かし続けてるよ!?

ひどすぎる!!

がんばれ!

聖剣さん超がんばれ!!


なぜか心の中でめっちゃ応援しつつ、その人の到着を待ってしまった。


「もぉーっ、遅いよぉーっ!」


「ぜはぁー……ぜはぁー……ぜはぁー」


女の人だった。

ベリーショートの金髪で、割と動きやすそうな鎧姿。

全身鎧じゃなくて、最低限必要な部分を防御しているような感じの装備。

でも、金属鎧だから、本気で走ったらふつうにしんどいと思う。

かわいそう。

この町娘風の変人は、鬼だよ。


「邪神が待っててくれなかったら、ゼッタイ間に合わなかったよーっ!?」


「ぶはぁー……はぁー……こっ…これっ……」


「あっ、聖剣、はやく渡してっ!!」


あぁ、なるほど、この金髪ベリーショートが背負ってた長剣が、聖剣だったわけね。

自走式聖剣は存在しなかったのか。

他走式だったのか。

………はっ?

えっ、ええっ、ちょっとまって。

なに、こいつ、他人に長剣背負わせといて、それで、「聖剣きたれー」とか叫んでたわけ?

鬼だよこいつは。

町娘風の鬼。


金髪ベリショは、荒い息を吐きながら、背負っていた聖剣を取り出した。


そして、おもいっきり地面に投げ捨てて叩きつけた。


「あぁーーーーーっ!!?」


ガッシャーンと捨てられた聖剣に、町娘風の鬼が悲鳴をあげてすがりつく。


「おまえが背負えぇーーーっ!!!!」


金髪ベリショがそう叫んだ。


(うむ)


うむ。

おれと邪剣が、心の中で全力で同意する。

よかった、この金髪ベリショ、ちゃんと自分の意見を言えるんだね。

なんか弱味でも握られててムリヤリ他走式聖剣やらされてるんだと思った。

一方的に虐げられてるわけじゃないんだ。

安心しました。



じゃ、おれたちは、去りますからね。



「もーなにすんのーーーっ!!!?」


「はぁー……はぁー………」


「伝説の勇者の聖剣なんだよぉーーーーっ!!?」


「ぜはぁー………はぁー……うるせぇーーーッ、おまえが背負えやぁぁーーーッ!!!!」


「だって重いんだから持ちたくないじゃんっ!!!!」


「おっ!!? おまっ、おま、ふざけんなーーーッ!!!」


「そんな重たいおっぱいぶら下げてるからすぐ疲れるんだよーーっ!!」


「かっ、関係無ぇだろそれ、おまっ、人前でオレのムネの話なんかしてんじゃねぇーーッ!!」


「もいでやるぅっ、そんな大きいのもいでもぎ取ってわたしのにくっつけてやるーーっ!!」


「おまっ、馬鹿またか、やめろっ、わわわ鎧が壊れるっつってんだろこの馬鹿力ッ!! わわっ、やめろ剥ぎ取るなぁ…」


「もいでやるっ、もいでやるぅっ、もいでやるっ……」



背後の喧騒が遠ざかっていく。



にげるコマンド、成功。


あいつら、アレって絶対関わっちゃいけないタイプの人たちだと思うんだよね。

もうなんか、そういうのわかるようになったんだ。

「まともな人だったら『邪剣使い』に話しかけてこない」の法則だよ。

うふふ、便利な法則だよねー。

『邪神教団』だとか『勇者町』だとか、そんなめんどくさそうなやつら、かまってられないんです。

お願いですから、もう二度と現れないでください。

忙しいんです、とっても忙しいんです。


(マスター、でも、どう思う?)


うん、絶対また現れると思う。


(我も、絶対また厄介なタイミングで現れると思う)


ですよねー。

さす残。

さすが残念異世界物語。


(さすマス、さすが我のマスター、だと思うの)


やめて、おれのせいじゃない。

おれは残念じゃない。





門前払いの町から逃げ出したあと、数日間で、小さな集落を三つほど見つけた。


せっかくなので、それぞれの集落で情報収集してみることにした。

情報収集とはいっても、やっぱりいつもどおり『邪剣使い』は喋れない。

だから、建物の近くとか井戸端会議の近くとかに潜伏して、人々の話を盗み聞きしてみたのだ。

見つかっちゃったらまた『黒衣の邪神』って呼ばれて大変なことになっちゃいそうだから、がんばって隠れた。


こんな方法でホントに情報収集できるとは思ってなかったけど、人口少なそうな小さな村だから大丈夫だったんだろう。


うん、まぁね、完全に不審者だった自覚はある。

この『邪剣使い』の他に持っている異名、『黒い不審人物』の名はダテじゃない!

某スニーキングミッションのつもりで、誰にも目撃されないようにがんばりつつ、盗み聞きをしました。


そういえばこの異世界、小さな村でも、自警団的な、民兵組織的な人たちがいた。

いや、ひょっとしたら駐屯兵とかなのかもしれないけど。

しかも、村の造りがモット・アンド・ベイリー形式だったりするし。

土塁と外郭。

簡易だけど、ちゃんと外周に堀と柵があったり、その内側とか、村の中心部とかが、盛り土されて高くなっていたりする。

たしかモット・アンド・ベイリーは、ノルマンの某庶子王が、イングランド征服中に作りまくったんだっけね。

堅固な石積みの城をせっせと作るより、短期間で簡単に防備の強化ができるってところが利点だ。

この異世界にはけっこう物騒な生き物もいるし、ちゃんと備えてるってことなのかね。


まぁそれはいい。


こっそり隠れて盗み聞きして情報収集してみた結果。

意外と、有意義な情報が得られた。

珍しく残念じゃない。

逆にコワイ。

でも、聞こえてきた情報の中身は、残念ながらおれにとって残念。


『黒衣の邪神』の話が、やっぱりめっちゃ広まってました。


残念だね。

盗み聞きした三つの村全部で、「邪神復活」が話題になっている。

むしろ、話題になりすぎてたおかげで、ずっとそんな話ばっかりしてる感じだった。

だから情報収集に成功したんだろうね。

普段、特に話題が無いときだったら、盗み聞きしても意味無さそうだもんね。



邪神が復活し、バルゴンディアの王都「古城都市スーサリディア」が消滅してしまったらしいこと。


邪神襲撃時に、王都から逃れることができた大勢の人たちが、帰る場所を失って、難民になってしまったらしいこと。


王都とともにバルゴンディアの王族が消滅し、「バルゴンディア王国」の行く末が誰にもわからなくなってしまったこと。



今のところは、こういう話が大問題となっていて、なにやら慌ただしく騎馬の伝者がほうぼうに走り回っているようだ。

ちょうど、騎馬兵っぽい人が来て、村の人にそんな話をしてる場面も盗み聞きできた。

けっこう時間かけて村に張り付いてた甲斐がある。

実際に壁に張り付いてたし、その成果があって良かったよね。

でも、やっぱり残念じゃないと逆にコワイ。


(よく訓練された残念マスター、だな!)


悔しいけど訓練されてる自覚あるうぅぅ!!!


さて。

どうやら、この近辺の町村はすべて、難民の受け入れを要求されているらしい。

現在、難民の多くは、バルゴンディア軍の一部が保護しているという話だ。

盗み聞きして回った村落では、難民の受け入れについて、かなり議論を重ねているようだった。


王族が消え、国の後ろ楯も保証されていない状況で、難民の支援を押し付けられた。

長期的に見れば、村民の増加は喜ばしいことではあるものの、それが短期間で一気に増えるとなると、話は別だ。

村の資産には限りがある。


「厄介者たち」を充分に食わせていけるだけの、余分な蓄えは無い。


それでも、たぶん、それが「王命」だったならば、受け入れざるを得なかったんだろうけどね。


だけど今は、このバルゴンディア王国という国には、王がいない。


村々は、帰属先を求めていた。

どんな勢力を頼れば、今までどおりの平凡な日常を続けることができるのか。

王の消えた軍隊の言うことをきくよりも、近隣の他国に従属したほうがよいのではないか。

そんな話も聞こえた。

自分たちの生活が、不意に宙ぶらりんな状態になった。

そんな状態なら、難民の受け入れなんていう「他人事」は、快諾できなくて当然だ。


次の王が立たないと、この国は終わる。


まぁ、だからといって、おれがどうこうできる問題でもない。

そんな余裕もない。

おれにとっても、この国のことなんて「他人事」だ。

たとえ、その難民の発生原因に深く関わっていようとも。



正解だったのか。



おれの行動は、おれが変えた運命は、おれに変えられなかった運命は、果たしてこれで良かったのか。


想いは募る。



別の『運命改変者』に会いたい。



同類を求めて、おれは闇雲に南下する。


闇の中を、闇雲に。






遅れ馳せながら、評価やブクマを頂いておりまして、本当にありがとうございます。

お礼の言葉が遅れてしまい本当に申し訳ございません。

大変失礼致しました!

めちゃくちゃ嬉しく思っております!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ