2キャラ目、生存記録更新・31日目
31日目。
大草原の上空を、『血色の流星』がどこまでも真っ直ぐに貫いていった。
2キャラ目の運命改変、最初の目標をたった今達成した。
バルゴンディア王国、この地にて、この日、この時を迎えること。
そしてこの時点で、この異世界でのおれの最長生存記録が更新されたことになる。
あぁ、そうか。
その光景を見届けて、ふと気付く。
これが、運命改変なのか。
血色の槍は放たれた。
『無明の万眼』は死んだ。
万眼との約束通り、おれはその運命を変えることはない。
だからまたしてもこの死に直面したのだ。
おれはまた、この死を乗り越えなくてはならないのだ。
運命改変を続ける限り、何度でもこの死に向き合わなくてはならないのだ。
その事実がおれの心を貫いた。
ならば、貫き通すまで。
征くぞ。
まだ終わっていない。
『無明の万眼』は死んだ。
だが『邪剣使い』は、まだ死んでいない。
ふっ。
おれは笑った。
『死んでても死んでない!』
そういえば、『邪剣使い』の1日目にそんなスローガンを打ち立てたっけ。
笑いながら向き直る。
その白銀の装具は、晴天によく映える。
草原を抜ける風が、艶やかな金髪を撫でていく。
『血色の流星』が突き進んだ先を見据えていた碧眼が、ゆっくりとこちらに向けられた。
その視線の先に、おれは剣を掲げる。
かつて『暴風花』と呼ばれ、今は神の使徒『天秤』である女騎士は、白銀の長剣を凛と構えた。
なぜ、おれは敗北した気になっていたのか。
おれの敗北は、おれ一人の敗北ではないんだぞ?
『邪剣使い』は死んでいない。
この「身体」の正解の動きを、おれはまだほんの僅かしか引き出せていない。
本物の『邪剣使い』の剣術は、目の前の英雄に決して引けを取らないはずだ。
おれの敗北は、この「身体」の敗北だ。
おれに託した『無明の万眼』の敗北だ。
おれを選んだ残念女神1号2号の敗北だ。
そして………。
愛剣の柄を強く握り締める。
邪剣の肉が優しく身体を包み込む。
出し惜しみはもうしない。
あぁ、そうか。
また笑う。
省エネモードはお終いだ。
そうか、いつの間にか、おれは『奴』と同じ戦い方をしていたわけだ。
間違っていた。
槍のように突き進め。
その生き方に憧れたはずだろう?
邪剣の肉を全身に巡らせた。
魂の蓄積量なんて、気にしてる余裕があったのか?
温存してどうする、蓄えたまま死んでどうする。
使い切れ、死力を尽くせ、ここを越えなければ何にもならない。
呪いがなんだ、罪がどうした。
「やれること」が残っているならば、やり切ってから死ね。
(マスター、これはかつての邪神様の言葉だが、聞いて欲しい)
愛剣が語りかけてきた。
(『歓べ、その生を謳歌すべき時が来た。抗ってみせろ、それこそが英雄たる所以というものだ』)
(今の我なら、この言葉の意味がわかる)
(我のマスターは、アナタは凡人なんかじゃない。死に向かうのではなく、死に抗って生を謳歌する英雄だ)
あぁ、流石はおれの愛剣だな。
(生き抜いてね、マスター)
おれの欲しかった言葉をくれる。
(マスターのことなら、もうわかるもん)
あの邪神の言葉の引用ってとこだけは気にくわないけどな!
あの変態が「生を謳歌する」とか言うと、「性を謳歌する」と間違ってるんじゃないかと思っちゃうよね!
(うむ、流石は我の残念マスターだな!せっかく我がいいこと言ったのに!!)
まだまだだな、邪剣。
死地に入る前っていうのは、これくらいで丁度良いんだよ。
(あぁ、そうだな、アナタはそう教わったのであったな、マスター)
あぁ、そう教わったんだ。
ドグンッ!!
熱く脈打つ鼓動が、おれの決意と一致した。
この「身体」は、強者に抗う戦いを歓んでいる。
邪神の言葉。
邪神は気にくわない、だけどその言葉だけは気に入った。
そしてこの鼓動も、その言葉を歓んでいる。
魂は不在、しかし「身体」は反応する。
この「身体」には、いつかその言葉に鼓動を高鳴らせた日があったのかもしれない。
運命改変2キャラ目、最初の目標はもう達成できた。
だから、次の目標を設定する。
『邪剣使いとして生き抜いてやる』
かつての邪神の言葉に鼓動を震わせ、邪剣の封印を解いた剣術の達人。
31日、おれだけの都合で身体を使わせてもらった。
もちろん、これから先も運命改変は手前勝手な都合で進む。
だがここから先は、『邪剣使い』の物語だ。
そうでなくてはならない。
何を望んで剣技を磨いたのか。
何を願って邪剣を手中に収めたのか。
おれはその答えを探していかなくてはならない。
さて、門出を祝ってくれよ、神の使い。
白銀の女騎士の碧眼を強く見据える。
まずは手始めに、この古い英雄を乗り越えるッ!!!
「汝に告げる」
相変わらずの無表情、無感情。
『天秤』の言葉に不意を突かれた。
おれはせっかく漲らせた気力を散らせてしまわぬように、気を張り続ける。
「天秤の粛清対象は変更された」
「汝の粛清は一時中断となる」
「よって、汝には天秤が戻るまでこの場にて待機するよう命ずる」
……………んん?
えーと、なんですって?
えっ、待機するよう、命ずる?
聞き間違いかなぁ、なんか粛清は一時中断とかなんとか言ってた気がするんだけど?
(聞き間違いではないぞ、マスター。粛清対象が変更された、あの天秤はそう言っていた)
粛清対象が変更?
…………そうか。
……なるほど、そういうことか。
そうなんだな、万眼先生。
ーーー少なくとも、バローグの主神は『奴』に気付くでしょうーーー
おれの先生が愛のメッセージ術で教えてくれていたとおりなのだろう。
無明があの『漆黒』を削ったおかげで、『認識不可』が弱まっている。
バローグの主神、「均衡を司る女神」が、『奴』の存在に気が付いたのだ。
粛清対象が、おれから『奴』へと変更された。
このタイミングはそれ以外にないはずだ。
「暴風花が汝に告げる」
『天秤』が再び口を開いた。
今度はなん………んん!?
あれ?
待って、なんか今変な言い回ししなかったか?
『暴風花』が、って言ったよな?
「まずはお見事」
今までどおりの、冷え切った平板な声音でそう告げた。
金髪碧眼の女騎士は、やはり相変わらずの無表情だ。
「この身が貴方のような武人と刃を交えられたこと、誇りに思う。そして礼を言わせて欲しい。均衡律に囚われていた私の魂が、貴方の最後の一撃でこうして目覚めることが出来た。とはいえ、これまでは深い眠りの中で夢か現か分からぬものを眺めていたようなものだったのが、今は浅い眠りで意識だけが目覚めているような、その程度のものなのだけどね。私の魂も肉体も、未だ均衡律の制御下にあるらしい」
あの『天秤』が喋っている。
すらすらと、淀みの無い無機質な棒読みで喋っている。
いやいやいや、ちょっと待ってくれ。
なんだよ今の発言。
えっ、マジか?
これマジで『暴風花』の魂が喋ってる感じなのか?
「重ねて、貴方に謝罪しよう。誠に不甲斐ないことではあるのだが、私の意思でこの身体を動かすことは叶わぬらしい。だからすまない、貴方のその意気に応えることはできないようだ。この身体はこれより別の戦場に赴く。夢現の内に貴方と天秤との戦いを眺めていたのだが、まだまだこれから愉しめるものかと私も期待していたのだよ。決着は、またいずれ。とはいえ、やはり私の魂を以って応じられるわけではないのが残念なところだ。天秤のこの身の動かし方には不満がある。本来の私ならばもっと貴方を愉しませてあげられるのだが、ふう、本当に不甲斐ないことだ」
おい、ちょっ、まて、待ってくれ!
どういうことだ!!
無口無表情無感情キャラだったはずなのに急にペラペラ喋り出してるじゃないか!!
なにこの突然のキャラ路線変更!
いや、無表情無感情は変わってないけどね!?
なにその棒読みおしゃべりキャラ!!
棒読みおしゃべりキャラ+巨乳!!!?
それも良しッ!!
腕組んで欲しいなッ!!
長ゼリフなら腕組んでて欲しいなッ!!
腕組んでその上に「たゆんたゆん」を乗っけたポーズで喋っててくれないかなッ!!?
(……………流石は我の残念マスター)
「まぁ、それを嘆くのも今更ではあるか。均衡神に討たれ、手駒として使われる。一軍の将としては、敵方に降されたこの身はこの上もなく恥ずべきことばかりだ。だが一介の武人としては、こうしてまだ見ぬ強者との戦いに身を投じることに心躍ることもある。ただ一人の女としては、ふふふ、やはり嫁に行きそびれてしまったか、という思いだね」
「ふふ、ふふふふふ、いや失礼、笑いにすら情感がこもらぬとは、なんだか可笑しくてな。ふふふ、これでは先の言が冗談に聞こえないではないか。いやなに、女としての気持ち、将としての気持ちよりも、私はやはり武人としての気持ちが強くてね。ふふふ、だからまぁ、ただの独り身の冗談だ、気にするな」
……………はい、棒読みのせいで冗談に聞こえません。
(……………うむ、冗談に聞こえんな。)
「そもそも私のような女に貰い手などつくはずもないだろうしな。この身はただひたすらに剣を振るい続けて生きてきた。どんな男の美辞麗句より、研ぎ澄まされた刃の一閃こそよほど我が胸に迫るというもの。やはり娶られるならば、私を打倒できるような殿方が良い。戦場でこの背を安心して預けられる、そんな相手でなくてはな。いつか敗れる日を夢見て戦地に臨む、ふふふ、とはいえ、敗れた相手となると神ばかりなのだから、ままならないものだね」
…………それってつまり人間相手に無敗ってことですよね。
あと、嫁に行きそびれたネタを引きずってる気がするんですが。
ますます冗談に聞こえなくなってくるんですが。
「運命神様の旗の下に参じた身なれば、別の神に嫁ぐわけにもいかず、終いには均衡神に敗れ天秤として使役される、か。死生を越えることなく、永き時を超えてしまうとはね。数奇なれど、これも運命神様の定めし我が生、死に転ずるその時までは生き抜くほかにない。おっと、ふふふ、すまないな、交わすべきは言葉ではなく刃、分かってはいるのだが、どうにも喋りすぎてしまう性分なのだ。ふふふふふ、これでも私は女だからな、多少のおしゃべりは許して欲しい」
「とはいえ、相槌の一つも貰えないのは少し寂しいものなのだけど、やはり言葉は無粋、ということなのかな。あるいは、貴方はもともと寡黙な人なのか、どちらにせよ、武人としては実に好ましいと私は思う。貴方は……ふむ、なるほど、天秤であるこの身は均衡律の支配下、やはり世界の理と繋がっているということか。『刈り取る闇』、『邪剣使い』、『流れ島の黒騎士』、『黒い不審人物』、ふむふむ、たしかにどれも貴方にしっくりくる」
おっ?
なんだ今の。
『邪剣使い』に、『流れ島の黒騎士』って言ったよな?
ひょっとして今のって、『邪剣使い』の二つ名的な異名的なやつなのか?
っていうか待てよ、『黒い不審人物』ってなんだよ!!?
誰かからそんな呼ばれ方されてたりするってことか!?
おいおい、そんなふうに呼ばれる謂れは………あったわ。
「ならば私は貴方のことを『邪剣使い』と呼ぶことにしよう。貴方の最後の一撃、尋常の剣ではない、邪剣なるものにしか成せぬ技だった。それに貴方の剣筋も、随分と正道から外れたもののように思える。正に邪道の剣。非難しているわけではなく、『邪剣使い』と呼ぶに相応しい見事な腕前だった。曇りなく純粋に命を刈り取るべく振るう一閃、愚直なまでにひたむきな追い足、戦力を隠し底を見せない強かさ、ふふふふふ、素人のようで、玄人のようでもあり、強引に見えて、時に臆病。ふふふ、貴方の戦い方、私は嫌いではないよ」
『黒い不審人物』なんて残念な異名、心当たりがありすぎだわ。
『黒い不審人物』が血の雨を降らせる事案とか、『黒い不審人物』が猛ダッシュで町に接近する事案とか、いろんな人に目撃されちゃったもんね。
これじゃあ邪剣に残念マスターとか呼ばれても言い返せないじゃん。
くそ、どこのどいつだよ、そんな残念な異名で呼び始めたやつは。
それと、あとなんだっけ、『刈り取る闇』とか言ってたよね?
やっぱり安定の歩く中二病ですね!
いやそうじゃなくて。
『刈り取る闇』、『邪剣使い』、『流れ島の黒騎士』、そして『黒い不審人物』か。
ひょっとして、これって時系列順だったりする?
そうなると、この身体の本来の持ち主は、邪剣を手に入れるまで『刈り取る闇』と呼ばれていたことになる。
っていうか、おれが『邪剣使い』の運命改変を始めてから、そんな異名を付けられるような行動はしていないはずだ。
だからたぶん、元々の呼び名は『刈り取る闇』ってことで確定だと思う。
思わぬ収穫だったね!
でもやっべ、今ちょっと話聞いてなかったわ!
邪剣にかいつまんで教えてもらうか。
(ぐぬぬ…………この駄乳め、不穏な気配を醸し出しておる……我のマスターは誰にも渡さんのだぞ!)
あれ、なぜか邪剣のぐぬぬが発動してる?
どうした邪剣、今どんな話してたんだ?
(おぉっ、どうやらマスターは今の発言を聞いていなかったようだな!くっふっふ、それみたことか、我のマスターは鈍感系なのだぞ!駄乳ルートのフラグなんてバッキバキだからな!!)
なん、だと?
乳のフラグ、ニュウのNEWルートに突入だとうッ!!?
折らせないッ!!
ニュウフラグだけは折らせないッ!!!
絶対にだッ!!!
(しっ、しまった!!マスターの誘導尋問は健在であったか!ダメだぞマスター!!駄乳ルートなんてダメゼッタイ!)
いや誘導尋問なんてしてないんだが。
心配するなよ、邪剣。
おまえはおれにとって、一番の愛剣だ。
これ、ウソは言ってない。
(はうぅっ!!マスターの一番の愛剣だなんて!唐突なご褒美だよう!邪剣たらしマスターにキュン殺されるぅっ!)
だから安心しろ、おれが突入するのはニュウルートではない。
おれが突入するのは…。
あっ、ちょっ邪剣っ、今全身に邪剣の肉を広げてるんだから、そんなふうに身体を侵食されると、ちょっ、R指定、R指定ッ!!
ふう。
気を取り直して。
おれが突入するのはニュウルートではないッ!!
ついにやってきたのだ、この日が、この時がッ!!!
一挙両得ッ!!
完全におれ得ッ!!!
念願のハーレムルートに突入だぜええぇぇぇーーーッ!!!!
ヒャッハー!!
「暴風花が汝に告げる」
はいすみませんなんでしょう!?
「ふふふ、今日の続きを、決着の時を楽しみにしているよ。次こそは、お互いの全力を出し尽くせると良いな」
ムリでしたごめんなさい。
この人をハーレム要員にするのはキツすぎです。
現実の異世界なんだし、倒さないと攻略できない系のヒロインとかやめてほしい。
そういうのはゲームの中だけにしてほしい。
っていうか敵じゃん、落ち着けよ。
おれのこと粛清するとか言ってた相手じゃん。
そうだったよね。
ハーレムとかチートとか、この異世界では夢を見るほど残念に突き当たる。
落ち着け、そして諦めろ。
いや、でも待てよ。
本当に諦めてしまってよいのだろうか?
あの暴力的な暴乳を好き勝手にできるとしたら?
埋もれて揉みしだき味わい尽くすことができるとしたら?
「暴風花が汝に告げる」
はいすみませんなんでしょう?
「貴方にこれだけは言っておくぞ」
「その不埒な視線、そのようなことだから詰めを誤るのだ」
怒られた。
棒読みなのに、無表情なのに、またしても怒気が溢れ出している。
「これだから男というやつは、貴方ほどの武人でも雑念に囚われてしまうのだからな。残念なことだ、実に嘆かわしい。そういえば、貴方も最初この胸に触れようとしていたな?」
そうでした。
そういえば一度揉もうとしちゃったよね。
煩悩が暴走したんだった。
まっ、まさかまた斬りかかってきたりとか、しないよね?
「不潔だぞ。婚前交渉など、私は断じて認めんからな。そういうことは大切に守り通すべきなのだ。清く正しく美しく、男女の交際とは体ではなく心を繋げるものだと私は思う」
「まぁ、その、なんだ、殿方も色々と事情があって大変だと聞くし、少しだけなら、その、手、ぐらいだったら繋いでもいいと思う。ただし、乙女の体に触れる以上は、先に許しを求めるべきだ。もちろん、貴方のほうから言うのだからね、その、手を、繋いでもいいかい、というふうに」
「いくら貴方が寡黙な人だといっても、伝えるべきことはしっかりと言葉で伝えるべきだ。あっと、いや、例えばの話だぞ、貴方が、と言ってしまったのはもちろん例えばの話だ。例えば、貴方が、その、私に、私を、貰ってくれるならば、というただの仮定にすぎない話をついつい流れでしてしまっただけだ。そう、例えば貴方が、均衡律に囚われて永い眠りについていた私の魂を救け出して目覚めさせてくれた武人である貴方が、もしも例えば私のことを強く優しく打倒してくれるなら、そして貴方が私に剣を振るう以外の素敵な何かを示して、いやいや、ただのそういった仮定の話をしてみただけだ、すまない、今のは忘れてくれ」
「こほん、とにかく、貴方は不埒な視線で女性の体つきを眺めまわすのはやめにするべきだ。男というものは、どうしてそうなのだ。戦場において一点に気を取られ注視するなど、あまりにも致命的な失態だ。そのようなことで生き残れるはずがないではないか」
お説教からの長話!!
たしかにフラグ立ちそうな気配があるのにやっぱり倒さないといけない系ヒロイン!?
強く優しく打倒するってなんですか?
意味わかんない。
いや、っていうか、こんな長話してる場合じゃないよな?
まだ続くのか?
もう早く移動したいんだけど……。
「暴風花が汝に告げる」
………はいすみません、なんでしょう。
「だいたい、私だって好きでこのような胸部になったわけではないのに、これのせいで不愉快な思いをしてばかりだ。下種な男どもは会話をするとき私の目を見ようともしないで、目線を私の顔の下に集中させているし、…………」
「…………、貴方も剣士ならわかるだろう、この胸が揺れすぎて重心がブレる、その微妙な誤差がどれほど我が剣の妨げになっていることか、それにこの重さが無ければ風に乗るのもずっと容易になるはずで、…………」
「…………、せっかく会えた鍛治の神の直弟子に、私は鎧鍛治を依頼せねばならなかったのだぞ。私だって武人のはしくれ、高名な鍛治師には剣の鍛造を頼みたかった。それでも、私は何よりも具合の良い胸甲を優先して求めなくてはならなかったのだ。だというのに、かの鍛治師でさえも納得できるものが出来なかったからと、…………」
「…………、自分で言うのもなんだが、私はこの髪こそが私の容姿の中で最も自慢できる部分だと思っているのに、この胸部のせいで誰もまともに見てはくれない。手入れだってこれでけっこう気を使っているというのに、ちゃんと戦場では返り血を浴びてしまわぬように風を纏わせて、…………」
………………。
(………………。)
………やっぱり、この異世界って残念だよね。
この人、無口なほうがクールビューティな感じで良かったと思う。
仮面が外れたらなかなかのオデコっぷりだったのに。
せっかくの金髪ロングストレート型オデコさんなのに。
どうしておれは残念にばかり巡り合うの?
(マスター、類は友を呼ぶのだぞ。もしくは、残念使いは引かれ合うという運命的なルールなのだぞ)
絶許!
許さない、絶対にだ!
某一族の奇妙な冒険に出てくる表現をそんな残念な感じでパクらないよ!!
「暴風花が汝に告げる」
「そもそも討つべき敵として相対したからには、女としてよりもまずは武人として接するべきだろう。やれ女だてらに剣なぞ持つなだの、女相手では本気を出せないだのと言い出す輩が多すぎるのだ、…………」
………………あれ、まだ続くの?
(………………マスター、終わったら呼んでね)
あっ、ちょっ!
………邪剣が神域に逃げた。
「暴風花が汝に告げる」
………………。
「この胸のせいで、慎ましく可愛らしい胸部の女性と仲良くなるのも難しいのだからな。こんなもの、あっても邪魔なだけなのに、敵視されてしまうことが多くてね。そういえば、敵方の将だった女性にはひどい言われようだった、…………」
……………なんなの、この延長戦。
どうしてこうなった?
せっかくおれの中で色々と高まってきていたのに、『天秤』、いや、『暴風花』との謎の延長戦のせいで、すっかり出鼻を挫かれてしまった。
ようやく語り終えた『暴風花』は、満足気にもならない無表情のまま、抑揚の欠けた無感情の棒読みのままで、次のように告げた。
「ふふ、ふふふふふ、長々と付き合わせてすまなかった。ここまで真摯に私の話を受け止めてくれたのは、貴方が初めてだよ。不埒でいやらしいところもあるのに、優しい誠実な人なのだね。ふふふ、ますます貴方との決着をつけたくなった。できれば天秤の言っていたとおり、この場で待っていて欲しいな。次の粛清対象もすぐ近くにいるようだし、討ち取ったらすぐに戻ってくるから」
そんなことを言い残して、『暴風花』は風に乗って飛んでいった。
神域に逃げていた邪剣を呼び出して、この異世界の残念っぷりを嘆いてみたら、こう言われた。
(………でもマスター、今はこれくらいで丁度良いのであろう?)
そう、無明が言っていたとおり、これくらいで丁度良い。
いつものようにふざけていられた。
先生に言われたとおり、おれはクールに行動しないといけないから。
本当に丁度良かった。
この世界に漂い出した『奴』の気配が、胸糞悪くて堪らなかったからよ。
『邪剣使い』攻略、31日目。
これより、死地に入る。




