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2キャラ目、風が強い

更新遅れまして申し訳ございません!

ちょっとリアルの事情で今後は更新頻度が落ちてしまいそうです。

最低でも月1、最高で月4の更新を目標にがんばります!

申し訳ございませんが、お付き合い頂ければ幸いです!







『邪剣使い』攻略、30日目の昼。


『天秤』の放った風の砲弾に吹き飛ばされて、大城壁から少し離れた林の中に這いつくばっている。


(マスターっ!!すまん!我はマスターの剣なのに!!こんなときに我はっ…)


スネていた邪剣が戻ってきてくれた。


ダメージくらったらすぐ戻ってきてくれるとか、ちょっと嬉しいです。


いつもの、右手だけに邪剣を持つスタイルで立ち上がりつつ、頭の中で愛剣に答える。



いや、どう考えても完全におれが悪かった。

謝るのはおれのほうだ。

邪剣、すまなかった。

戻ってきてくれてありがとう。

おれとしたことが、巨乳に目がくらんで大局を見失うなんてな。

オッ○イに貴賎なし。

全てのオ○パイに、ありがとう。


(もうっ!ばかマスター!!そんなふざけてる場合じゃ…)


あぁ、そんな場合じゃなかったな!!

白銀が駆けてくる!

これまでに一度も見せていなかった速度で、一直線に距離を潰してきた。

邪神の超突進を思い起こさせるほどの速度。

それは、さながら銀の弾丸だった。

下段にゆったりと構えられていた長剣が、速度をのせて真っ直ぐに顔面を突きにくる。

軌道を予測。

左前方に回避して右手の邪剣で胴を薙ごう、そんな思惑は外された。

白銀の刺突は軌道が変わり、右腕一本で首を刈りにきた。

咄嗟に上体を屈めて回避し、おれは体ごとぶつけるように邪剣で腹を突きにいく。

予測、突風に弾かれて『天秤』は後方に跳び退がる。

予測的中、右からの突風に阻まれてこちらの攻撃がほんの一瞬鈍くなり、それと同時に女騎士は風を受けつつ後方に跳躍、その一瞬の突風が紙一重の回避を作り出す。


だが、予測は的中したのだ。


おれは右からのその突風にあえてそのまま流されて左前方に駆け出し、回り込むような形で『天秤』を追う。

刹那の思考。

敵の予測を上回ったか否か。

剣術の教師を前に、その女騎士の熟達した駆け引きを超えることができたのか。

否、否ッ、否だッ!!

楽観を否定しろ!

予測、直感、想像。

おれは今、右からの突風を受けて左に流れてから追撃をかけんとしている。

その突風は誰の能力であったか。

思考、思考、思考ッ!!

左に駆けて回り込んでいく足に緊急回避の怒号を飛ばす。

咄嗟に右に跳躍!

猛烈な暴風の砲弾がすぐ左を吹き抜けていった。

危うく術中にはまるところだった。

おれは今度は右に跳躍した勢いのまま、右から回り込んで接近する。

白銀の女騎士は、その動きを避けるように遠ざかるようにと、自身の右後方へ退いていく。

前方を向いたまま後退する『天秤』よりも、おれの接近のほうが速い。

突き進めッ!!

剣の間合いに捉えるッ!


自身の未熟を思い知らされた。


やはり『天秤』には届かない。

ちょうど、木が立っていた。

ここはまばらな林の中だった。

このまま相手をこちらの間合いに捉えることができるはずの、そんな邪魔な地点に木があった。

刹那の内で、風の砲弾に吹き飛ばされてからここまでの攻防を脳裏に浮かべる。

超速で寄せてきた銀の弾丸を前に横方向への回避と反撃を選択し、変化した片手での首薙ぎに下へ屈んで踏み留まり、その隙に攻め込んでお互いの予定通りの突風による回避、その突風に張られた罠に気が付いて、二度目の風の砲弾を回避することができた。

上手くやったと思っていた。

しかし、この攻防は常に誘導させられていたのだ。

風の砲弾を右に回避したとき、それに合わせて白銀の女騎士も右後方に、そしておれはそれを追った。

あと一歩、ほんの数瞬で届いたはずなのに、絶妙な位置に木が生えていた。

保険をかけていたようだ。

風の砲弾をかわしても、その分だけ右に動かされて、ちょうどこのタイミングでこの位置にくるように、『天秤』が誘導していたのだ。

その木を避ける一瞬の隙が、ここまで詰めた距離を帳消しにしてしまうだろう。

人が1人余裕で隠れられる太さの木の影に、『天秤』が回り込んでいく。


攻めが途切れてしまう。


そしておそらくは、また女騎士の手番となる。


搔いくぐったつもりが掌の上で、この先の展開をおれは読めていない。


相手はきっとこの先の手を用意している。


『邪剣』の能力を使うべきか?


いや、まだだ。


木の裏に回り込まれた。


視認できない状態では、あの『天秤』に決定打を当てる自信が無い。


まだ見せるべきじゃない。


直感。


思考は終わる。


直感に従って邪剣を振り抜く。


右手の愛剣が木の幹を真横から断ち切った。


だがその背後に敵の感触は無い。


そうだろうとも。


それで構わない。


直後、断ち切られた瞬間の木の幹に更に全力で踏み込んだ!!!


『憤激の左拳』が炸裂したッ!!!!


木の幹が豪快にすっ飛んで『天秤』に激突するッ!!!


距離をとるべく後方に跳び退がっていた際中の女騎士は、右腕の装甲で咄嗟に木の幹を受ける!


その木の幹だけが砕け散りつつ後方に逸れてぶっ飛んでいった!


受けたッ!!!


『天秤』がこの戦いで初めて攻撃を受け止めた!!


追撃をかけろッ!!!


再度の踏み込み!


爆速で距離を消し飛ばすッ!!!


追撃の左ッ……を振るう直前で左半身に衝撃!


風の砲弾によるカウンターッ!!!


だが止まらねえええぇッ!!!!


左半身が吹き飛び引き千切れそうになるような衝撃を耐えつつ、目の前で足が止まっている敵に右手の愛剣を滑らせる。

体勢は崩され、右半身でかろうじて振るった、万全には程遠い一閃。

しかし「身体」は震える。

血肉が躍る。

これは「正解」の剣閃。

敵対者の首を刈り取りにいく。

女騎士の長剣が跳ね上がる。

この戦いで初めて響く金属音。

銀の長剣が、黒の直剣の軌道を逸らす。

それまではすれ違うだけだったはずの剣と剣が接触した。

攻めを切らすな。

超近距離の死の領域に再度刃を供給する。

またしても金属音。

風が間に合っていないのか?

あの『天秤』が受けている。

逸らされた愛剣は女騎士の左腕の装甲をかすめて、空気が裂けんばかりの音を響かせる。

白銀の装具に傷を付けた。

小さな戦果に浮かれる暇は無い。

今は思考すらも惜しい。

ただ剣を振るう。

剣の舞を彩る楽曲、互いを求め合う戦場の囀りが鳴り響く。



その攻防から、ほとんど同じような展開が繰り返されていった。

細部は違っていても、おおまかな流れは変わらず、お互いに望むほどの戦果を得られていない。

少しずつ、辺りに夕闇が押し寄せてくる。

延々と目まぐるしく入れ替わりながら続く攻撃と防御の中で、『天秤』の本来の戦闘スタイルが見えてきた。

基本的には距離をとって、風の砲弾で一方的に攻め立てる。

その遠距離攻撃の合間に風を受けた超突進を織り交ぜて、自身を銀の弾丸と化して急襲する。

そこから近距離で長剣の間合いを押し付けて、苛烈な剣術で圧倒する。

長剣の間合いの内側に接近される場合は、突風で相手の体を崩しつつ、同時に風に乗って後退し、再び距離をとる。

どうやらそれが『天秤』の基本戦術だった。

それに対して、おれの基本的な攻撃手段は至近距離に限定される。

右手には諸刃の直剣。

おれの愛剣は片手剣であり、白銀の長剣に比べて間合いは短い。

そして左拳。

当たれば一撃必殺の威力ではあるのだが、その間合いは更に狭く、『天秤』相手にはその間合いまで踏み込む機会がほとんど無い。


格ゲー的には、相手は飛び道具持ちで突進技もあり、近距離も得意な万能キャラ。

対してこちらは、飛び道具無しで間合いも狭い近距離特化。

何は無くともまずは接近すること。

お互いの射程距離の関係上、とにかく先に相手の攻撃を捌くことから始めなくてはならない。

敵の攻撃を掻いくぐって、超接近戦を仕掛け続ける。

自分の間合いに入ったら、とにかくノーミスで「攻め継」の形まで持っていき、そのままゴリ押しすることを目標とする。

だが、相手は主神の使徒、『天秤』だ。

彼女とはまだ丸一日ぶっ通しで戦い続けてる程度の間柄だけど、その実力は嫌というほど思い知らされた。

この白銀の女騎士を相手に、攻撃を掻いくぐって攻めを継続するなんて至難の技だった。

っていうか無理ゲーだった。

なんらかの理由で突風による防御が無いタイミングがあっても、卓越した剣技と神に与えられた装甲を突破できず、ダメージを与えることはできていない。


この膠着した現状を打破する為に、気の抜けない攻防の中で気を抜きすぎないように細心の注意を払いながら、途切れ途切れで思考を積み上げていく。


夕闇の林の中、豪風が吹き抜け、剣戟が鳴り響く。


膠着した現状。

厳密に言うならば、膠着は、させているのだ。

明確な意志を以って勝敗を決する、決着に至るべく切り札の切りどころを探っている、そんな状態だ。


おそらくは、お互いに。


おれの切り札は、邪剣の能力。

肉を伸ばし、剣身を追加し、『魂喰らい』で必殺する。

幸い、諸事情により戦闘開始時にこれらの能力を使用できなかったので、ここまで一度も見せていないのだ。

初見殺しを完遂する為に、絶好の機が訪れるまでこれらの能力を秘匿する。


今は、その機を図り続けている。


一直線に突っ込んでくる銀の弾丸が急停止して、左方から長剣を閃かせる。

そこに隠された意図を読み取り、迫る銀閃に両手で握り締めた愛剣を打ち合わせる。

右方を通り過ぎた風の砲弾、退いていれば直撃していた。

互いの刃が接した状態になり、左手を柄から放し瞬時に女騎士の手首を殴り砕きにいく。

柄から左手が離れたタイミングで、既に突風で阻まれている。

風に乗って軽やかに遠ざかる白銀の騎士の姿は、ほんの僅かな輝きを放ちながら、幻想的に暗闇の中を躍っている。

この戦闘における2度目の夜は、とうに訪れていた。


『天秤』にも、きっと温存している切り札があるだろう。


そう思っておいたほうがいい。

風を操るあの力。

風の砲弾、遮る突風、急速移動の風。

使いどころは多様にあったが、今までに見たものはこの3つに分類されるだろう。

3つだけで終わりということは無いと思う。


っていうか。


邪剣データベースをお願いします!


暗闇においてもその激しさを失わない攻防の中で、少しずつ愛剣からの情報収集を試みる。


(邪剣データベース、起動シークエンスを完了、接続に成功しました)


ノリ良し!!

いや、そういう場合じゃないから!

っていうか、あの能力なんなの?

風を操るってなんなの!?

まさかまさかの魔法なの!?

魔法でしょ!!?


(いや、あれは魔法ではなく『風気支配』だぞ。魔法ではないから安心するのだ、マスター)


風気、って、たしか六元のひとつだったよな。

ちょっと戦いながら聞いてるから、解説よろしく!


(うむ、我だけ喋ってるのは少し寂しいのだが、マスターのために解説するぞ!)


(六元のうちのひとつが飛び抜けて濃い地点に所縁のある生物は、ごくごく稀にその六元の『支配能力』を得ることがあるのだ。あぁ、そうか、そういえば「六元分割」以降は、それぞれの六元の極地で『支配能力』の使い手が増えやすくなっているかもしれんな。魔法とは違って詠唱は必要ないのだが、その分、習熟にはかなりの修練を積まねばならないのだぞ!)


(『風気支配』は周囲の風気を利用するため、近くに風気が少なくなってしまうと効果を発揮できないのだ。しかし『風魔法』の場合は、その呪文に必要な分だけ強制的に世界から風気が徴収されてくるので、詠唱が成就される限りは使用可能だ)


(『支配能力』に対抗するには、それと同系統の魔法を詠唱するのが効果的なのだぞ。詠唱には世界の理を介した拘束力が働くので、『支配能力』よりも優先されることになる。だから『風気支配』で操ろうとした風気を、『風魔法』で奪い取ってしまうことができるのだ。そのうえで、魔法に使用した周囲の風気を消費することにもなるから、その後に支配できる風気を減らすことにもなるのだぞ)


(あっ、でもマスター魔法使えないんだった)


ちょっ、邪剣それ思い出さなくていいよ!!?

集中が乱れるからやめて!!!

それ完全にフレンドリーファイアしてるから!!


っていうか待てよ、対抗手段が魔法なの?

でも今は「魔導」の神が死んでるから、魔法が使えない。

おれだけじゃなくてみんなが魔法使えない、決しておれだけじゃなくて。

そしたら、この『天秤』の『風気支配』って、弱点無くなっちゃってる感じなの?

いちおう、そうか、周囲に風気が少ないと使えないんだっけ、そんな縛りがあるのか。

だから死んでる場合じゃないって言ってるじゃん、「魔導」の神!!


っていうか弱点!


そうだよ、邪剣、『天秤』の弱点とか無いの!?

先にこれ聞いとくべきだったわ!


(くふふっ、結局解説聞くだけじゃなくて話しちゃってるマスター!)


ぜんぜん余裕ないけどな!!

なんか右手の邪剣と相談しながら戦うとか、ホントにあの某傑作マンガのパクリみたいじゃん。

右手だしね!


(「均衡」の使徒たる『天秤』自体には、弱点らしい弱点はおそらく無いのだぞ)


(ただ、それぞれの個体によって戦闘方法は異なるから、個体ごとに弱点はあるかもしれんな。しかし全ての『天秤』に共通するような弱点となると、おそらく無いだろう)




今の聞かなかったことにしよう。


それぞれの個体、とか。


全ての『天秤』、とか。


よし、聞かなかったことにしよう。


今は戦いに集中集中!!




(しかしマスターもついてなかったな。どうやらあの『天秤』は、おそらく邪神様の記憶が存在を覚えている、それだけの強者だ。あの剣技と『風気支配』を駆使する女、該当する存在はバローグ史上にたった一人のようだぞ)


(均衡律に囚われ『天秤』になる以前、あやつは『暴風花』の名で通っていたらしい)


(バルゴンディア時代、統一王配下の英雄、戦場を薙ぎ払いただ一人咲き誇る大輪の暴風、そのように邪神様が記憶している)




聞こえてないから。


バローグ史上、とか。


『天秤』になる以前、とか。


統一王配下の英雄、とか。


全部聞かなかったことにするからね!!


なんなの『天秤』ってマジなんなの!?


いや聞かないよ、聞きたくないよ!!




(『天秤』は『粛清者』)


(均衡律に従って、バローグの均衡を乱す要素を粛清する者)


(『天秤』は『粛清者』)


(かつて粛清されし者、かつてバローグの均衡を乱し得る要素であった者)


(『粛清者』に粛清されし者は、『粛清者』となる)


(『天秤』か「均衡を司る神」に討たれた者は、身体も魂も均衡律に囚われて、自我を持たぬ神の木偶人形となるのだ)


(あっ、しまった!!!そうか、ひょっとすると、マスターも粛清されたら魂を均衡律に縛られるかもしれん!!)




やだやだ!!


ホントに現実はひどい!!!


残念異世界はいつも残念!!


聞かなかったから聞いてないからね!!!


もうホントに戦闘に集中しますから!!


集中しないとだから!!!


だって、粛清されたら粛清者にされちゃう、ってことは!!


負けたら魂を縛られる、ってことは!!!


それって『奴』以外のゲームオーバー要素ってことでしょおおぉぉぉーーーーッ!!!?




30日目の夜は更けた。


深夜を回る、踊る影ふたつ。


そして、31日目が始まる。

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