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2キャラ目、参戦

申し訳ございません、なんだか今回はうまく書けず、更新が遅れてしまいました。







「天秤の第一陣、第二陣は一瞬で喰われてしまったらしい。空間が存在する世界そのものを喰らい尽くす、あの不可視の破壊。それと知らずに相対していれば、私も確実に喰われて消滅していたことだろう」


金髪碧眼、白銀を纏う女騎士、『天秤』である『暴風花』が、無表情の棒読みでそう言った。


「強者の肉体、それに宿る魂、天秤どもを制御するために付加されていた均衡律の片鱗、みすみす呪いのエサにくれてやったか」


灰色の髪、灰色の毛皮。

地に伏せる白竜の鞍にちょこんと腰掛ける少女が、幼い顔に不敵な笑みを浮かべている。

その中身は少女ではなく、変態邪神が巣食っている。


「ふふ、ふふふふふふ、駄目だ、駄目だよ、可愛すぎる。少しだけ君の頭をよしよしと撫でさせてはもらえないだろうか。ふふふ、いや、冗談だ。君も、この世界も、すっかり様変わりしてしまったのだね。会えて嬉しいよ。これほど永い時を超えることになるとは、思ってもみなかった」


「お前との再会はこれが初めてではない。天秤に成り下がったお前とは、幾度か対面しているぞ。もっとも、記憶に残ってはいないだろうがな。天秤と成ったその時にお前の魂は固定されている。劣化もなければ成長もない、実に醜悪な存在だ」


「そう、か。なるほど、君はずっと天秤を嫌っていたね。そうか、知らぬ間に、既に君とは再会していたのか。使役されるその度に、その記憶は消えてしまうわけだ。いかなる変化も許されない、むなしいものだな、これが天秤になるということだったのだね」


「しかしまぁ、お前はもう魂が解放されているだろう。常の天秤とは既に事情も変わっているはずだ。昔ほどの美しさは失せたが、それでも今のお前の魂はそう悪くない。誇るがいい、この邪神たるオレが賞賛してやる」


「ふふふふふ。礼を言いたいところだけど、その前にいいかな。邪神。邪神と言ったね、いったい、誰が邪神だって?」


「このオレが邪神だ」


「君が邪神?」


「もう随分と昔から、このオレが邪神なのだ」


「ふふ、ふふふ、やめてくれ、ふふふ、駄目だよ、ふふふふふふふ、その見た目で、ふふふふ、君が、その可愛らしい見た目で、ふふふふふふ、君が、よりにもよって君が邪神だなんて、ふふふふふふふ」


「チッ、中身は変わっておらんな、暴風花。やはりお前は煩わしい」


「ふふふふふ、はあ、可笑しい。では、あの頃の、ふふ、あっ駄目だ、ふふふふふふ、少し待っていて、ふふふふふふふふ……」


なにやらツボに入ってしまったらしく、『暴風花』は無表情の棒読みのままで笑い続けている。


今のやり取り、気になるところがあったな。

『暴風花』は、邪神が邪神だってことを知らないのか?

ちょっと意味わかんないね。

あっ、いや、そういえば、邪神が邪神って呼ばれ始めたのは対立期から、だったっけ?

歴史の勉強したとき邪剣に教えてもらったよな。

そうすると、それより昔の統一期に生きていた『暴風花』は、まだ邪神のことを邪神って呼んでなかったわけか。

さっき変態神とか呼んでたけど。

なんですか、「変態を司る神」ですか?

たまごから生まれたあおむしがサナギになってちょうちょになる的な?

マジか、それは完全変態だな。

あと、もう一個気になることがあるな。


さっきからおれが蚊帳の外だってこと。


異世界物語の定番的には、おれって主人公的な感じのはずだよね?

でも蚊帳の外。

おかしくない?

完全に部外者。

まぁしょうがないよね、『邪剣使い』は喋れないんだもん。


(まぁ、喋れてもきっと蚊帳の外にされる状況だと思うぞ!)


うん、おれもそう思う。


(でもマスター、あの弱そうなのも蚊帳の外だから、マスターだけが放っておかれてるわけではないのだぞ)


あぁ、あの残念イケメンな。

誰なんだろうね、あの人。


大きな岩の上に縮こまって座る巨躯の緑竜。

その背に固定された旅荷物の傍らに、細長い棒状の包みを背負った青年が座っている。

くすんだ金髪はボサボサで、ボロボロの外套を身に纏っている。

あの懐かしの浮浪者スタイル無明さんのよう、とまではいかないが、貧乏で幸が薄そうな苦労人といった風情だ。

っていうか、実際絶対に幸薄い人物な感じする。

蚊帳の外すぎて、諦めの色が浮かんだ瞳で遠くの戦場をぼけーっと見つめている残念イケメン。

遠くの戦場では、『反抗の英雄』の火炎が燃え盛り、『道断の反英雄』が振るう暴力の轟音が鳴り響いている。

そして『奴』の気配が、不快な悪寒とともに蠢いている。

………だから、あんまりのんびり喋ってる場合じゃないと思うんですが、どうでしょう。


「ふふふふふ、………ふぅ。では、あの頃の、あの邪神はどうなったのですか。史上最悪の邪神と呼ばれた戦神、あの戦乱を司る神は?」


笑いの泥沼から復帰した『暴風花』が、幼い姿の邪神に再び話しかける。


ふむ、「戦乱を司る神」、それが邪神と呼ばれていたわけか。

戦乱ねぇ。

懐かしいなぁ。

ただのチュートリアルだったアクションRPG「ヴァーランド・リフォージ」の、戦乱の世界ヴァーランド。

あのゲームにも戦乱を引き起こしたラスボス級の神がいたっけなぁ。


「おい天秤、神の木偶よ、均衡律に使役されるその身ならば、世界の理と繋がっているはずだ。その程度のことは己で知ることができるはずだろう?」


「私はね、そんなふうにして知りたくはないのだよ。この魂が眠っていた間の出来事、特に、私が生き抜いたあの時代のことはね。だから、君の口から聞きたいんだ。あの当時を知っている、君の口から」


「くくっ、くくくっ、不愉快だな」


邪神が嗤った。


「お前が天秤のその口調で言葉を吐くのは、やはり不愉快だ。愚か者が、ならばお前は、最後まで生き残るべきだったのだ。お前が仕えた男の最後を、その目で見届けるべきだったのだ」


そして暴風花は、やはり笑った。

笑顔の表情も、笑い声の抑揚も欠けた、心からの笑い。


「ふふふふふ、外見だけではないのだね。君は、少し変わった」


「私は謳歌したのだよ、自分の生を、その最期まで。とはいえ、どうやら最後にはならなかったようだけどね。ふふふ、君はいつからそんなに優しくなったのかな」


邪神は言葉を返すこともなく、ただ目を少し細めただけだった。


「ありがとう」


「あの時代は、もう終わったのだね」


「ようやく、ようやく私の心に決着をつけることができた。この世界、私の見慣れぬバローグ。どこか懐かしい気がする城壁が、崩れ落ちてなお立ち尽くしているのを見たよ。ふふふ、終わったのだね、遠い昔に」


「我が戦友、我が精兵、我が強敵」


「彼らの生死は果てまで巡り、私だけが死生を越えることなく、永き時を超えてしまった」


「我が主君の最期は、きっと君が見届けてくれたのだろう?」


いっそ痛ましいというべき程に、邪神は少女の顔を歪めて笑みを浮かべた。


「………くだらん男だった。最後までな」


「ふふふふふ」


「チッ、まぁいい、先の問いには答えてやる」


「先の問い?」


「クソの戦乱、あの最悪の邪神であった戦神の末路を教えてやる」


「あぁ、それはたしかに知りたいですね。どうなったのですか、あの戦乱を司るクソ男神は?」


「オレが喰った」


「喰っ…………ふふふ、ふふふふふふ、それは残念、あのクソは是非とも私の手で討ち取りたかった」


「しかし、ふふふふ、やはり君は、またそうやって我が主君を助けてくれてしまうのだから、ふふふふふ」


「バカが、あの男のことなど知ったことではない、ただオレがあのクソの戦乱を消滅させたくなっただけだ」


「ふふふ、そして君が邪神と呼ばれるようになったと。あのクソの戦神が史上最悪の邪神なら、君は史上最強の邪神、といったところかな。しかし君が喰ったとなると、戦乱を司る神を引き継いだ者などいないのだろうね?」


「あぁ、無論だ、戦乱の力は全てオレの腹の中に収めてやった」


邪神はそう言って、その小さな身体に纏う灰色の毛皮の隙間、おへそが覗く少女のお腹をペチンと叩いた。

いや、そのお腹はお前のものじゃないから。

さっさとその子に返せよ。

っていうか帰れよ。


「ふふふ、やっぱり可愛い。でもお腹はちゃんと隠さないと、ぽんぽん痛いになってしまうよ」


えーと、あの、あなたもおへそが見えてるんですが。

その規格外巨大質量兵器に白銀の衣が引っ張り上げられてるからごめんなさい睨まないでください!!

蚊帳の外にしてたくせに胸部を見つめた瞬間殺気を飛ばすとかやめて!

ひどい!!!

邪剣さん、この扱いはひどいと思いま…。


(思わない。残念マスター。駄乳死すべし。Cこそ至高)


「ひいっ!ごめんなさい!!」


えっ、残念イケメン?

どうやら緑竜に乗っている青年も『暴風花』に睨まれたらしい。

おまえってやつは………。


「あっと、気が逸れてしまった、そう、それが重要なのだけど、戦乱を司る神がもはや存在しないとなると、その恩恵も失われてしまったのだろうね。先程は『乱闘の神助』の条件を満たしていたと思ったのだけど、どうも力が得られなくて」


「脆弱な人間には難儀なことだな。『勇戦の神助』はどうした?あの呪いが相手ならば………いや、チッ、武勇め!」


「そう、『勇戦の神助』も失われているのだよ。つまり武勇を司る神も……」


「武勇の気配が消え失せている!それだけではない、闘争もだ!武神闘神、揃いも揃って何をやっている!!まさかあの呪いの権化にやられたというのか!?くくくっ、だとするならば、オレのバローグで随分と楽しんでくれているようだな!?」


「なんと、闘争を司る神までも消えていましたか。そうなると『争武の神助』にも期待できないのだね。武勇を司る神の『勇戦の神助』、闘争を司る神の『争武の神助』、戦乱を司る神の『乱闘の神助』、あの化け物相手にいずれの神助も得られないとなると、なかなか骨が折れますね」


「『武・闘・戦の三柱』がこのバローグから消え失せるとは、くくっ、くくくくくっ、この世はいつから楽園に成り果てた?オイ、お前も剣を棄てたらどうだ?その鋼鉄の貞操帯を外すときがとうとう訪れたなぁ!くははははっ!!」


「その外見で下品なことを口にするのはやめなさい、変態神。というか、貞操帯など着けていないと何度言ったらわかるのですか。君がそんなことばかり吹聴するから、私のことを誤解する殿方が増えるのです。そのような道具に頼らずとも、私は私の意志できちんと貞淑に過ごしているのですからね。あと、他人事のように言っているけど、三柱のうち、戦神を消したのは君なのだからね。まぁ、そもそもあのクソの戦乱が消し去りたくなるようなクソ男神だから悪いのだけど。いや、それはもはやどうでも良いのだよ。それよりも……おっと」


「暴風花が汝らに告げる」


「すまない、限界だ、弱まっているとはいえ、均衡律の拘束が無くなったわけではない。また戦いに戻ることになった。続きは後ほど」


言い終わらないうちに飛び上がり、女騎士は風と共に去っていった。

唐突に現れたと思ったら、去っていくのも突然だった。


「さて、オレもヤりに行くとするか。久しぶりに楽しめそうだ」


邪神が鞍に跨りながらそう言った。

伏せていた白竜が体を起こす。

マジ邪神やめろ。

その少女の見た目でちょっと卑猥に聞こえる発言をするのはやめろ。


「あぁ、貴様に言っておくことがあった」


白竜が飛び立つ直前に、灰髪の邪神がこちらを振り返る。

小柄な竜の羽ばたきの中、遮られることなく、その言葉が耳に届いた。


「オレの一部であったモノを女にしたのだ、その責任は取ってもらうぞ、運命改変者」


なァッ!!!?


(えっ!!?)


ちょっ、待っ、マジ邪神!!!

蚊帳の外にしてたくせに急になに言い出してんの!!?

そんでそのまま竜に乗って飛んで行っちゃうの!?

ふざけんなおまえマジふざけんな!!

うわなにをするやめろ!

邪剣!!

めっちゃ身体を侵食してくる邪剣!!!


(マスター!聞いたか!?やはりマスターには責任があるのだぞ!ちゃんと責任取ってよね!!)


お願い邪剣落ち着いて!!

責任ってまだなにもナニもしてないじゃない!?

っていうか剣だからできないじゃない!!!

どういうつもりだあの邪神!

うちの邪剣を煽り立てていったいなにを企んでやがる!?

しかも幼女の見た目で変な発言しやがって!!

見ろよ、残念イケメンがドン引きしてるじゃねーか!!

あっちはあっちで完全に誤解してるだろ!

おれのこと変態という名の紳士を見る目で見てんじゃねーか!!?

おれのこと邪神幼女の身体の一部を女にした外道紳士として見ちゃってんじゃねーか!!

違うからね!?

三次のロリはノータッチだろ!?

イエスロリータ・ノータッチは鉄の掟でしょ!!?

っていうか二次だから!!

おれの中ではロリは二次のみだから!!!

わかれよ!!

たしかにおれは貧乳も大好きだよ!?

だけどちっぱいの良さは成人しててこそだろ!!?

大人になってるのにぺったんこだから良いのであって、育ってないから小さいロリとはなにもかもが違うんだよ!!

もちろんその良さも理解できないわけじゃないけどな!!?

でも三次はダメゼッタイ!!


(あの、マスター、すまん、我もちょっと悪ノリしてみただけだから、少し落ち着いてくれい)


悔しいです!

あの残念イケメンに「うわぁ性犯罪者だ……」って顔で見られてるのが悔しいです!!

あれ?

っていうか、今この場にあの残念イケメンと緑竜とおれしかいないじゃん。

うわ、気まずい。

知り合いの知り合いと二人で取り残されるとかホントきつい。


「あっ、僕の騎竜、また乗って行かれてる……」


ボソッと呟いて情けない顔になった残念イケメン。

そしてため息。

どうしよう、こんなシケたツラした男といっしょにいたくないなぁ。

巨乳の美女とかならともかく…。


(マスターさん、魂喰べられたい?)


邪剣さん、ごめんなさい。

まぁ、かといって、そそくさとこの場を離れるのも、なんかそれはそれで気まずいよね。

でもこのままここにいたら、話しかけられちゃうかもしれないよな。

『邪剣使い』は喋れない。

話しかけられたらホント気まずい。

とりあえず、話しかけんなオーラを出しとこう。

あっ、そうだ、結局ずっと顔は隠してなかったんだよな。

話しかけんなアピールのために、フードかぶっとこう。

暗黒の頭衣で顔を隠すぜ!

おれの中二病レベルが跳ね上がるぜ!!

これで良し。

話しかけんなよ?

絶対話しかけんなよ!?

絶対だぞ!!


「あー、あの、どうも、はじめまして?」


話しかけんなよおぉーーーッ!!!

もおぉぉーーッ!!!


「えーと、なんだか、その、大変な状況ですね?」


こいつッ!!

一瞬で気まずさに耐えられなくなって話しかけてきやがった!

「今日は良い天気ですねー」的なノリで話しかけてきやがった!!

いや、なんだか大変な状況だとか言ってる場合じゃないほどの状況だからね!?

バカなの!?

誰なの!?

ほら、喋れないよ!

どーすんの!?

『邪剣使い』は喋れないんだよ!!

会話が成立しなかったらおまえいったいどーすんの!?


「………あー、えと、なんだかすいません」


諦めたァァーーーッ!!!

早いッ!!!

速攻で諦めて謝りやがった!!

それ最悪のやつ!!!

より一層気まずくなる選択肢だからね!?

くそ!!

しょうがない、やってやる。

こうなったらやるしかない。

見せてやろう、このおれの、喋れないジェスチャーを!!

おれ、喋る、できない!!

おれ、喋る、できない!!!


「……………え?」


変人を見る目だァァァーーーーッ!!!

「え、なにこの人こわい」って顔に書いてあるゥーーーッ!!

察しが悪い!!

でも負けないッ!!

おれ、喋る、できない!

ほら!!

喋れないことを伝える手段はこれしかないよな!?

身振り手振りで伝えるしかないよね!?

おれ、喋る、できない!!

わかれよ!!!


「………あっ、ギャオギャオ?」


は?

ギャオギャオ?


「なるほど、やっとわかりました。すいません、そういうことでしたか!」


あっこれ、たぶんわかってないやつだわ。


「ギャオギャオ、つまり竜!!」


「竜は、好きじゃない、そういう意味ですよね!」


いや待てって……。

もう、またですか?

またこのパターンなんですか!?

チガウチガウ!!

「竜は好きじゃない」ジェスチャーじゃないよ!?

「喋れない」ジェスチャーをしてるだけだよ!!?

「口呼吸できない」だとか「竜は好きじゃない」だとか、どうしておまえらそんなに複雑で限定的な状況にさせたがるの!?

そこらの門番でもわかってくれたんだからね!?


「すいません、そういうことでしたら、すぐにこの場を離れて………あー」


「いや、すいません、離れるのはいいんですが………」


なんだよもう。

別に引き止めてないし、気まずいだけだから離れてくれるならそれがいいんだけど。

いい加減に戦場の観察に戻りたいし。


「あぁ、もう、あの邪神……様、僕の騎竜を!それにあの子も!!」


「はー……ふー……怖い怖い怖い怖い」


どうしたのこの残念イケメン、なんでブツブツ言い出した?


「はー……ふー……すいません、お騒がせしました!」


青年は竜の上に座ったままこちらにさっと頭を下げると、鱗に覆われた緑竜の肌に自分の額を押しつけて、手のひらで緑竜を叩き始めた。

するとすぐに緑竜は体を起こし、大きな翼を広げて上空に舞い上がっていく。



そして、残念イケメンを乗せた緑竜は、そのまま戦場に向けて飛んでいった。



………あいつ、進みやがった。

この場を離れる、って、遠ざかるんじゃないのかよ。

あの戦場は、遠目に見ても異常なほどの広範囲が炎に包まれている。

何者かが暴れ回る豪快な破砕音が鳴り響いている。

さらに、『奴』が振り撒く不快な恐怖が絶え間無く押し寄せてくる。

あんだけ怖がって、邪神にも臆病とか言われてて、それなのに進んでいきやがった。

誰なんだよ、あいつ。

バカだろあいつ。

ちくしょう、あいつ、ふざけんな。

何のためにおれがこんなところで踏みとどまってると思ってんだよ。

おれは冷静に、無明の怒りに呑み込まれることなく、生き残り続けないといけないんだよ。

おれは、おれは、『奴』相手には「頑張ったけど死にました」じゃダメなんだよ。

『奴』相手に死んだらおれはそれで終わっちまうんだよ!

『奴』は必ず殺すんだよ!!

だからおれはバカになれねぇ!!!

くそっ!!!

それをあいつ、あの野郎、おれの前でバカになりやがった!!

ふざけんな!!

あのバカは死なせたくねぇだろう!!!


(………ダメだぞ、マスター)


わかってる!!

わかってるけどよ!!!


(あの男は死んでも良い)


なっ!!?


(だけどマスターはダメなのだぞっ!!)


(わからんのかマスター!!?マスターは運命改変者なのだぞ!?変えられるのだ!!あの男が死んでも、マスターが消滅しなければ『次』でその運命を改変できるのだぞっ!!!)


(アレにはまだ勝てない!!!)


(あんなもの、見ればわかる!!劣化した英雄たち、弱り切った邪神様、貧弱な男と幼い竜、そして未熟なマスター!!この戦力ではまだまだ足りていない!!!)


(マスター、アナタの最後は、まだここではない!!)


空を見上げた。

青い空に、あの『血色の流星』の軌跡を探した。

わかってる、とっくに消えている。

ただ、そこにも答えがあるような気がしただけだった。

おれの愛剣。

答えはとっくにこの手の中に握っている。


邪剣が『次』を口にした。


おれが、『邪剣使い』でなくなる、その『次』の世界を、口にしたのだ。


その言葉に応えられないほどのバカには、おれはなれない。


いくつかの選択肢を飲み込んだ。


ひとまずは、ここで再び戦場を観察する。


だが、その選択肢についても思考することを止めない。


これが、今のおれにできる『奴』との戦い。




ありがとう、邪剣。


(良いのだ、マスター)


(我は、剣だから)

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