謎女神様、にっこり笑う
ど、読者様いらっしゃってた!
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恐れ多いことでございます!!
運命改変アクションRPGを全クリしたんだが、チュートリアルが終わったんだそうです。
にっこーり、と上機嫌な顔の謎女神。
「それじゃあさっそくキャラクターセレクト!いってみよーう!」
ヴーーン、という効果音と共に、まるでスクリーンかなにかがあるかのように、謎空間に3人の人物の映像が投射される。
「好きなキャラを選んでね!あっ!す、好き、って……そういう意味じゃない…からね…?」
残念カワイイ謎女神!!
我が身既に残念カワイイ神教の使徒なり!
唱和せよ!
残念カワイイ謎女神!!
唱和せよ!
残念カワイイ謎女神!!!
とかふざけてる場合じゃねぇぞ……。
オイオイどうすんだよこれ。
この3人のキャラクター、1人も見覚えが無い。
「とりあえず質問な?」
おれの問いかけに、んー?と首をかしげて応じる謎女神。
「こいつら誰?」
「えっとね、『邪剣使い』と『無明の万眼』と『若き木狩りの戦士』、だって!」
残念カワイイ謎女神!!
なんなの、その二つ名、おれの中二病魂がうずくんだけど。
っていうか、せめて指差したりしながら紹介して欲しかったよね。
どれが誰かわかんないじゃん?
あとさ、おれは、「なぜ全く知らないキャラが出てきたのか?」を知りたかったんだ。
おれの質問が悪かったの?
でもさ、ゲームの「ヴァーランド・リフォージ」に、こいつら出てきてなかったじゃん?
質問の意図ってわかるじゃん?
そうだったね、謎女神に多くを望んじゃいけなかったね!
そうだよな、残念なんだよな!
カワイイ過ぎてつい忘れがちだけど!
残念カワイイ謎女神!!
おれは聖句を唱えることにより、心の平穏を取り戻した。
まぁ、どれが誰かは、よく見ればわからないこともない。
1人あきらかに目をつぶってるやついるし、無明、つまり盲目なんだろう、こいつが『無明の万眼』なんだろうな。
外見は、ボロボロの外套に身を包んだ、ぶっちゃげ浮浪者だ。
目が見えないなら外見を気にすることもないんだろうが、その苦難の境遇が窺い知れる。
しかし『無明』なのに『万眼』てどういうことだ?
あぁそうか、よくある「見えないからこそ心眼で余計に見える」的なキャラか。
ゴツゴツした岩っぽい棒?杖?
長さは身長を超えてるし、なんか片方が微妙な尖り具合だけど、岩の槍、か?
これが武器なのか?
それとコイツは装備でわかる。
頭部を覆い顔を隠す黒の頭衣に、全身を包み隠す黒のロングコート。
黒鉄のライトガントレットに、黒鉄のチェインブーツ。
その左手には、禍々しい装飾の入った剣が収められた、鞘を握りしめている。
『邪剣使い』以外の何者でもない。
歩く中二病そのものである。
なんで腰に提げずに鞘を握り締めてんの?
コワイだろ、通り魔かよ。
片手ふさがってたら不便だろ。
まぁ、コイツは悪人だろうな。
武器が邪剣だし。
消去法で残った1人が『若き木狩りの戦士』だろう。
短く刈り込まれた赤毛に、褐色の肌、少し幼さの残る、精悍な顔立ち。
身長は低く、戦士というほど肉体は太くない。
しかし、肌が露出している部分からは、鍛え込まれた濃密な筋肉なのだということが見てとれる。
軽装だな。
戦士ってよりはレインジャーか?
虫かなにかの甲殻とおぼしき、手甲、胸当て、脛当て。
短弓と矢筒を背負い、腰には幅広の短剣が2本、左腕に小さな円盾。
他の2人に比べて、キャラとしての使い勝手はきっと良いんだろうな。
うーむ。
どうするか。
キャラクターの外見だけだと、やっぱり決め手に欠けるな。
「なぁ、謎女神、『無明の万眼』を選んだ場合、スタート地点はどこなんだ?」
「えっとねー、バルゴンディア王国のナーン森林、だって!」
「どこだよそれ!?」
んー?と首をかしげる謎女神。
残念カワイイ謎女神!!
なんだよおかしいだろ。
3人のキャラクターを知らなかったのは、まだ納得できる。
いくらキャラ数が多かったとはいえ、「ヴァーランド・リフォージ」はたかだかゲームだ。
異世界の人間全てをゲーム内で再現したなら、さすがに全クリなんかできるわけがない。
しかし、知らない地名や国名まで出てくるとなると話は別だ。
今起こっているこの事態、いくつかの結論が想定できる。
例えば、ゲームではヴァーランド暦861年からスタートだったけど、今度はちょっと別の時代、とか?
いやいやいや。
いや、もうさ、正直ね、ちょっと嫌な予感はしてるんだよ。
だけど認めたくないの!
コワイの!
今すっごいコワイの!!
これを聞かないと前に進めないってわかってるの!
誰だって現実から目を背けてしまいたいときだってあるよね!!?
……………はぁー。
イヤだ。
聞きたくない。
もう答えはわかってるもの。
ホントに残念女神だよね?
「あのさ、おれって、これからヴァーランド・リフォージの世界に行くんだよな?」
「んー?ちがうよ?あれはチュートリアルだよ?チュートリアルは終わったんだよー?」
「じゃあ、アレですか、アレですよね、膨大なプレイ時間を使って積み上げたおれのヴァーランド・リフォージの原作知識は、これから行く異世界ではまるっきり役に立たないってわけですか?」
「え?原作知識?」
キョトーン?ってしないでええぇぇぇーーッ!!?
ああああぁぁぁーーーーーッ!!!!!
そうだよねッ!!?
だって知らないキャラだもんね!!?
チュートリアルが終わったんだもんね!!?
原作知識とか、ぷーっクスクス、だよね!!?
残念カワイイ謎女神!!
残念カワイイ謎女神!!
残念カワイイ謎女神!!
「もう帰りたいんだけど」
「ムリ」
にっこり!
運命改変アクションRPGを全クリしたんだが、チュートリアルが終わったんだそうです。
帰りたい、この笑顔。