表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/88

2キャラ目、大城壁にて

『邪剣使い』攻略、25日目。


未だにバルゴンディア王国の大城壁に留まって、剣術の鍛錬を続けている。


22日目に『婦人憎まれ虫』と遭遇して以来、他の人間や生物に出くわすことはなかった。


『婦人憎まれ虫』から得た情報については、22日目にしーちゃんと話したとき、色々と確認したり考えたりしてみた。




まず、神について新しくわかった情報は、「商売を司る神」と、「酒造を司る神」がいたということ。

あの男は、「商売」の神は生きているのかくたばったのかわからないと言っていたが、「酒造」の神については、はっきりとくたばったと言っていた。

いつものように「しーちゃんの邪剣データベース」にお問い合わせしてみると、その2柱の神はたしかに昔から存在していたらしい。

…………しーちゃんが酔っ払ったのって、「酒造」が死んでたから変な酒だったってことなのか?


そしてギルド。

傭兵ギルドと、魔導ギルドと、あとは冒険者ギルド?があるような感じだった。

これは、異世界のテンプレとしてものすごく気になるところだよね!

でも残念!!

しーちゃんは人間社会の実生活についての知識をほとんど持っていませんでした!

安定の残念!

もともとは邪神の知識だもんね。

あの邪神、人間の生活とか興味なさそうな気がする。


しーちゃんが補足できたのは、『古き森の民』に関する情報だった。

それによると、耳長、というのは、『森の民』、つまりエルフの、蔑称のようなものだったんだそうだ。

今代の「均衡」がやらかした『六元分割』よりも以前、様々な大陸の各地にエルフの住む深い森があり、人間に敵対する氏族

もいれば、友好関係を築く氏族もいたらしい。

さらに遡って『統一期』には、ある氏族は早くから統一王に味方してその覇業を支えたらしく、旧バルゴンディアの王都はその氏族の住む森の近くに建てられたんだそうだ。

昔は『森の民』って呼ばれてたけど、今は『古き森の民』って呼ばれてるみたいです。

うん、そのまんまだね。


あとはこのバローグの国々について。

東の帝国、南の大国、それと南の小国イルイール。

ついでに、水精領域都市国家同盟ってやつ。

しーちゃんはやっぱり全部知らなかったようです。

もともとは邪神の知識ですからね!

あの邪神、なんでバルゴンディア王国関連の知識だけが豊富なの?

やっぱり統一王ラブだからなの?

ガチだからなの?

あっヤバイ思い出しちゃう!!

アレはマジ邪神!!!


それから、南の小国イルイール。

あの『婦人憎まれ虫』の言葉を信じるなら、別の『運命改変者』はそこに向かったらしい。

別の『運命改変者』と合流するべきか迷ったけど、一口に南の小国とは言っても、どれくらい南にあるのかおれにはわからない。

だから今回は当初の予定どおり、この場に留まることにした。

探し回っても結局見つけられず、31日目以降の変化も実感できない、なんてことになってもおかしくないからだ。

二兎を追う者は一兎をも得ず、って言うもんね。




そういうわけで、25日目、未だに大城壁で剣を振っている。

初日に比べればマシになったんじゃないかとは思うけど、なにせ教えてくれる人がいない。

ちなみに、しーちゃんに教わろうとするとこういう感じ。


(ちがっ、そこっ!だめっ!!それは違うのっ!もっとっ!マスターもっと強くしてっ!!)


安定の誤作動です!

やめてください、妄想が捗ってしまいます。

あと誤作動じゃないパターンだとこういう感じ。


(シュバッときてスススッとしたらビシャアッ、だぞ!それからシュンシュンッてなったらヒュバッ!シュバッ、じゃなくてヒュバッ、だぞ!)


うん、よくある感覚派のアレだよね。

ぜんぜんわかんない。

そんなわけで、ひたすら我流剣術を磨いております。

たぶんめっちゃ効率悪い気はしている。

でもいいんだ、我流って言葉の響きはそれだけで胸が熱くなるからな。

「キサマ…………その剣、誰に習った?」って誰かに聞かれたい。

「フッ、我流よ」って答えたい。

超主人公っぽいよね!


とはいえ、さすがに少し飽きてきたので、他になにかするべきことがないか考えてみた。

天を仰いで、ふと思いつく。

大城壁に登ってみよう。

だいたい10階建てくらいの高さがあるし、上に登って、この周辺の地形を確認しておこうと思ったのだ。

大城壁に到着したその日に確かめてみたけど、内部に通じているようなドアも無かったし、階段も無かった。

だから登るとなると、ロッククライミングみたいな感じでいくことになる。

でも右手に邪剣を持ってるし、片手が塞がってるのはきついかな。

片手でも登れそうな場所がないか、大城壁を見上げながら周囲を歩いていく。


あぁ、そうか、アレだ。

鮫馬に水中に引き込まれたとき、邪剣の肉を水上まで伸ばして固定してから、肉を収縮して身体を引き上げたんだ。

アレをやればいいんじゃん!

そう考えて大城壁を見上げていると、大城壁の上になにか見えたような気がした。

緑色の細いものが、チラッと動いていた気がする。

蔦が風に揺れたのかな?

大城壁の壁には蔦が這っていて、一番上まで伸びている部分もあった。

蔦に引っかかるのを避ける為に、なるべく蔦が這っていないところを探してみる。

結局ぐるっとまわって、もとの南側に戻ってきた。


よし、こっち側なら蔦もそんなに生えていない。

普通南側のほうが葉っぱも好みそうな気がするんだけど。

でも異世界だしね。

そういえば水精領域の川も、高低差関係無く、ひたすら水精領域の奥の方向に流れてたんだった。

この蔦も、日差し関係無しで木霊領域の奥方面に生えやすい、ってことかな?

まぁいいや、とにかく登ってみよう。

そういうわけで、しーちゃんの出番だよ。


(呼ばれて飛び出てジャジャジャ邪剣しーちゃーん!みんなの魂喰っちゃうのだぞ!!)



………。



……………。



…………………。



(跡形も無くっ!喰っちゃうのだぞー!!)



………うん、どうした?



(…………すまん、マスター、ついやってみたくなったのだ)


おけ。

今のは事故だ。

悲しい事故だったね。


(今のは忘れてやってくれい!無かったことにしてくれい!!)


うん、そうしようか。

しょうがないよ。

おれの魂食べちゃったのが悪かったよね。

なんとなく登場シーンっぽいのをやりたくなっちゃったんだな?

すまんかった、ちゃんとおれが責任取って決めポーズも考えておくよ。

ではしーちゃん、気を取り直して、大城壁を登りましょう。


(うむ、我の本体が刃こぼれでもしたらイヤだから、剣身を追加して壁に突き刺してくれい)


おっけー。

では早速行ってみよう。

大城壁のてっぺんに向かって、邪剣の肉を思いっきり伸ばす。

ヒートロ○ドをくらえッ!


(よし、マスター今だ!)


目の良さが命取りだッ!

某リアル系ロボットアニメの大佐のセリフをパクりつつ、伸ばした肉の上のほうに剣身を1本追加して、大城壁の壁に突き刺した。

念の為、強度を確かめる為に何度か強く引いてみる。

大丈夫そうだ。

地面を蹴って、邪剣の肉を一気に収縮する。

身体がギュンギュン持ち上がっていき、大城壁のてっぺんのへりが見えたので、へりを左手でしっかりと掴む。

そのままの勢いで、グッと力を込めて登りきった。

大城壁の上に颯爽と立つと、目が合った。





うん、目が合った。





ドラゴンと。





おぎゃああああぁぁぁぁぁーーーーッ!!!!

いやいやドラゴン!!?

マジデカイ!!!

丸まって縮こまってる姿勢なのにマジデカイ!!!!

大城壁のてっぺんのほぼ全面占拠してる!!!

えっ、めっちゃ見られてるけど!!?


(ふむ、緑竜か、まだ若そうだな)


冷静!!!?

しーちゃ……邪剣マジ冷静!!?


(いや、マスターも意外と冷静だと思うのだが?)


いやなんだろう、冷静っていうかなんていうか、コワイってよりも感動なんだよね!!

だって異世界のドラゴンなんだよ!!?

世が世ならラスボスものだよ!!?

それなのになんだろう、この丸まってる姿勢とか、尻尾が揺れてるところとか、意外とちょっとかわいいかも!

あっ、目閉じた。

これ寝ちゃったの?

っていうか昼寝中だった感じなのかな?

なに、この世界のドラゴンって、ひょっとしてめっちゃ温厚?


(いや、全てが温厚というわけではないぞ。竜種は特に六元に染まりやすいからな、緑竜は木霊に染まった竜なのだ。つまり、この温厚な気質は、生属の木霊に由来するものなのだぞ)


ふむふむ、ここでも六元ですか。

生属の竜はノンアクティブって感じなのかな?

っていうことは、死属に染まった竜の場合は…。


(出会ったら即おはようのブレスでご挨拶だぞ!)


それって、おはようと同時にさようならになっちゃうよね?

絶対にエンカウントしたくないんだけど。

やっぱり決めました。

死属の土地には絶対に行かない。

そんな物騒な生物がいる土地なんて、絶対に行かないからね!

絶対だぞ!!


(またそうやって前振りしちゃうマスターなのであった)


邪剣さん、不吉な発言はやめましょうね?

前振りじゃないからね?

おれの切実な願いだからね?

まぁとりあえず、お昼寝の邪魔しちゃ悪いし、下に降りようか。

周りを見渡そうにも、緑竜くんの身体で南側しか見えないもんね。

南側はおれが今までいた方角だから、目新しい発見は無いんだよな。

そういうわけで、あまり物音を立てないように注意しつつ、壁にまた剣身を追加して突き刺した。

強度を確かめてからぶら下がり、ゆっくりと邪剣の肉を伸ばして降りていく。


地面に降り立って、ふと思いついた。

なるほどね、ここに着いてからもう6日も経ったのに、こりゃあ道理で他の生物に出くわさないわけだ。

いくら温厚な性格とはいえ、さすがに野生の動物はドラゴンの縄張りに入ってこれない、ってことか。

あれ?

待てよ?

人間は、ここに緑竜がいるってことを知ってるのかな?

この大城壁って、旧バルゴンディア王国の過去の遺物だろ?

今のバルゴンディア王国にとっては、歴史的価値のある貴重な遺産なんじゃないのか?

観光資源なり道標なりに使いそうなもんだけど、特に街道が通ってるわけでもないよね。

そうなっていないのは、きっとこの緑竜が住み着いているからだよな?

だから、生物だけでなく、人間もここには近寄らない。


そのはずだ。


そのはずなのに、『婦人憎まれ虫』は、ここを通り道にした。

もしも人間たちが緑竜の存在を知ってここに近寄らないのだとすれば、情報屋であるあの男がそれを知らぬはずがない。

緑竜が温厚であることを知っていたのか。

あるいは、竜を恐れないほどの実力を持っている、ということなのか。

どちらにせよ、人通りの少ない道をわざわざ選ぶような人間だってことは確定だ。

…………人目を避けてるはずなのに、この怪しい見た目の『邪剣使い』にはわざと接触してきた、ってことか?

うーん、やっぱり信用したらダメっぽいね、あの男は。

なるべく関わらないようにしよう。

さーて、しょうがないから、また我流剣術でも磨くとしようかね。

まぁ気分転換にはなったよ、だって突然のドラゴンだもん。

いや、ホントいきなり襲われたりしなくてよかったです。

珍しく残念じゃなかったね!






大城壁に到着してから、10日が経過した。

『邪剣使い』攻略も、29日目に到達していた。

10日間、剣術の鍛錬を続けながら、『無明の万眼』のときに訓練していた準備期間を思い出していた。

ナーン森林の位置は、たぶんここから西寄りの北西の方向なのだ。

あの沼、湿地帯が水精領域と木霊領域の境界にあたると推測した場合、だいたいそういう方角になると思う。

その場所で、『無明の万眼』は、1周目と同じ運命を辿っている。

朝になれば葉っぱを食って、何は無くとも葉っぱを食って、夜には骨軍団との戦闘に明け暮れる。

………完全におれのせいだけど、ちょっと変な運命だよね。

ごめんよ、無明さん!


しかし、そんな運命も明日で終わりだ。

いよいよ2日後。

なんとなく過ごした1周目はあっという間だった。

この2周目、目的の日を待つというのは、長かった。

あの31日目が迫っている。

それに備えて、ここでもう少し考えてみよう。

まずは、この場所にいつまで留まっているべきか?

31日目は、この大城壁で迎えるべきなんだろうか。

それとも、やはりもっと正確にナーン森林の位置を把握して、あの戦いの現場付近まで移動してしまうべきなんだろうか。

あるいは別の選択肢として、バルゴンディア王国の、王都に行ってみるか。

あの戦いについて、人間の社会はどう見るか、または何も見えないのか、それがわかるかもしれない。

うーむ。

まぁ、王都に行く、っていうのはやめておこうか。

どうせまた門前払いだと思うんだ!

でも、王都は抜きにしても、この周辺の地理に詳しくなっておいたほうがいいかもしれない。

この大城壁を起点に一定の距離を動き回って、周辺の位置関係を脳内マッピングするのもいいかもしれない。


そこまで考えたとき、轟音が響いた。


それは鳴き声だった。


竜の咆哮。


大城壁のてっぺんの緑竜が、吼えた。


すぐに頭上を見上げる。


緑竜は、翼を広げて飛び去りながら吼えていた。


異変。


前兆。


嫌な予感がした。


『奴』を連想した。


周囲に違和感が無いか、すぐに警戒する。


その異変にはすぐに気付いた。


目の前の空間に、1本の細い縦線が走っていた。


そこからスッと、空間が左右に開く。


人間のようだが、人ならざる何かが、歩み出てきた。


(あっ…………くっ!白銀の装具だと!!?)


その者の外見に、邪剣が戦慄していた。

全身が白銀で統一された戦装束。

口元だけが露わになった、白銀の仮面。

両手でしっかりと握りしめて胸元に掲げた、一振りの長剣。


「我は天秤」


美しく冷え切った、女性の声。

それが人間のものではないことを確信する。


(くそっ!天秤かッ!!!)


邪剣はその正体を知っているらしかった。

おれは頭の中で愛剣に問いかける。



邪剣、あの女は…。

いや、アレは、いったいなんなんだ?



(アレの自称は、天秤)



(その通称は、神の木偶)



(均衡律に縛られし『粛清者』)



(「均衡」の用いる秤、それが『天秤』だ)



『邪剣使い』攻略、29日目。

おれは、この世界の主神「均衡を司る女神」の、その使徒と対峙していた。

恐ろしいほどに美しい、その薄い唇が再び開く。


「均衡の定めし律に因りて、汝を粛清する」


『天秤』の、抑揚も感情も欠落した声が、そう告げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ