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2キャラ目、死地の手前

通算53話。

2キャラ目、30話。






おれの、異世界運命改変。


その目的は、『奴』を倒すこと。


『奴』は、『認識不可』、『世界喰らい』、『神殺し』の化け物。


今、その『認識不可』は効力が弱まっている。


『無明の万眼』の激闘がこの結果をもたらしたのだ。


そのおかげで、バローグの主神「均衡を司る女神」の使徒、『天秤』が、『奴』の下へと差し向けられたようだった。


この世界にこれから何が起こるのか、その戦いを見届けなくてはならない。


向かう先は死地。


そこに待つは仇敵。


31日目、『邪剣使い』が草原を駆けていく。




先生。

先生、か。

軽いノリで呼び始めただけなのに、どうしてこんなにしっくりくるんだろうな。

空を突き抜けていった『血色の流星』、その光景を、おれはこの魂にしっかりと焼き付けた。

決着の時。

『無明の万眼』と『奴』との死闘、その最期。

あの瞬間、無明も『奴』も地上にいた。

つまり、最後の投槍は地上に向かって放たれたはずなのだ。

そのはずなのに、あの血色の槍は、きっとわざわざ、空へと舞い上がった。

無明の投擲したあの槍は、天空に血色の軌跡を描きながら突き進んでいったのだ。

それが何故なのか、誰の仕業なのかなんて、考えるまでもない。

先生。

おれの先生。


相変わらず、万眼先生はクールに仕事をしてくれていた。


ちくしょう。

わざわざ、それもおれのためなのかよ。

あんな場面で、そんな余裕あったのかよ。

クールすぎんだろ。

泣きそうになっちまうじゃねぇか。

まだ泣いてないけど。

ぜんぜん泣いてないけど。

あれは、あの血色は標だ。

道に迷ってもわかるように。

日付けを見失ってもわかるように。

顔を上げて、空を見上げろ。

空に引かれた直線が、あの場所の方角を教えてくれる。

その鮮烈な朱が、この日この時であることを教えてくれる。

あの標はおれを導いてくれる。

道や日付けだけじゃなく、たとえ自分を見失ってしまったとしても。

ありがとう万眼先生。

ちゃんと『視えた』よ、進むべき指針が。



『暴風花』が飛び去ったあと、おれも同じ方角に走り出していた。

やはり、『暴風花』の粛清対象は『奴』へと変更されたのだろう。

目的地は、お互いに『血色の流星』の根元の方角。

魂に焼き付けたその映像を思い浮かべる。

万眼先生が示してくれた進むべき方角は、ここより北西。

主神の使徒『天秤』、『暴風花』の襲撃を受けたおれは、旧バルゴンディアの崩れた大城壁から、西の方向へと移動しながら戦闘していたようだった。

そして大城壁の西にあった大草原で、あの『血色の流星』を目撃したのだ。

このまま北西に進めば、1周目で『奴』と戦ったあの荒地に辿り着くのだろう。


うん、位置関係が掴めてきた。

『血色の流星』はだいたい東南東へと進んでいった。

たぶん、あのおおよその六角形の地図で言えば、ちょうど真ん中の地点に飛んでいったんだと思う。

方向的にも合ってるはずだし、万眼先生の仕事ぶりから考えても、あの血色の軌跡は大陸中央に向かって描かれたんじゃないだろうか。

そのほうがおれの目に入る可能性が高いからね。

これもしっかり覚えておかないとな。


さて。

現在の目的地、あの荒地は、あれはナーン森林から南東に位置していたはずだよな。

そういえば、おれはあのとき『奴』からどれくらい走って逃げたのか。

うーむ、ちょっと必死こいて逃げてたから、いまいちわかんないね。

でもけっこう全力で逃げたから、ナーン森林からはだいぶ離れていたのかもしれない。

最初に『奴』が『視え』てしまったとき、おれは恐怖に負けて逃げ出してしまった。

あの、精神を侵す恐怖。

『奴』が撒き散らす精神攻撃。

たった今も、それを確かに感じている。


『奴』がいる。


向かう先に、強大で脅威的な力の存在を感じる。

不穏な絶望が、不快な違和感が放たれている。

そこに、間違いなく『奴』がいる。

この感覚こそが、『認識不可』が弱体化しているという証。

………と、いうことは。

ヤバイな。

これはかなりまずい。

今、一瞬『奴』の気配が薄れたのだ。

薄れた?

違う。

消えた。

無くなった。

最初から何もいなかった。

『奴』がいるという感覚が、ほんの一瞬消えていたのだ。

『認識不可』は完全に無くなったわけではない。

きっと先生の言っていたとおり、『世界喰らい』で力を取り戻しているのだろう。

………思っていたよりもずっと早く『認識不可』が効力を取り戻してしまいそうだな。


(マスター、我はアナタにどこまでもついていく。だが、ひとまず方針を教えておいてほしい)


あぁ、すまんすまん、そうだな、それは教えておかないとな。

戦わない。

現時点では勝ち目は無い。

今の『邪剣使い』でも、『無明の万眼』には及ばない。

たぶんあの『暴風花』でさえ、『奴』と戦ったあの時の『無明の万眼』には及ばないだろう。

だから今のおれじゃ無駄死にになる。

『世界喰らい』でおれの魂を喰われたら、もうやり直しはきかない。

それだけは避けなければならない。

いつか『奴』を必ずこの手で殺す、そのために、おれは勃発しているはずの『奴』と『天秤』との戦いを見届ける。

生き抜くことが最優先だ。

まぁ、うん、だから戦わないつもりなんだけど、どうなるかわかんないよね!

正直、自分でも暴走しそうな気がしてます!


(我もそう思う!)


ですよねー!!


(だから……)


(だから我は、アナタの歯止めとなろう。我がちゃんとぎゅっと繫ぎ止めるから、マスターもちゃんとクールに行動するのだぞ?)


ありがとう、じゃけ……しーちゃん。


(はうぅっ!デレがきたーーっ!!ふたりっきりになった途端にデレるなんて、邪剣たらしにも程があるぞマスター!!)


R指定ッ!!

身体の侵食っぷりがR指定だから!!!

なんなのこの侵食プレイ!?

触手モノなの!!?

おれが触手的ななにかに蹂躙されるイベントCGとか誰得なの!!!?

あっ、でも身体はおれじゃなくて『邪剣使い』だったわ。

そしたらお腐りあそばしてる界隈のご婦人方にワンチャンある、か?

いや、駄目か、邪剣は女の子設定だから、某マーケット2日目が主戦場のご腐人方にとってはおもしろくもなんともないのか。

……………なにこのしょうもない思考。


っていうか、今おれ別にデレてなかったよね?

ただお礼言って愛称で呼んだだけだよね?


(なんと!!マスターにとって今のはデレの内に入らない!?底無しだよう!!絶倫マスターだよう!!!)


………あの、しーちゃんさん、もうそのテンションじゃなくていいですよ。

死地に入る前、ってことで気を使ってくれてるんだよね?


(くふふっ………底無しマスターだなんて…………我はいつか必ずマスターの真のデレを手に入れてみせるぞっ)


あぁ、うん、自分の世界に行ってしまわれたようだ。

どうしてこんな子になっちゃったんだろう?

はい、おれの魂食べたせいですよね!!



しーちゃんとのしょうもないやり取りで心を鎮めつつ、草原を全力で突き進む。


いくつかの林を越え、丘を越え、川を越え、北方の遠景に大小の集落を発見しながら通り過ぎていく。


程無くして、それが目に入ってきた。


バルゴンディア王国、その王都。


その都市の規模と、しーちゃんの持っている邪神のぼんやりとした記憶から、きっと王都なのだろうと判断した。


途上の集落と同じように、やはり進路よりも北側に位置している。



でかい。

いや、これマジでかいだろ。

この世界で初めて見る大都市。

うわー。

異世界ホントすげぇよ、感動だよ。

なんつーか、昔の江戸って遠くから見るとこんな感じの眺めだったのかな、とか、色々と思いを馳せてしまう。

あれが王都だとして、どっからどこまでが王都って呼べる範囲なんだろう?

見えてる領域全部王都って呼ぶわけにはいかないぐらいでかいよね。

郊外の農地広すぎだし。

城壁に守られた大規模な城郭都市があり、その外側にも、かなり広範囲に市街が延びている。

広く間隔を空けて三重に市街地を囲っている城壁の感じから、元々の城郭都市が人口増加で徐々に拡大された様がうかがえる。

そして元々の構造は平城じゃない、平山城だ。

小高い丘陵地の起伏に沿って建造されている部分が、きっと最初からあった城郭都市だろう。

あそこらへんはめっちゃ堅そうだわ。

ギリギリの角度で城壁の内側に曲輪の構造が見えている。


すげぇな。

マジか、王都、想像とぜんぜん違ったじゃん。

なんかこれをホントに王都だと思ってていいのか心配になってくる。

高い尖塔がツンツン飛び出てて、お姫様やら王子様やらが舞踏会でも開いてそうな、もっとファンタジーなお城っぽいお城を想像してたわ。

絢爛豪華とは程遠い、質実剛健な城。

完全に軍事拠点、戦時の城じゃん。

突出して高い部分が無く、どちらかといえば全体的にずんぐりむっくりした印象を受ける。

城壁をつなぐ各所の塔や堅固な門塔の造りは、耐久性の高い円塔である。

それもやはり、背が高すぎることはない。

たしか、西洋の方で尖塔とか付いてて背が高い見た目かっこいい構造の城が廃れたのって、大砲が発展したからだったよな?

背の高い建造物は、砲兵の測量士にとって格好の目印にされてしまう。

測量、これ大事よね。

おフランスで皇帝に成り上がった砲戦オタクの将校も測量フェチだったらしいし。

あれ?

ちょっと待て。

ってことは、あの城の構造的に、ひょっとしてこの異世界って大砲あるってことか?


(無いぞっ!マスターの魂から得た情報にある大砲というものは、このバローグでは我の知る限り使われていないのだぞっ!)


おう、しーちゃん!!

なんだか解説入れてくるの早かったね?


(くふふーっ!役に立ったか?それならデレてもよいのだぞっ!?いや、デレるべきなのだ、マスター!!)


あぁー、そのネタ引きずってくるのかー。

よし、スルーしよう。

じゃあアレだ、火薬はどうなんだ?

兵器に使われていないのか?


(このバローグには魔法があったから、マスターの世界のような火薬を用いた兵器は発達していないのだぞっ!!くふふっ、またしても即答っ!さぁマスター!存分に褒めてくれい!!)


あっそうなのぉ〜?

魔法ねえぇ〜?


(しっ、しまった!!マスターは魔法が使えないから、魔法の話はしてはいけないのであった!)


おれだけじゃないからね?

魔法を使えないのはおれだけじゃないからね!?

っていうかもういい加減に残念魔法ネタはやめて差し上げろよ!!

いや、いいんだ。

今はそれよりも、その朗報に歓喜すべし!!

この異世界では、火薬の兵器利用が未だ成されておらぬ、とな?

くっくっくっ。

ついに来たかッ、この時がッ!

知識チートでおれ無双ッ!!

火器量産で天下統一じゃあああぁぁーーーッ!!!


(あれ、でもマスター、マスターの魂に火薬の生産方法の知識は…)


無いよね。

うん、知ってた。

っていうか知らなかった。

火薬の作り方なんて知らなかった。

だってただの社畜だよ?

知ってるわけないじゃん?

やっぱり知識系チートも無理ですよね!

はいはい現実現実!!

今日も清々しい現実だなーーーッ!!!

まぁ、とりあえず、大砲は無いけど魔法があったわけだよね。

でもたぶん、ひょっとすると戦時の運用は似たようなもんなのかもしれないな。

目標に向けて魔法を放つわけだから、やっぱり高い塔は目印にされやすくて、だからファンタジー然とした高い尖塔の類が廃されている、って感じかね。

見た目重視じゃなくて機能優先ってところが好感持てる。

ちょっと時間あるときに立ち寄ってみようかな。



右手の方角、遠くにバルゴンディア王国の王都を眺めつつ、走り抜けていく。


(…………嫌な気配がする)


まるで世界が前方に傾いてしまったかのように感じるほど、重苦しい存在感が行く先に立ち込めていた。


緊張が高まっていく。


邪剣の柄を強く握り締める。


またしても、その重圧が嘘のように霧散した。


そしてまたすぐに、不快な脅威が押し寄せる。


『奴』が力を蓄えている。


何かを喰っている。


喰うたびに力を取り戻している。


何を?


おれは想像していた。


もちろん考えていた。


今日までの丸二日間の戦闘を思い出す。


やはりもう二度と出会いたくないと思いつつ、あの舞踏が頭の中で煌めいていた。


この手で奪おうと望んだその生命に、今は生き延びていて欲しいと願ってしまっている。



バルゴンディア王国の王都郊外の農地が、進路上まで広がってきていた。

それを過ぎたあたりで、遠く前方に異変を視認する。

巨大な岩柱が、ここまで響く轟音とともに地から突き上げていた。


しーちゃん、あれって…。


(うむ、『土魂支配』だな。あの規模の一撃、おそらくは『天秤』であろう)


やはり『天秤』がいる。

あの女騎士とはまた別の強者。

その暴力的で明確な殺意を伴った大地の一撃は、数瞬のちに、消失した。

『世界喰らい』が大質量の岩柱を一瞬で消し去った。

『奴』と『天秤』との戦端は、既に開かれている。

化け物たちの喰らい合い。

あれが、次の戦場。




……………あそこ、行きたくないんだが。


(…………我も、行きたくないかも)


31日目、間も無く目的地に到達する。

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