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2キャラ目、剣舞

互いの技をぶつけ合う、黒と銀の剣舞。


それはまさに達人の領域。


その舞踏の中でおれは…。


はい調子乗ってましたー!!


マジでムリ!!


我流剣術とか言ってたのがホント恥ずかしいよね!


『天秤』におれの攻撃がぜんぜん当たりませーん!


っていうかそれ以前に、攻撃する隙すらほとんど無いんですけど!




『邪剣使い』攻略29日目。

正確な時間はやはりわからないが、地球での感覚的には、午後3時を回ったくらいだと思う。

突如現れた「均衡」の使徒、『天秤』との戦闘が始まっていた。

その白銀の女騎士を相手に、諸事情によって自らの剣術だけを頼りに立ち回っている。

諸事情については割愛する方向で。

でもあえて一言で言うなら、オッ○イが揺れたから。

っていうかまぁ、完全におれの自業自得ですよね!


邪剣がスネてしまい、『天秤』が凄まじい怒気を放ってきたあと。

何事も無かったかのように怒気を鎮めたその女騎士は、またしても急接近して長剣を自在に振り回してくる。

とは言え、やはり、あの雄殺しの超兵器はその度に揺れ震えて、こちらの視線を拘束するのだ。

そうなると、必然的に猛烈な殺気をのせた鋭利な銀閃が襲ってくることになってしまう。

殺意の波動に目覚めた『天秤』は、3倍速い。

視線拘束のデバフと共に、怒気による自己バフをも兼ねているとかなんとか。

要するに、オ○パイを見ちゃうと相手が強くなるのだ。

マジ殺す気で長剣を最速で最適に振ってくる。

あっ、まぁ殺す気なのはたぶん最初からだったけどね!


回避に専念すれば、かわしきれないことはない。

そもそも、回避には割と自信がある。

ナーン森林での骸骨の軍勢に始まり、『奴』との死闘は言うまでもなく、「魂の牢獄」で大量の大鎌持ち怨霊が出てきた辺りとか、それから邪神の超突進と、けっこうな猛攻を掻い潜ってきた。

まぁ『無明の万眼』のときはおれの実力じゃなかったんだけど、それでもかなり学ばせてもらっていた。

たぶん、今挙げたようなのは、この異世界でも屈指の苛烈さだったんじゃないかと思っているのだ。

今回のこの『天秤』の襲撃は、それらに決して引けを取らない、いや、『奴』は別枠だけど。

はっきり言って、この女騎士はクソ強い。

剣の軌道が変幻自在すぎてヤバイ。

剣速が神速で緩急も織りまぜてくる。

武器を使用する相手の中で、これほどの使い手は今までにいなかった。

しかしそれでもおれは、回避に専念すればかわし切ることができている。


こうして全力を出して動き回るのは、邪神との戦い以来、初めてのことだった。

1日目から邪神とかいう意味わかんない展開だったあの日、おれは『邪剣使い』の身体に違和感があった。

『無明の万眼』と比べたら『邪剣使い』は到底及ばない、そんな実感があった。

しかし、今はあの日と違う。

全力を出してやっと気が付いたのだ。

『邪剣使い』が強くなっている。

その原因もきっと、大部分があの1日目だろう。

強大な敵に挑むほど、この異世界では強くなる。

数多の敵を屠るほど、このバローグでは強くなることができるのだ。

次から次へと湧いてくる大量の怨霊を消し飛ばした。

魂のほんの一部分だけで超濃密に実体化できてしまう、わけがわからない強さの邪神と戦った。

全力で戦うのはそのとき以来だったから、『邪剣使い』の成長に気が付いていなかったのだ。

レベルとかステータスとかを確認できたらすぐにわかると思うんだけど、この異世界には無いですかそうですか。

このことに気が付いてから思い返してみると、あの魚馬を左拳で爆発四散させちゃったのだって、そのせいなんだと思う。

最初は無明の借り物だった『憤激の左拳』も、あれだけ怨霊と邪神相手に振り回しまくったおかげで、『邪剣使い』自体の技としてもさらに鍛え上げられてしまったんじゃないだろうか。


油断大敵。


くそっ、おれのバカヤロウ!!

こんな思考してる場合じゃなかった!

そんなだから邪剣に残念呼ばわりされちゃうんだよ!

『天秤』は、やはり強敵だった。

追い詰められている。

いつの間にか、自分の背後に大城壁が迫っていた。

この女騎士、あれだけの殺意で長剣を振り回していたくせに、実はこちらの回避先を誘導してきていたようだ。

なんとか左右に逃れようと動き始めたが、そちらへの攻撃は一層苛烈になり、代わりに背後への回避が緩くなって、後退しか選択できなくなる。

時既に遅し。

とうとう壁を背負った。

ここが勝負所。

瞬時の判断。

邪剣の肉で上に逃れる!

のはムリでしたそうでした!!

邪剣が不在!!

ならば前ッ!!!

踏み込む。

これももう見られたのは重々承知。

それでも前にッ!!

左拳が豪快に空を切ったッ!!

かわされっ………なんだ?

『天秤』は大げさなほどに跳び退がっていく。

この機を逃すな!

おれも大城壁の側からすぐに離れて距離をとる。


これでまた仕切り直しとなった。

どうやら白銀の女騎士は、おれの左手をよほど警戒しているらしい。

っていうか。

ものっすごい怒ってる!!

無表情無反応なのに怒気だけがすごい伝わってくる!!

いや、おまっ、誤解だからね!!?

今のは揉もうとしたんじゃないよ!?

ただの攻撃だからね!?

なんでそんなに「このヘンタイ!痴漢は死ね!!」みたいな怒りを発してるの!!?

なんだこれ、助かったのに釈然としない!!

まぁ自業自得なんだけど!

とりあえず、この相手の怒りゲージを溜めないようにしないと。

ただでさえ3倍速くて攻撃する隙が無いのに、もしもこれ以上速くなられたら手も足も出ないだろう。

その為には、まずおれの視線をあの爆乳から外さないといけないな。

いや、それはムリだろ。

不可能指令じゃん。

でもたしかにあのリーサルウェポンを見つめていなければ、女騎士の殺気は見事に消え失せるのだ。

だからやらなければならない。

あの暴力的な暴乳を見つめないように戦う。

不可能を可能に変える、自然の摂理を捻じ曲げる。

ハッ、それって『改竄』ってやつなんじゃない!?

大丈夫かな!?

大丈夫かなぁ!?


正直、詰んでるとは思う。

相性的には、あの邪神にも匹敵するほどの強敵だ。

いや、ひょっとすると『奴』にすら劣らないかもしれない。


世紀の対決。


おれ VS 巨乳。


あぁ、違うな。


これは。


そう、これは。


自分との戦いだ。


煩悩を打ち破るための壮絶な戦い。


今ここに、おれは修羅道を征く。


おれ、この戦いが終わったら、邪剣のオッパイ揉ませてもらうために土下座するんだ……。




日が暮れた。

修羅の道を歩み始めてから、かなりの時間が経過している。

残念ながら、成果が出ているとは言い難い。

相手を見なければ、攻撃を回避できない。

相手を見ると、視界に暴乳が入る。

暴乳を見つめると、相手の攻撃が激しくなる。

攻撃を回避するために、相手を見なければならない。

相手を見ると、視界に暴乳が入る。

負の連鎖から逃れられないのだ。

だが、時は来た。

日が暮れた。

じきに暗くなる。

暗くなれば、見ようと思っても見えづらくなるはず!

あとこっちの視線もきっと気にならなくなるはず!

夜カモン!!

これで勝つる!


そして陽は落ちる。


闇に包まれながらも、その舞踏は止まらない。


暗闇に溶け込む黒と、僅かな星に照らされる銀。


薄々気付いていた。


気が付いてしまっていた。


なんかもう、夕陽のときからそうだったじゃん。


予感は、確信へと変わった。




暗くてむしろエロい。




『天秤』の怒気は鎮まりませんでした!

暗くて見えづらい、その程度で、おれの煩悩が撤退するとでも思ったのか?

そいつは大間違いだったぜ!

ちくしょう!

自分が恨めしい!

そうして、夜は更けていくのでした。






夜明け。

とうとう30日目。

白み始めた空が、世界から闇を洗い流していく。

色を取り戻した風景は、徐々に鮮明さを増していく。

『邪剣使い』の攻略が始まってから、この光景を見るたびに思い出すことがあった。

1日目の夜明け。

墓を掘る夜明け。

ひとり立ち尽くすその姿を、誰かが抱き締めてやらなければいけなかった。

しかしその場にいたのは、この世界で唯一その資格を持たない、『邪剣使い』だったのだ。

色付き始めた世界の中で、その少女は暗い灰色のままだった。

ただ、その灰髪に咲く花飾りだけが、鮮やかな悲しみを湛えていた。

おれは絶対に、あの瞳を忘れてはならない。

お前は絶対に忘れてはいけない。

忘れるな。

お前の腹には、小さな少女がえぐった小さな穴が空いている。


目の前の白銀は、あの灰色と違って煌めいている。

振るわれる銀閃は、あの小刀とは比べものにならないほど洗練されている。

髪は金色、時を忘れたように美しい。

あぁ、違うな。

なにもかもが違う。

だから『天秤』、お前ではおれを粛清できない。

おれが絶対にそれをさせない。

おれの罪を裁くのは、あの灰髪だ。


視界が開けた。


冷水をぶっかけたかのように、心が冷え切った。

まるであの少女を利用したかのようで、すぐに自己嫌悪に陥る。

いや、それでいい。

お前は利用したんだ。

利用したかのようではなく、まさに利用したのだ。

あの少女の激怒を、憎悪を、悲哀を。

忘れるな。

お前はこの世界を救うのだ。

自分の為にそれをするのだ。

救わねばならぬ。

だから、こんなところで停滞することなど許されない。


振るわれた長剣を見切る。

敵の動作を把握する。

次の展開を、その先の攻防を予測する。

ふと気付くと、女騎士の怒気が鎮まっていた。

自分の心も、静謐の中に佇んでいる。

袈裟懸けに疾った長剣を紙一重で見届ける。

通過したはずの銀閃が跳ね上がって胴を断ちにくる。

空を切る刃とすれ違いながら前に出た。

右手の剣が敵の首を刈りにゆく。

女騎士は後退してそれを回避。

おれの足はその引き足を追っていた。

右手は引き絞られており再び放たれる。

放たれた刺突は、白銀の仮面へと吸い込まれていく。

おれの剣先が仮面に届くその寸前。


突風が弾けた。


予期せぬ力が加えられ、剣先がぶれて目標から外れる。

体が崩れて敵の迎撃を覚悟する。

しかし、『天秤』も同時に、弾かれたように後方に吹き飛んでいく。

また仕切り直し。

この戦闘が始まってから、もう何度目かわからなくなった仕切り直し。

だが、今回のこれは、今までのものとは違う手応えを感じていた。

謎の突風。

『天秤』に、ようやく手札を切らせた。

そしてそこに至った剣先。

これまで煩悩に囚われていたとはいえ、実戦で本物の剣術を目の当たりにしてきた。

図らずも、見本を示す教師を手に入れていたのだ。

ぞくりとした。

この実戦で、おれは剣術を手に入れる。

強くなる。

この道は、いつか『奴』を倒す道へと続いている。

その実感に、震えが走っていた。

目の前の『粛清者』とやらには、せいぜい付き合ってもらうとしよう。




夜が明けてから、どれくらいの時間が経過しただろうか。

日はとっくに昇っていて、まるで昨日に戻ったかのような景色が広がっている。

しかし、その舞台で繰り広げられるのは、昨日とは全く違う剣舞だった。

これこそが剣の舞。

互いの命を奪う為に、目の前の強敵を斬り伏せる為に、真剣の勝負が繰り広げられていた。

その剣筋は必殺であるがゆえに、すれ違う。

おれはいつの間にか愛剣を両手で握りしめていた。

白銀の女騎士は、倒すべき敵であるとともに、習うべき教師でもあった。

彼女は本当に優秀な模範で、手を変え品を変え、殺しの手管を、剣術の妙を示してくれる。


身体に震えが走る。


「正解」の動きを選択したとき、自分の剣術が上達したとき、この身体は反応を示す。

強敵と斬り結ぶ舞踏の中で、「身体」が目覚めていたのだ。

『邪剣使い』のこの「身体」は、本物の剣術を知っていた。

おれのレベルがようやくその領域に足を踏み入れ始めたことで、やっとそれに気付くことができたのだ。

『邪剣使い』の身体の本来の持ち主、その魂はこの身体には入っていない。

しかし、この「身体」は剣術を覚えていた。

おれは『邪剣使い』のことを何も知らない。

だがこの戦いで、剣の達人だったことが、はっきりとわかった。

魂を喰われて死んでいた肉体に、剣の術理が通って蘇ったかのようだった。

今この「身体」に溢れる力は、あの無明にもそうそう引けを取らない。


もちろん、ここまで引き上げてくれた『天秤』も、剣の達人である。

その上、あと一息というところで、あの突風によって回避されてしまう。

依然として油断ならない強敵だった。

またしても、突風に阻まれて仕切り直し。

すっかり昇り切った陽光の下で、黒と銀は同じ構えで向かい合う。

突風による回避の頻度が増していることに、おれは自分の力量の上昇を実感していた。

いける。

もう勝てる。

この突風も、すぐに攻略してやる。

決して油断ではない、確かな自信。

仕切り直しのあとの踏み込みは、既におれから始まるようになっている。

一気に攻勢をかける。

詰め寄るおれを前にして、『天秤』は、初めて脱力し、その長剣をだらりと下げた。



それを目にした直後。



風の砲弾に吹き飛ばされていた。


(ッ!!!?)


地面と平行にぶっ飛ばされて激突した木をなぎ倒し、なおも止まらない。


(マスター!!マスターっ、大丈夫か!!?しっかりするのだ!!!)


地面に這いつくばって、帰ってきた邪剣の声を聞いていた。


『天秤』は手札を切った。


それに値する相手として認められたらしい。


教師から合格のハンコを全身に叩き込まれた。


剣術の特別授業はもう終了だ。


こっちも、おれの愛剣が帰ってきてくれた。



『邪剣使い』攻略、30日目。


対『天秤』戦、真の戦いが始まった。

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