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運命改変アクションRPGを全クリしたんだが  作者: 子泣地頭
2キャラ目、まだ攻略中
74/88

2-42、闇

通算70話





『邪剣使い』攻略、31日目の夜。


『奴』に敗れ、『灰髪の邪神』に落とされ、『道断の反英雄』にアルゼンチンバックブリーカーされ、現在地は再び、旧バルゴンディア王国の崩壊した大城壁。


ちょうど、初めて会った『暴風花』に襲撃を受けたのと同じ場所だ。




「へぇ、本当にいた、『黒い不審人物』だぁ」


少年のようなその声音は、どうも性別が掴みづらい。

おれは壁に背をもたれ、座り込んだままで、視線を向けた。

夜闇の中から、その人物が歩み出た。

闇に溶け込む黒い服装。

ひょろっとした細身。

小さく整った顔は人懐っこそうで、活発な印象を与えるショートボブくらいの髪。

参った、外見でも性別がわからない。

でもたぶん、男、かな。


(ふむ、なぜわかるのだ?)


おれが女の子大好きだから。


(えぇ……)


この人、かわいらしいようにも見える顔立ちだけど、本物の「女の子のかわいさ」を持ってないんだよな。

だから男だ。

うん、完璧に男だ、勘だけど確信した。


(すごいのかすごくないのかよくわからない観察眼……)


うん、自分でもちょっとそう思う。

さて、アホな思考でひとまず気分転換できたかな。

この話題はお終いだ。

囲まれてるからね。

なのに、一人しか姿を現さないし。

ちょっと物騒すぎるよなぁ。


あっ。


(ん、どうしたのだマスター?)


しまった、空から落ちてる際中に、フードがはずれてそのまんまだったんだ。

こんな怪しい人物に、素顔を見られた。

なんか前にも同じような失敗しなかったっけ。

うん、もう遅い。

中性的なその黒い男と、目が合ってしまっている。


「ははっ、はははは」


えっ、こわい。

急に笑い出した。

なにこの人こわい。


「あははははっ、『黒い不審人物』って!」


「笑っちゃうよねぇ、ボクら、みんなそうじゃない」


うん?

ボクら、みんな、そう?

『黒い不審人物』のこと?

あぁ、いやたしかに、この人も、全身黒ずくめの装備だな。

あと不審人物でもあるよね。


「ねぇ、どうしちゃったの?」


「こんなに簡単に足取り残しちゃうなんて、随分『らしくない』じゃない?」


……あぁ、そうか。

この話の流れ、そういうことか。



「らしくないと思うなぁ、ねぇ、『刈り取る闇』さん?」



この男は、『邪剣使い』の過去を知っている人物、ってことだ。


「どうしちゃったのさ、今までずっと、隠し通してきたじゃない。『闇』のように姿を消して、教団の追っ手から逃げ続けてきたじゃない」


「それが、ははっ、『黒い不審人物』だって」


渇いた笑い。


「ねぇ司祭様、なんでこんなところで、こんなボクなんかに見つかっちゃうのさ?」


冷たい刃物のような声。


「キミはボクとは違う」


「ボクは……あははっ、知ってるでしょ?」


「ボクはただの、『声』にしかなれなかった」


「でもキミは、ねぇ司祭様、そうさ、キミは『闇』の使徒名を授かって、司祭様になったんじゃないかぁ」


「それなのに、キミは………」


なんらかの感情に歪んだ瞳。

細く黒い男は、それを隠すように仮面のような笑顔を作った。


「でもいいんだ、こうしてまた会えたからね」


「ねぇ、『3813番』、ボクのこと覚えてる?」


質問がきた。

でも、答えられない。

『邪剣使い』は喋れない。

喋れたとしても、おれは『邪剣使い』の記憶を知らない。

だから、目の前の人物が何者なのかはわからない。

『3813番』、なんの番号だ?

それに、なんかいろんな呼び方をされてるな。

おれの沈黙に、相手はニッコリと笑う。

その笑顔は、やはり言うまでもなく作り物のよう。


「『3821番』だよ、やっぱり、忘れちゃったかなぁ」


「いいんだ、しょうがないよ。粒揃いって言われた『岩室の38番代』の中でも、キミは特に優秀だったんだもの。ボクみたいな取るに足らない存在なんて、眼中に無くて当たり前だよね」


「キミがいなくなってからね、『3814番』と『3802番』も使徒名を授かったんだよ」


「『3802番』は、『反英雄』」


「『3814番』は、『魔女』」


「信じられないでしょ、あんなやつらが司祭様だなんてさ」


へぇ、『反英雄』だって。


(なるほど、使徒名とは、そういうことか)


邪剣が何かに思い当たったらしい。

あぁ、邪剣が理解できた、ということは、つまりそういうことなんだろう。


(『反英雄』とは、第十三使徒、あの『道断の反英雄』のことであろう)


(ならば『魔女』というのは、第一使徒、『裁判狩り魔女』のこと)


(そして『闇』は、第十一使徒、『嘲ける闇』)


(みな、かつて対立期において、邪神様の使徒となったものたちの二つ名だ)


邪神の使徒か。

なるほどね、それが使徒名という言葉の意味か。

全部、やたらと中二病くさいな。

しょうがない、だって邪神だもんね。

まぁそれはいい。

この身体、『邪剣使い』は、『刈り取る闇』と呼ばれていたらしい。

邪神の使徒だった『嘲ける闇』とやらにあやかって、『刈り取る闇』という異名が付けられていたわけだ。


「ねぇ、『3813番』、どうしてなの?」


「『刈り取る闇』、使徒名を授かって、たった十四しかない司祭の座を手にして、それなのにどうして……」


「どうしてキミは、教団を裏切ったの?」


番号、使徒名、司祭、教団。

そして、裏切り、か。

なんとなく、少し読めてきたな、この『邪剣使い』の身の上が。

邪神の使徒の名を継いでいる、教団という組織。

そうだ、教団という言葉を、今日、おれは別の場所でも耳にしている。

バルゴンディアの王都でちらりと聞いたその言葉を、頭の中に思い浮かべた。



ーーーお前さん、邪神教団か?ーーー



義憤に燃えていた、あの男の眼光を思い出した。

王都で会った、火事場泥棒だ。

幼い兄妹を拾って、そして預けた、あの妙な身なりの男のことだ。

あの男が、おれに向かって、『邪神教団』の一員なのかと問いかけてきたのだ。

あのときはわからなかったが、実は正解だったわけだ、あの問いかけは。


(そうだ、そうであったな、あのとき我も、たしかに『邪神教団』という言葉が気になったのだ。そのような教団など、我が封印される前の時代には存在しなかったはずだ)


(それと、あのチンピラ、幼児攫いとも言っておったな。なるほど、今ならばその言葉の意味合いも理解できる)



ーーー何があったか知らねぇがな、お前さん、そりゃなんだ、幼児攫いか?ーーー



あぁ、言ってたな、幼児攫い、って。

あいつ、自分は火事場泥棒のくせに、おれのこと子供を攫った誘拐犯だと思ってたんだよな。


(マスター、『幼児攫い』は第二使徒なのだぞ)


(『鳴り止まぬ幼児攫い』、その男が数多の幼児を攫い、その後の邪神軍族の礎を築いたのだ)


………そうか。

子供を攫って軍を作った、か。

そりゃクソ野郎じゃねぇか。


(すまぬマスター、落ち着いて聞いてほしい、誤解を与えぬようにしっかり説明するべきだった)


(『鳴り止まぬ幼児攫い』という男が攫っていたのは、全て奴隷や孤児や、虐げられていたものたちだ)


(その男自身も、かつてそうであったから。邪神様と、第一使徒『裁判狩り魔女』によって解放された、無力な子供であったから。だから、ただ安住の地を求めて力を欲し、子供を救うことを、己自身の救いとしていた)


(幼児攫いと呼ばれた男は、子供たちを戦いに巻き込むために攫っていたわけでは決してない)


(その男は、ただ子供たちに人並みの暮らしをさせようとしただけなのだ。しかし攫われてきた子供たちは、自ら望んで、邪神様とその使徒たちと共に戦う道を選んだ)


(その、か弱い者たちの共同体であったものが、のちに世界から邪神軍族と呼ばれるようになったに過ぎんのだ)


「ねぇ、答えてよ、どうして裏切ったのさ?」


黒く細い男の、暗い瞳がこちらに向けられている。


「ううん、やっぱりいいや、答えなくてもいいよ」


また、作り物の笑い顔。

それが、歪んでいく。


「ボクは、ボクだけは、キミの考えていることがわかるから」


「はははぁっ、ねぇ、ボクだけなんだよ、キミのことを理解してるのはっ!」


「キミも、邪神様を愛している、だからこそ邪神教団を裏切ったんでしょう?」


なにを、言ってんの、この人?

恍惚とした表情。

あっ、やばい。

この人、マジでアレだ、ヤバイ人だ。

あの変態邪神を愛してるとか、やばすぎてヤバイ。

やばすぎておれの語彙力もヤバイ。


「我ら邪なるしもべ、謝意を示し、畏敬を捧げ、信仰を誓います」


「悪行の限りを尽くし、悪徳を積み上げて、御許に罷り越しまする」


「大いなる邪神様の御国を、再び地上に来たらせたまわんことを」


うわやばいって。

顔つきがヤバイ。

イッてる。

この顔は絶対にイッちゃってる。

マジヤバイ。

さすが邪神教団だわ。

これはたしかにクソ変態邪神の教団だと思う。

完全に変態。


「あはぁ……」


「ねぇ、キミは、邪神様に悪徳を捧げるつもりなんでしょう?」


「あははぁ……だからキミは教団を裏切った、教えに背いた、『背教者』になった」


「あはっ、ははははっ、背教っ、裏切りっ、やっぱりキミはすごいよ、それこそ最高の悪徳じゃないか!」


「邪神様復活のためにっ、キミは自分を犠牲にしたんだっ、生け贄になったんでしょう!?」


「だからボクが殺してあげる」


「キミを生け贄に捧げて、ボクは同胞殺し、背教者狩りの悪徳を積むんだ」


あぁ、こういうキャラなんだなぁ……。

中二病患者が書く物語には、必ず一人はこんなキャラが出てくるんだよね……。

正直、苦手です。

そんで、背教者狩り、ですか。

なるほどね。

たぶん、抜け忍狩りっぽい感じのやつだよね。

嫌な予感しかしないんだが。

この残念な異世界特有の、とびきり残念で厄介な無駄に苦労する予感しかしない。

いや、ホントに、どうすんのこの展開?

邪神教団とかいう変態しか存在しなさそうなヤバイ組織、ゼッタイ関わったらダメだよね。

おれの使命は『奴』を倒すことだから、こういう変態系の人たちは放置でいいよね?

うん、逃げよう。

めんどくさい。

もう逃げます、はい決定。


とりあえず立ち上がる。


38…何番って言ってたっけ、この人。

どうしよう、おれが立ち上がったら、めちゃくちゃ嬉しそうな顔になってるんだけど。

あっ、こいつ剣抜きやがった!

剣身が黒い。

黒鉄の剣、か。


「やっぱりそうなんだっ、嬉しいよっ、キミはっ、ボクをっ、あぁっ、やっとボクを認めてくれたんだね!?」


これは、よくわかんないけどなんか完全に勘違いしてるなぁ……。

逃げるつもりで立ち上がっただけなのに。

逃げたいから話しかけないでほしい。

なんかこう、やっぱり、話しかけられると聞きたくなっちゃうからさ。

残念異世界物語だから情報がめっちゃ貴重だし、ついつい耳を傾けてしまうよね。

この人すごい苦手なんだけどね。


「ボクはっ………あはぁ、ねぇ、覚えてる?」


「ボクは、ずっと覚えてるんだ」


「ほら、背教者狩り、懐かしいよねぇ、野外教練の際中にさ、ボクたち岩室のみんなでやることになってさ!」


「あぁっ、本当にすごかったよねぇ、キミはっ!」


「ボクらの標的、狩るべき背教者はなんとっ、先代の『闇』の司祭様っ、果敢に挑んだボクら『岩室の子供たち』は次々に斬り捨てられ、先導役だった『声』たちは、司祭の実力を目の当たりにして、みぃんな腰抜けの役立たずに早変わり!」


「キミだけだった」


「最初から最後まで、あの背教者を確実に殺すために動いていたのは、キミだけだったよね」


「敵は、我らが邪神教団の誇る、十四司祭の内の一人だった男。実力の差なんて明白なのに、キミは、キミだけは……」


「最初から観察してたんでしょう、敵の動きを。ボクら岩室のみんなが殺されていく様子を、キミは冷静に観察し続けたんだ。そして、味方をエサにして、敵がエサに喰らいつく瞬間を狙って……」


「あはぁ……本当に美しかったぁ、背後から首を刈り取った、キミのあの一閃………」


うっとりしながら、黒鉄の刃に指を這わせた。

指先が裂け、血液が滴る。

舌を伸ばして、血に濡れた指に絡めていく。

変態だ。

それはいい。

どうでもいい。

そんなことよりも、おれは、聞き捨てならない言葉を、聞いてしまっていた。

聞かなければよかった。

すぐに逃げ出していればよかった。


『岩室の子供たち』、この男は確かに、そう、言っていた。


子供たち、だと?


斬り捨てられた、だと?


「あははぁ、背教者狩り、ボクはね、あれは、最高の野外教練になったと思ってるんだ」


「だからね」


………どういうことだよ、邪剣。

戦わせるつもりではなかった、そのはずではないのか!!

ただ人並みの暮らしをさせようとした、それが救いではなかったのか!!

遠い昔の『鳴り止まぬ幼児攫い』という男は、かつての邪神の使徒は、子供たちを救っていたのではなかったのか!!!

だがこいつの、この男の言い草はッ、まるでッ!!!!


(こんなはずないっ……)


(こんなもの、邪神様の教えであるはずがない!)


(こんなものが、『邪神教団』なんかであるはずがない!!!)


「紹介するよ、『刈り取る闇』さん」


「この子たちが、ボクが『声』として先導している、『岩室の40番代』の子供たちだよ」



夜の闇から、音も無く、黒ずくめの子供たちが四人、歩み出てきた。

その闇よりも、暗い、昏い、なんにもない、子供の瞳。



「ははっ、この子たちの気配、キミには読めてたのかなぁ、なかなかよく仕込んであるでしょう?」



まるで、子供に戦闘をさせることが当然のことであるかのような、そんな物言い。



「この子たち、とぉっても良い子で、覚えが良くって」


「特にこの子、『4013番』、あはぁ、キミと同じ13番でね、この子、ボクみたいに可愛い顔してるでしょ?」


「だから、あっちももう仕込んであるんだよ」


「キミも死ぬ前に試してもいいよ、ちゃんとイイ声で啼くように…」



ぶん殴った。



『邪神教団』、ぶっ潰す。


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