2キャラ目、集結
遅くなってしまいましたが、明けましておめでとうございます!
今後ともよろしくお願い致します!
通算55話。
2キャラ目、32話。
31日目の戦いは、まだまだ終わらない。
化け物どもが集う戦場には、辿り着いたばかりなのだ。
おれみたいな凡人とは比べものにならないような化け物たち。
その筆頭は、『認識不可』、『世界喰らい』、『神殺し』の化け物。
それに立ち向かうのは、暴力的な乳房を震わせる、『風気支配』と長剣の使い手。
そしてもう一人、腰に白銀の布を巻いただけの、ほぼ全裸の男。
とんだ猥褻異世界物語だよ。
おれのチーレム異世界物語を返せよ。
うちのヒロイン、チョロインだけど物理的にちょろくないからね?
だって剣じゃけん。
どうなってんだよマジで。
なんで肌色のシーンが男ばっかりなんですか!!?
男向けコンテンツだったはずなのに、腐女子人気を意識し始めるのはよくない!!!
小姓って!!!
おまっ、それ、『邪神の小姓』って!!!
小姓ってそれ、森の蘭の丸の人と同じじゃん!!!
あっちは第六天魔王だけども!!
なんなんだよあの太すぎず細すぎず鍛え抜かれた引き締まったイイカラダは。
でもそれ筋肉量足りないからな?
あの長柄の特大剣とかいうバカな武器を振るには筋肉量足りてませんから。
あとあの武器は絶対折れるから。
異世界ファンタジーもたいがいにしろ!!
(あっ、そういえばマスター、あの武器は折れないのだぞ)
いやいやいや!!
折れるから!
ファンタジーだけど現実だから!!
(対立期の「鍛治を司る神」が、アレのために用意した特別なものだからな)
出たよ。
はいはい、神様神様。
そういうチート的な英雄的なエピソードね。
「鍛治」の神が作ったから折れないんですってよ。
あーやだやだ!!
英雄ってすごいなー!!!
(いやマスター、邪神様に仕えたアレは、英雄ではないのだぞ。かつて対立期において、世界各国数多の英雄が参集し、邪神討伐軍なるものが数度に渡って編成された)
(「均衡」の象徴である釣り合い天秤を旗印に掲げ、「聖秤軍」と称された邪神討伐軍が進む道。『邪神の小姓』は、その正義の道のことごとくを分断した邪神軍族の戦士なのだ)
(会すれば進路無し、対すれば退路無し、敵すれば活路無し)
(畏怖と共にそのように謳われた邪神様の腹心、道を断つ者、邪神軍族第十三使徒、英雄に仇なす反英雄)
(『道断の反英雄』、それがアレのもう一つの異名なのだぞ)
なにそれ超かっこいい。
反英雄はヤバイだろ。
小姓のくせにふざけんな。
マジかっこいい。
超中二病くさい設定じゃん。
第十三使徒とかやめてくれよ。
十三って数字はナンバーオブ中二病じゃん。
しかも武器がバカすぎてかっこいいし。
ん?
あれ?
いや、ちょっと話戻すけど、今の装備が白銀ってことは、結局、均衡神か『天秤』かのどっちかに負けたんだよね。
あの白銀の装具って、てっきり『天秤』になったときに「均衡」の神が支給してるもんなのかと思ってたんだけど、あの長柄の特大剣は「鍛治」の神が用意したのと同じ物なのか?
つまり、やっぱり折れるのかどうなのか?
(あぁ、そうであった、マスターの言うとおりなのだぞ!)
(新たに『天秤』となった者の装具は、そのまま白銀へと変質するのだ。もともとの装備がそこらの代物であれば、神の影響を受けて性能が強化されることになる。しかし「鍛治」の神が作成した武器には到底及ばないはずであるから、「均衡」の影響で白銀に変質したあの武器は、やはり弱体化しているであろうな)
なるほどねー。
折れるかどうかはスルーされちゃったけど、あの武器は弱体化している、と。
へぇー、そうなんだねー、昔より弱いんだねー。
まぁ、武器が弱体化されてても、それでも充分強いっぽいよね?
『土魂支配』の岩柱を爆砕してたのって、たぶんこいつでしょ?
っていうか、あの邪神の腹心って時点で確実にヤバイやつだったじゃん。
いや、それ以前にほぼ全裸って時点で完全にヤバかったじゃん。
あと、ほぼ全裸で仮面被ってバカでかい武器持ってる見た目が超コワイ。
邪剣さん、もうちょいアレの解説を頼む!
(くふふーっ、マスターに頼られるの嬉しいぞっ!)
(やはり我には上辺の事情だけしか与えてもらっていないのだが、それでもアレは邪神様の後を追って側に仕えていた人物だからな。アレのことなら、他の人物よりは詳しく知っておるのだぞ)
(『邪神の小姓』は、対立期における邪神様の腹心だ。永きに渡った邪神様と均衡のジジイとの対立の時代の中で、アレは戦いの終焉の時代に生きていた)
(アレは、力を欲していた。人であれば及ぶべくもない、人を超えた力を強烈に欲していた。それゆえに邪神様から情けをかけられ、後に「鍛治」の神からもあの武器を授けられることとなったのだ)
(ただの弱者が、弱者のままで邪神様に挑んだ。それがアレと邪神様との出会いであったようだ)
邪剣の情報を聞きながら、戦場を観察する。
『邪神の小姓』は、その巨大な武器の長い柄を、先端の特大剣が自身の左側にくるように、右腕一本で肩に担いでいる。
そして、大量の岩で狭まり不安定になっている地形を、両脚と左腕を使って這うように駆け回っていた。
岩の間に紛れ込んでいるはずなのに、武器がでかすぎてぜんぜん隠れられていない。
それなのに、『奴』の攻撃が当たらない。
『世界喰らい』が風景を描き換える、その寸前に『邪神の小姓』は跳び退いている。
いやいやいや、ちょっと待て。
おかしいだろ。
なんでだ?
なんで寸前でぴったり避けてるんだ?
ふざけんな小姓マジふざけんな。
なんなんだよその挙動。
それじゃあまるで、まるで『奴』の攻撃が見えてるみたいじゃないかよ。
『無明の万眼』と共に戦ったとき、たしかにおれにも『奴』の攻撃、『世界喰らい』の空間破壊が『視えて』いた。
しかしそのときは万眼先生の『視える』能力があって、さらにあの先生がおれに補正情報を与えてくれていたのだ。
だから今のおれには、あの破壊が見えていない。
破壊の予兆、空間に走る亀裂は見ることができず、突然風景が描き換えられたように見えている。
今のおれでは、『邪剣使い』では『世界喰らい』を回避できる自信がない。
この戦場に来てよくわかった。
『認識不可』の有無に関わらず、『世界喰らい』はもともと不可視の攻撃だったようだ。
だというのに、『邪神の小姓』は『世界喰らい』を回避し続けていた。
(アレの最大の長所は、回避力なのだぞ。迫る危険を瞬時に察知して、常人を超えた身体能力でそれを回避する)
(邪神様の祝福によって成長率が増加したアレは、いくつもの戦場を踏み越え、「鍛治」や「武勇」といった腕自慢の神々に挑んで生き延び、それによって『道断の反英雄』と称されるまでの成長を遂げたのだ)
(もともとアレは「闘争を司る神」のもたらす『闘心の神授』によって、『戦闘勘』という能力を生まれ持っていたのだ。その能力があったために激戦の中でも生を拾い続け、そして『危難瞬察』という稀有な能力を開花させるに至ったのだぞ)
危難、瞬察?
「闘争を司る神」だとか能力を生まれ持っただとか超重要そうなワードが飛び出てるけど、今はそれどころじゃないからあとで教えてもらおう。
それよりもちょっとよくわかんないんだけど、勘、なのか?
つまり、あの小姓には『世界喰らい』は見えていなくて、ただ察しているだけ、ってことか?
(うむ、あの能力は視覚を強化しているわけではないからな。だから不可視の攻撃でも回避することができる。マスターの魂にわかりやすいように言うなら、確信的な嫌な予感、といった感じだぞ!)
なにそれわかりづらい!
でもなんとなくわかるからすごい!
勘がすごすぎて見えない攻撃でも避けられちゃう、と。
(しかしまぁ、『奴』の『認識不可』が万全であれば、察知することも不可能なのであろうな)
まぁそうだろうな。
『認識不可』はしょうがない、どうしようもない。
それにしても、小姓は回避力極振りであのバカな武器ブン回してんのかよ。
『暴風花』の場合は避けてるっていうよりも、的にされないように高速で動き続けてるんだろう。
でも『道断の反英雄』とかいう『邪神の小姓』は、的にされていることがわかってて『世界喰らい』を回避してるわけだ。
こいつも機動力と瞬間火力を持っている、『奴』と戦える存在、ってことだ。
マジか、アレってあの見た目でそんな強キャラなのか?
(あぁ、そういえばあの見た目にもちゃんとした理由があるのだぞ)
えっ、そうなの?
なんなの?
ほぼ全裸な理由なんてどの道ろくでもないような気がするんだけど。
別にそんなに聞きたくないんだけど。
ホントにちゃんとした理由?
(なんか肌が敏感に察する気がする、らしいのだぞ!)
あぁ、そうなの………。
敏感肌なの?
だからほぼ全裸なの?
あぁ、そうなのですか。
全裸の黒髪長髪中性的イケメン邪神に奉仕する黒髪短髪イイカラダ小姓がほぼ全裸で肌が敏感ってことですね。
すごく、邪神です。
それがおれの異世界物語ってことですね、わかりました。
うほっ、いい邪神!
(マスター、そこまで自分を追い詰めてはダメなのだぞ。どうにかして元気付けてあげないと…………ハッ、そうだ乳バカマスター、我のCぱいを思い出すのだ!!)
風が吹いた。
長柄の特大剣を肩に担いだ『道断の反英雄』が、『漆黒』に向けて突進する。
その背を風が、『暴風花』の突風が押し込んだ。
急加速した『道断の反英雄』は、その勢いのままにバカでかい白銀を叩きつけた。
『奴』はまたしても後方の岩に激突する。
剣先が強烈な破砕音と共に地面に食い込み、そこを支点に長柄の特大剣ごとほぼ全裸が宙を翻って、そのまま飛んでいく。
っていうか、アレ、ほぼ全裸が飛ばされてる。
明らかに『暴風花』の風にそのまますっ飛ばされている。
風に漂う白銀の女騎士に目をやると、相変わらずの無表情だ。
うん、でもたぶんあれ怒ってるわ。
そういえばあの小姓、さっきの攻防で『暴風花』ごと『奴』を叩き斬ろうとしてたもんね。
あの女騎士、『天秤』同士なのにしれっと仕返ししやがったのか。
………あれでホントにまだ身体を『天秤』に支配されてるの?
実はちゃんと『暴風花』本人が動かしてるんじゃないの?
特大剣でぶっ飛ばされた直後の『奴』がそのまま周囲を描き換えたが、『暴風花』は遠間に宙を舞い、『邪神の小姓』は既に風に飛ばされている。
なるほど、あの暴乳、仕返しついでにこの空間破壊を見越して離脱させていたわけか。
飛ばされて大きな岩の塊に衝突した『邪神の小姓』を背景に、『暴風花』は黄金の髪をなびかせて颯爽と地に降り立った。
そしておれは、もちろん見逃さない。
あの暴力的なサイズの脅威の胸囲が風に舞う際の無重力運動。
その重量を思い出したかのごとく地に引かれ、結果訪れる「着地揺れ」という名の大自然の恵み。
これが現実だよ。
ありがとう異世界。
ありがとう現実。
(ぐぬぬ……………やはりあの駄乳は敵だ!)
邪剣がぐぬぬしてるけど、放っておいて問題は無さそうだ。
無表情の『暴風花』は、やはりこの遠い岩影から見てもわかるほどの怒気を放っている。
不安定な岩の上に真っ直ぐ立っている様は堂々としていて、その冷たく美しい顔立ちと碧眼がこちらに向けられてい………えっ!!?
慌てて隠れる!
うおおぉっ!!!
こっち見てたッ!!!
無表情だけどあれ絶対こっち睨んでたッ!!!
この距離だぞ!!?
この距離でもその暴乳を見つめるのは許されないのか!?
っていうか胸見られてるの気付いたのかよ!?
その暴乳はセンサーかなにかなの!!?
ちらっと戦場を覗いてみる。
やっぱりこっち見てる!!!
…………もっと離れよう。
少し南の方角にまたちょうどいい岩場を見つけたので、そこに移動した。
移動中も風と破砕音が止むことはなく、『暴風花』と『道断の反英雄』は果敢に『奴』に挑み続けているようだった。
それにしても、『暴風花』が統一期で『道断の反英雄』が対立期だから時代が違うとはいえ、英雄と反英雄のタッグとか胸熱すぎる。
回避特化でタンクできる小姓がゴリッゴリの前衛で、万能戦士の暴乳が戦闘支援か。
あの風、味方を風に乗せて速度上昇のバフかけるとか、やっぱり『暴風花』はヤバイな。
『邪神の小姓』も『奴』をぶっ飛ばせるくらい攻撃力高いし。
両者とも逸材すぎる。
『奴』を倒す算段が立てられたら、是非とも手駒に欲しい。
でも、『天秤』だからおれとも敵対しちゃってるんですけどね………。
少し離れた地点から、再び戦場を観察する。
離れておいて正解だった。
程なくして、戦場の様相がまたしても一変した。
戦域から少し外れた場所に、火の手が上がる。
突如発生したその炎は、まるで意志を持っているかのごとく、『漆黒』に向けて瞬く間に燃え広がっていく。
戦場が、火の海に包まれた。
厳つい岩の島々が浮かぶ、炎の海。
ここが地獄の二丁目か。
またしても呟きたくなったけど、やはり『邪剣使い』は喋れない。
広範囲に拡がった炎が、ある地点に近付くと消えてなくなる。
『奴』が『世界喰らい』で炎の接近を拒んでいるらしい。
しかし炎は次第に戦場全域を覆い尽くしていき、『漆黒』の周囲全方向を取り囲んだ。
迫り来る炎、その空間が破壊されると、周囲の空間が流れ込んで世界の穴が埋められる。
炎がある空間が消されても、そこに流れ込む空間は既に燃えている。
『漆黒』が炎に包まれた。
なるほど。
『奴』に対してはそんな戦い方も有効なのか。
超広域の範囲攻撃。
炎による継続ダメージ。
今度おれも試してみようっと!
いや、ふざけんな。
これ絶対また新しい『天秤』の仕業だよね。
広すぎだろ。
燃えすぎだろ!!
ファンタジーマジふざけんな!!!
風使いだったり、炎使いだったり、たしかにファンタジーでは定番の能力だよ!?
でも実際見るとヤバイだろこれ!!
『邪剣使い』はそんな攻撃できないからね!?
おれだって属性攻撃してみたいに決まってるだろ!!!
そういうすごく強い、おれたちにできないことを平然とやってのけるッ、のはやめてくれよ!!
どうせあれだろ、今までのパターンからすると、これって『火因支配』ってやつなんだろ?
邪剣さん、情報プリーズ!!
火因支配、強い、天秤、で検索検索ゥッ!!
(…………うむ、解説するぞ)
ん?
どうした邪剣?
あっ、ごめん。
ひょっとして、おれがさっきのぐぬぬをスルーしちゃったから落ち込んでたのか?
(いや、すまないマスター、なんでもないのだぞ。………やはりこの戦場に突然現れる以上、あの炎は『天秤』に違いないのだからな)
(該当者はただ一名)
(六元のうちのひとつが飛び抜けて濃い地点に所縁のある生物は、ごくごく稀にその六元の『支配能力』を得ることがある。『火因支配』を身に付けるためには、火因の濃い地点に所縁がなくてはならない)
(尋常ならざる『火因支配』の使い手、その者はかつてこう呼ばれた。『災厄の落とし子』、『忌まれ火』、そして……)
(『反抗の英雄』)
(対立期において邪神討伐軍に参集していた英雄たちの中でも、その実力は群を抜いていた)
英雄英雄、また英雄か。
まぁ『天秤』がバランスブレイカーどもの集団だってことはよくわかったよ。
でもなんか、英雄なのに異名がどれもネガティブなイメージだよね。
(あぁ、対立期には死属の火因が忌避されている力であったからな。だからその力を自在に操るあの者は、嫌悪の対象とされていたようだ)
(まぁ、邪神様は強者を好む性格であったから、あの『反抗の英雄』のこともかなり気に入っていたようだぞ)
(我がマスターに伝えたかつての邪神様の言葉、あれは、その当時あの者に向けられた言葉であったのだ)
へぇ、あの言葉か。
『歓べ、その生を謳歌すべき時が来た。抗ってみせろ、それこそが英雄たる所以というものだ』ってやつだよな。
(うむ、その言葉だぞ。そのときの邪神様との戦いぶりと、捻くれて世を妬んでいる性格から、『反抗の英雄』と呼ばれるようになったらしい)
世を妬む『反抗の英雄』ですか。
なんか反抗期っぽくてちょっとカッコ悪いね。
でも嫌悪の対象にされてたんじゃ仕方ないよな。
それにしても、対立期の英雄、か。
じゃあ、それってやっぱり、アレなんだよね?
(お察しのとおりアレなのだぞ、マスター。『反抗の英雄』と『道断の反英雄』は、数度に渡って濃密な殺し合いをした仲なのだ)
(さっきマスターが英雄と反英雄のタッグは胸熱だと言っていたが、たしかに上辺だけの知識しか持たない我でも、あの両者がこの時代に並び立つと思うとグッとくるものがあるな)
やっぱりアレなのか。
…………なんてこった。
カップリングが捗ってしまうじゃないかッ!!
邪剣もグッとくるとか言い出しちゃったし!
男向けコンテンツだったはずなのに腐女子人気を意識し始めるのは良くない!!!
なんなの、この異世界!!
(…………我はマスターのその思考がなんなのって思う)
いや、でもまだホントにその『反抗の英雄』とやらで確定ってわけでもなかったか。
姿も確認してないし、『天秤』とも限らないよな。
さっき火の手が上がった辺りを見てみよう。
(ちなみに外見的な特徴としては、火因の支配者に相応しい燃え立つような赤い髪と、褐色の肌。身体は引き締まっていて、『道断の反英雄』よりは背が低く、線もほんの少しばかり細い。炎の使い手であるためか鎧は軽装で、ところどころ肌が露出している。扱う武器は双剣だぞ)
完全に一致。
あぁはいはい。
そのものズバリでした。
いたよ。
いましたとも。
えぇ、完全に一致です。
装備は白銀。
そして顔には白銀の仮面。
『天秤』となった『反抗の英雄』、確定です。
白銀の双剣を携えて、炎の外縁に沿って走り出している。
『暴風花』や『道断の反英雄』ほどの速度は無いが、充分な俊敏さだ。
あのまま『奴』を炎で包んでおいて、遠距離から継続ダメージで削る作戦か?
火の海となった戦場を観察する。
『暴風花』は空を漂っていて、たまに大きめの岩に着地してからまた飛び上がっている。
『道断の反英雄』は岩から岩へと跳び移り、また、特大剣で薙ぎ払いながら火炎の中を突っ切っていた。
ふーむ、前衛、中衛、後衛が揃った感じだね。
しかも『暴風花』もあの『反抗の英雄』とやらも装備は近接武器だし、実は前衛もやれちゃうんだろう。
いや、でも『反抗の英雄』だと、『奴』相手に前衛やるには機動力が足りないのかもしれない。
『暴風花』は風の加速と立体機動があるし、『道断の反英雄』は回避力がチート気味っぽいからな。
あぁ、だから『反抗の英雄』は後衛になったのか。
いや、待て。
えっ?
いやいや、ちょっと待てよ。
おかしくないか?
『反抗の英雄』はこの戦場に来たばかりのはずなのに、なんでいきなり『奴』を警戒してるみたいに遠距離に留まってるんだよ。
ひょっとして。
邪剣、ひょっとして、『天秤』って情報を共有してるのか?
(あぁ、共有というか、『天秤』という機能はこの世界に一つきりなのだぞ。つまり、集団であっても、その目的や意志のようなものは一つしかないのだ)
あー、そのパターンのやつか。
そういうことでしたか。
たしか『暴風花』が出現したときに、『天秤』の通称は神の木偶、って教えてもらったっけ。
なるほどね、あいつらは神の木偶、『天秤』という木偶人形の操り手は、一人しかいないわけだ。
(操り手、とはいっても、人や神の類ではないのだぞ。『天秤』の制御は、このバローグに定められた均衡律が行っておるのだ)
均衡律。
それを定めたのは先代の「均衡を司る神」、邪剣が均衡のジジイって言ってた。
万眼先生も教えてくれたよね。
このバローグの均衡を保つために構築されたシステム、って感じだったよな。
そのシステムの中に『天秤』制御機能も付いてるってことか。
『天秤』制御機能、それ、すごい欲しい。
ん?
あれれー?
ねぇねぇ、でも変だよー、邪剣さーん?
(………マスター、さすがにその急に子供っぽい不自然な口調になるネタは……………かわいいようっ!!!)
おっおっ、落ち着け!!
邪剣、おれが悪かった!!!
安易に体は子供な某名探偵をパクったおれが悪かった!!
侵食はダメ!!!
ちょっ、待って、侵食ダメゼッタイ!!
悔しいビクンビクン、ってなっちゃうからッ!!!
また今度忙しくないときにじっくり心ゆくまで堪能させてくれッ!!!
ふぅ。
いや、だから、ほら、『天秤』制御機能があるはずなのに、『暴風花』と『道断の反英雄』が同士討ちっぽくなってたじゃん?
その辺はどうなのよ?
(ふぅ…………うむ、その辺りはきっとあれなのだぞ、あの駄乳は魂が解放されているから、なにか誤作動でも起こしているのであろうな)
うーむ。
そのせいか。
やっぱり、『暴風花』自分で動けるようになった説、が濃厚になってきたな。
このことも気をつけながら観察してみよう。
少し距離を置いて『奴』の気配が遠くなったことで、魂の中に湧き上がってくるものは幾分堪えやすくなっていた。
大丈夫だ、これなら冷静でいられる。
岩影から身を乗り出して、炎に巻かれた戦場を注視する。
そして、なにかの羽ばたきを耳にした。
後方から接近した羽ばたきには振り返る間も無く、その音の主は既に前方の上空を旋回し、飛び回っている。
白い竜。
以前に見た緑竜と比べればかなり小柄で、ちょうど人間が一人乗れる程度の大きさだとそう思ったその矢先に目に入る。
その背には鞍が付いていた。
しかし誰も乗っていないのだ。
「最高の戦場を目前に、怯えて姑息に潜んでいるだけ、か」
背後に誰かが着地した。
その物言いが癪に触った。
絶対に相容れない存在だと直感していた。
だがその声音には違和感がある。
振り返る。
違和感の正体を知る。
できることなら忘れてしまいたいと思っていた存在。
それでも決して忘れることなどできない存在。
思い浮かべた相手と目の前の相手は、一致していなかった。
その声音は幼く。
体躯はか弱い。
小さな少女は灰色の毛皮を身に纏い。
その灰色の髪には、鮮やかな花飾りが咲いていた。
幼気な顔立ちにそぐわない、傲岸不遜で不敵な笑み。
「やはり、貴様はつまらんなぁ」
31日目の戦場に、『灰髪の邪神』が降臨した。
 




