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運命の断片 『婦人憎まれ虫』2ー1

幕間です。

内容的には昨日の投稿の続きです。

41話の幕間のサブタイトルを、このサブタイトルにならって変更してみます。






バルゴンディア王国領内、大城壁付近の林の中を、1人の男が南東の方向に向かって進んでいく。



日焼けばかりでなく汚れで黒ずんだ坊主頭、その後頭部にはまだほんの少しばかり頭髪がしがみついているようだ。

両眼の大きさが左右で違っていて、左目がいやにギョロついている。

上唇がめくれ上がり、不揃いで不潔な前歯が飛び出している。

左耳の上部が欠けていて、まるで無理矢理引き千切られたようだった。

その顔立ちは、誰が見ても間違いなく醜男と評するであろう。

旅暮らしのための大きな荷物を背負って、その上からだいぶ年季の入った外套をかぶっている。

外套は全身を覆い隠し、その下がどういう服装になっているのかはわからない。



その男は『婦人憎まれ虫』である。

これは、『邪剣使い』と『婦人憎まれ虫』との邂逅の、その直後のことであった。



「イーッヒッヒッヒ!!ダメだ!たまんねぇや!我慢できねぇ!イッヒッヒ!!」


大城壁で『邪剣使い』と別れてから数分後。

林の中を歩いていた『婦人憎まれ虫』は、唐突に笑い出していた。


「黒ずくめの剣士……………イッヒッヒ!剣士だって!?あんな素人剣術で!?たまんねぇや!アレが復活した『邪神』だってか!?アレが『邪神』なら、アタシぁ今頃首と胴が離れちまってるだろうがよ!!こりゃあ、やっぱりとんだデマだったみてぇだな!『邪神』が復活している、だって?黒ずくめの剣士の格好をしている?桁外れの暴力で歯向かう者を皆殺しにする、だと?クソッ、あの耳長のアバズレめ、ロクでもねぇ大嘘並べやがってよ!イッヒッヒ!このアタシをよくも騙してくれたもんだぜ!イーッヒッヒッヒ!!」


ベラベラと喋りながら思考するのは、この男の興奮しているときの癖のようだ。

どうやら『婦人憎まれ虫』は、耳長、つまり『古き森の民』の女性から、直に話を聞いているらしかった。

『邪剣使い』に対して語った内容では、その耳長の女性について、さも噂に聞いただけであるかのような話し方をしていたはずだった。


「黒ずくめの剣士だなんて言うから、てっきり邪神教団のあの『刈り取る闇』の線もあるかと思ったんだがねぇ。一生懸命お稽古してるあの腕前じゃあ、その線も無えよなぁ。チッ、期待外れだぜ!」


大城壁の北側から『邪剣使い』の鍛錬を観察していたのは、やはりこの男であった。

しばらくの間、観察しながら『古き森の民』の女性から得ていた情報について勘案していた。

その結果、大城壁にいた黒ずくめの男の脅威度は低いと判断し、接触を図ることにしたのだ。


「まっ、それでもいいネタにゃあなりそうだ。あの黒ずくめのヤロウが耳長の話題に反応したのは確かだし、お互いに因縁があることには違いねぇんだろう。不確定とはいえ、このご時勢に『運命神』と『邪神』の名を吹かしながら、耳長と木霊領域の住人の一団が森から出てきやがった。そして黒ずくめの剣士と言やぁ、思い浮かぶのは邪神教団の『刈り取る闇』、だが現在は行方不明、そんなときにバルゴンディアに現れた、下手くそな剣術の黒ずくめのヤロウ……………イッヒッヒ!こりゃあ味付け次第で一獲千金だ!!この情報、帝国に売りつけるか?いや、あの一団を追って南に行って、そのまま南の大国に売っ払っちまうか!!イーッヒッヒッヒ!」


「どうやらこの『婦人憎まれ虫』にも運が向いてきやがったぜ!おぉっと!こりゃまさか本当に『運命神』が仕事してやがるってことかぁ!?イッヒッヒ!!………さてと、影のダンナ!影のダンナはいやすかい!?」


そう言って、『婦人憎まれ虫』は周囲を見回しながら声を張り上げた。


「お前のすぐ右だ」


何も無いように見える空間が、その問いに答えた。

その声は低く、どうやら男の声のようだ。


「おぉっと!?イッヒッヒ!相変わらず影も形も見えやしねぇですね!」


「案ずるな、常にお前のすぐ横にいた。現在、周囲に他の人間はいない。お前の独り言は誰にも聞かれていない」


影のダンナと呼ばれたその見えない男は、『婦人憎まれ虫』が懸念しているであろう周囲の状況を、手短に伝える。


「えぇ、えぇ頼もしい限りですとも、ダンナ。ところで契約の延長をお願いしてぇんですが、よろしいですかね?」


「契約終了まであと12日間残っている。最初に説明したとおり、契約の延長は最長で50日間まで受けてやる。延長料金は1日当たり大銀貨1枚、当日の日没直後に支払ってもらう。同行中の規定については通常の契約から変更は無い。情報の秘匿についても既に通常の契約書に組み込んでおいた」


「大銀貨ッ!?ダンナ!そりゃいくらなんでもボッタく、いえいえ、足下を見過ぎじゃねぇですかい?」


影のダンナと呼ばれた男が説明した値段設定に、『婦人憎まれ虫』は大げさに驚いてみせる。


「それも契約時に説明したはずだ、命に比べれば安いものだろう?」


「イッヒッヒ!ダンナ、貴族様や大商人様とは違って、アタシの命は安くってねぇ!」


「ぬかせ、黒虫」


「小銀貨2枚に、延長期間中の取得情報はダンナにも権利あり、こんなところでどうです?」


「俺との契約を延長する真価を知らんわけではないだろう?9枚だ」


「イッヒッヒ!4枚でお願いしやすよ!こちとら情報でメシ食ってるんですぜ?」


「7枚」


「ちぇっ!つれねぇお人だ!仕方ねぇや、それでお願いしましょう」


「俺の護衛を値切るその剛胆は誉めてやる」


「イーッヒッヒッヒ!まさか『婦人憎まれ虫』が『白昼の影』に誉められるなんてことがあるとはねぇ!この情報はバラ撒かねぇとなぁ!!」


「延長期間の情報権利書は冒険者ギルドで作成、保証人は支部長に依頼、依頼料はお前の負担だ。それ以外は認めん」


「えぇ、えぇもちろん、いいでしょうとも。この先の町、アレンディアの冒険者ギルドで作りやしょう。アタシとしても、『白昼の影』との契約延長の情報はすぐにでも流しておきてぇですからね」


「せいぜい有効に活用することだな、情報屋」


姿が見えない男、『白昼の影』の護衛。

その最大の特徴は、襲撃者にとって、護衛がついているのかいないのか、把握できないことにある。

その為、ターゲットが『白昼の影』に依頼を出していた場合、襲撃者はまず情報収集に全力を注ぐことを強いられる。

そして『白昼の影』が本当にその標的の依頼を受けていた場合、襲撃は断念しなければならない。

なぜなら、『白昼の影』が強いから、理由はただそれだけだ。

『白昼の影』との契約延長は、襲撃者に対する絶大な抑止力となる。

無論のこと、『婦人憎まれ虫』がそれを知らぬはずがない。



こうして、『婦人憎まれ虫』と、それを護衛する『白昼の影』は、バルゴンディア王国の大城壁の南東にある町、アレンディアを目指す。

目標は、バルゴンディア王国の南にある小国、イルイール王国。

バルゴンディアからイルイールに向かうには、アレンディアの町を経由するのが一般的な道程だ。

イルイールに向かったという『運命神の使徒』を名乗る木霊領域の住人の一団と、それを率いる『古き森の民』の女性を追っている。

その女性が『古き森の姫巫女』であることは、まだ知られていない。


バルゴンディア王国領、アレンディア。

それは、『邪剣使い』が門前払いされた町の名であった。

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