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2キャラ目、イッヒッヒ

この異世界で初めて会うタイプの人間と相対していた。


『婦人憎まれ虫』と名乗ったその男は、本当に女性から毛嫌いされそうな容姿をしている。


不思議と、こいつの容姿には気の毒だという同情の念すら湧かないのだ。


胡散臭いこと、この上なし。


大きさの違うアンバランスな両眼で、こちらを無遠慮に値踏みしている。




「イッヒッヒ!ダンナ、ずいぶん用心深いようで!なに、心配いりやせん、アタシぁ本当に善良な商売人ですからね!おぉっと!善良とは少しばかり言い過ぎちまった!イーッヒッヒッヒ!!」


いや、商売人がこんなところに1人でいるとかおかしいじゃん?

これほどまでに信用できない人間っていうのもなかなか珍しいよね。


「疑ってますね?まぁ商売人には見えねぇでしょうよ、えぇ、えぇごもっとも。第一に、物を売るにしちゃあ荷が少な過ぎる。まぁ、こんなツラしてますから、まさかと思うかもしれませんが…」


喋りながら、『婦人憎まれ虫』は、細い鎖に繋がったなにかタグのようなものを掲げて見せてきた。

何だろう、金属片?

銅板かな?

何なのかよくわからなかったけど、既に引っ込められてしまった。


「イッヒッヒ!実はアタシぁ、こう見えてコレなんですわ。まっ、とはいえ、主に扱ってるのは情報の方でしてね。アタシの商売ってぇのは情報屋、兼なんでも屋ってところですかね!物品もまるっきり扱わないワケじゃあありませんが、扱う物品といやぁ拾い物くれぇのモンでね、どこで拾ったのかなんて聞かねぇでくださいよ?イーッヒッヒッヒ!ダンナはずいぶんと腕が立ちそうですが、どちらのギルドの所属なんですかい?」


ギルド!!?

冒険者ギルド的なやつか!?

異世界のテンプレじゃないか!!

話の流れ的に、さっきこいつが見せてきたタグみたいなのは、ギルドの登録証みたいなものだったのか?

っていうか、質問されたけど喋れないし。

まぁ、喋れてもたぶんこいつには答えないけどね。

んー、喋れないジェスチャーも、今回はしなくていいか。


「…………徹底してますね、ダンナ。イッヒッヒ!手強いお人だ!いいですともいいですとも、アタシの独り言ってことで、まぁ聞いてやってくださいよ。ダンナ、秘密ってぇのは抱え込んじゃあいけませんや。語りたくない秘密がある、だなんて情報にもそれなりの値は付くんですぜ?おぉっと!勘違いしねぇでくださいよ?なにもダンナの情報を売っ払おうなんてつもりじゃあねぇんです、こりゃただのおせっかいの忠告ですよ!イッヒッヒ!!いいですか、ダンナ、秘密なんてぇのは、嘘に紛らわしちまえばいいんです。情報屋のアタシからすりゃ、何が困るって、嘘が一番困るんですわ。こちとら信用商売ですからね、デマなんて売りつけちまった日にゃあ、今までさんざっぱら苦労して積み上げてきたモンが、全部パーになっちまう。だからまぁ、アタシみてぇな信用できない相手には、だんまり決め込むよりも、適当な嘘でやり過ごしちまえばいいんですよ」


おーおー、よく喋るよく喋る。

謎の親しみやすさと、謎の説得力。

詐欺師って感じだね!

んー、なんかごちゃごちゃ言ってたけど、結局、おれに喋らせたいってことかな?


「……………へっ、やっぱりダメですかい。まっ、慣れたもんですわ、ツバに嘲笑に罵声、それもねぇんでいつもよりゃマシなくらいですよ!イーッヒッヒッヒ!しょうがねぇや、ダンナ、その調子じゃあ、情報も買ってくれませんやね?いいですとも、ここで会ったのもなにかの縁です、お近付きの印に、タダで教えて差し上げやしょう。なぁに、どうせ独り言ですから、聞き流してくれりゃいいんです。これからアタシが語るのは、まぁ普段なら商品にもしねぇような、信憑性に欠けた情報でして。口のお堅いダンナのことだ、心配いらねぇとは思いますが、『婦人憎まれ虫』の情報だなんて言いふらしたりしねぇでくださいよ?」


喋りに夢中なように見せて、こちらの挙動をしっかりとチェックしてくる。

どうにも居心地が悪い。

でも、『邪剣使い』にここまで話しかけてくるやつはそうそういないだろうし、これも貴重な機会なんだよなぁ。

この残念異世界物語は、とにかく情報が足りていない。

そして、目の前のこの男は、情報屋なのだ。

本人も言ってたとおり、小悪党みたいな臭いがプンプンしてる。

なんかデメリットがありそうだけど、今後の為にも、もうちょっと『婦人憎まれ虫』に付き合ってやることにする。

それに、こいつがもしも3人目のキャラとしてアンロックされたなら、情報屋である以上、大量の情報を得ることができるはずなのだ。


「ダンナもご存知のように、今バローグはかつてない混乱期を迎えてますでしょう?神々が次から次にいなくなっちまって、どんどん世界が荒れちまってやすね?主神の『均衡』の仕業だなんて噂もありますが、噂の域は出ていませんや。まっ、アタシみてぇなのにとっちゃ、いい稼ぎ時が来たってモンですがね!イッヒッヒ!ダンナもそうでしょう?『魔導消失』以来、腕っぷし自慢の武芸者たちは価値が跳ね上がりましたからね!クズどもの吹き溜まりみてぇだったあの傭兵ギルドが、今じゃあ一等地の魔導ギルドとそっくり入れ替わっちまってんだからなぁ!!イーッヒッヒッヒ!!まっ、明日は我が身ってね、結局のところ、このバローグがどうなっちまうんだかは、誰にもわかんねぇ。このままいけば、バルゴンディア王国もそう遠くないうちにおしめぇよ。東の帝国か、南の大国か、どっちにしろすぐに飲み込まれちまうでしょうね!おぉっと!いけねぇ話が逸れちまいやしたね!イッヒッヒ!」


ふむふむ。

神々が消えていて世界が荒れている、これはきっとこの世界の常識なんだな?

その原因を知っているやつはいないんだろうけどね。

それで、『魔導消失』に、傭兵ギルドに、魔導ギルド、か。

なるほど、たしかに、魔法が存在する世界で突然魔法が使えなくなったら大混乱だろう。

でも混乱してばかりじゃいられない、特に、軍事の面では早急な対応が必要だ、ってことか?

まだギルドについてはよくわからんけど、当然のように魔導ギルドは失墜、各国がこぞって魔法の代わりの軍事力を求めた結果、傭兵ギルドが台頭した、って感じかね。

あとは、東の帝国、南の大国、か。

異世界ファンタジーっぽくて、戦記モノっぽくて、おれとしては熱い展開なんだけど。

現実の残念異世界運命改変に放り込まれてる身としては、ひたすら厄介そうな予感しかしないよ………。


「脱線ついでの忠告ですが、ダンナがもしもこのバルゴンディア王国に仕官に来たってぇなら、やめといた方が身の為ですよ?アタシみてぇに、冒険者として稼ぎに来たってんならいいでしょうがね。アタシからしてみりゃあ、この国は沈むのが目に見えてる泥舟ですから、どうせなら東の帝国に行くか、南の大国に行くか、その方が長生きできるんじゃねぇですかね!まぁ、長い物には巻かれろってことですよ!イッヒッヒ!!」


ん?

ちょっと待て、今、冒険者って言ってた?

えっ、こいつ冒険者なの?

情報屋なんじゃないの?

いや、えーと、情報屋だけど冒険者ギルドに所属してる、って感じなのか?


「おぉっと!余計なお世話でしたかね?例の信憑性が薄い情報ってやつに話を戻しましょうか。実はね、ダンナ、神々が消え失せていくこのご時勢に、とある神の使徒を名乗る一団が現れたんですよ。なんの神だと思いやすかい?イッヒッヒ!それがなんと!『運命神』の使徒ときたもんだ!イーッヒッヒッヒ!!笑っちまうでしょう!?それも1人じゃねぇんだ、ぞろぞろと連れ立って、しかもやって来たのが因縁の地、バルゴンディア王国ときたもんだ!なかなか手の込んだ冗談でしょう!?どうですダンナ!?おもしれぇけど、こりゃあ売り物にならねぇ情報でしょう!?イーッヒッヒッヒ!」


オイオイオイオイ。

マジか。

マジなのか?

マジなのかよ!?

すげぇ!!!

大当たりの情報じゃん!!!

『運命神』の使徒だと!?

きたか!!

それって別の『運命改変者』の情報じゃん!!!

マジか、バルゴンディア王国にいるのか!?


「まるっきり冗談みてぇな情報ですけどね、どうもその一団、メンバーは人間なんですが、リーダーが長耳らしいんですわ。それも女で、とびっきりの上玉だって噂です。えぇ、『古き森の民』ってやつですよ。イッヒッヒ!おとぎ話みてぇでしょう?もちろんアタシの作り話じゃあありやせんぜ!?そいつらすぐに南の小国イルイールに向かったって話ですが、バルゴンディアの王都じゃあちょっとした噂になってます。嘘だと思うなら、王都の酒場でも行って確かめてみてくだせぇ。まっ、『酒造神』がくたばったおかげで酒場にゃあロクな酔っ払いがいませんがね!おぉっと!酔っ払いがロクでもねぇのは昔から変わらねぇや!イーッヒッヒッヒ!!」


長耳!?

『古き森の民』で長耳!!?

それってもしかしてエルフですか!?

エルフきたーーなの!!?

金髪貧乳ロリBBA枠確定ッ!!!

異論は認めるッ!!

えっ、ちょっと待てよ。

その、エルフが、リーダー、なの?

リーダーってことは、たぶん、別の『運命改変者』が操ってるんだよな!?

絶世の美女エルフの身体を操ってるってことなのか!!?

なんということだッ!!!

その手があったのかッ!!!

うらやまけしからんッ!!!!

あるのッ!!?

女の子の身体を操っちゃうとかあるの!!?


「…………イッヒッヒ、ダンナ、なにか心当たりでもあるんですかい?それとも上玉のオンナってとこに反応したんですかね?なぁに、これ以上詮索はしやせんよ。あの『運命神』の一団の情報も、そう捨てたもんじゃあねぇってのがわかっただけで充分です」


はっ!!?

しまった!!

動揺が顔に出ていたのか!!?

いや、出るだろッ!!

今のはしょうがないッ!!!

エルフはしょうがないッ!!!

そうかー、女の子あるのかー。

マジどうしよう。


あれ?


そういえば、別の『運命改変者』って、どういうタイミングで『運命改変』してるんだろう?


んー。


おれが1キャラ目で『無明の万眼』を選んで、2キャラ目に『邪剣使い』を選ぶときには、既に『若き木狩りの戦士』は選択済みだった。


考えられるのは、「同時」か、「交代」か?


「同時」のパターンだとすると、1周目のバローグには、おれが操る『無明の万眼』と、別の人が操る『若き木狩りの戦士』が、同時に存在したってことになるのか。


それで、今は2周目だから、別の『運命改変者』は、『若き木狩りの戦士』ではないキャラを操ってるはずで、それがそのエルフなのか?


「交代」のパターンだったら、1周目でおれが『無明の万眼』を操って、2周目でおれと交代して別の人が『若き木狩りの戦士』を操って、3周目でまた交代しておれが『邪剣使い』を操っている、いや、『運命改変者』って3人いるんだっけ?


『運命の女神』は3姉妹なんだよな?


うーん、ややこしいな。


しかも「交代」のパターンだったら、自分の前の改変で何が変わったのか把握できなさそうだよね?


あぁ、待てよ、ただのチュートリアルだった運命改変アクションRPG「ヴァーランド・リフォージ」の多人数プレイは、同時協力型だったよな。


っていうことは、やっぱりこの『運命改変』も「同時」に行われているのかな?


いやでも、アレはただのチュートリアルだったしな………。


いや、さすがに大丈夫だよね、だって「同時」じゃないと、別の『運命改変者』と相談することなんて絶対できないぞ?


でもチュートリアルと現実は違うからな………。


いやいやでもやっぱり………。


はっ!!

しまった、今は考え込んでる場合じゃないな!


「イッヒッヒ!やっとダンナに反応してもらえたようで、安心しましたよ!こんなツラしたアタシですが、これでも情報屋としての誇りってモンはいちおうありますからね!アタシぁこれで満足です、ダンナ、『婦人憎まれ虫』を今後ともよろしくお願いいたしやすぜ?では、アタシぁこれで失礼しますよ。次会ったときには、ダンナの声か、ゼニの声でも聞かせてくださいよ?イーッヒッヒッヒ!!」


耳障りな笑い声と粘り着くような笑い顔を残して、『婦人憎まれ虫』は南東方向に去っていった。

なんだろう。

有益な情報をたくさん手に入れたはずなのに、なんか釈然としないんだよね。

不愉快な後味がある。

それを振り払うように、おれは剣の鍛錬を再開した。




っていうか、おれは途中から気付いていたことがある。


なぁ、しーちゃん?


(ん?呼んだかマスター?)


しーちゃん、それ、今どこにいるの?


(今は神域から話しかけているぞ!)


そう、この子ってば、勝手に神域に引っ込んでいたのだ。

だから、あの『婦人憎まれ虫』が喋っている最中に、しーちゃんがツッコミを入れたりすることがなかったのだ。


(だって!あの男が超気持ち悪いから!だから神域に引きこもって、外界の情報を遮断していたのだ!もちろん、マスターに呼びかけられれば聞こえるのだぞ?マスター、ひょっとしてもうあの男は消え失せたのか?)


あぁ、うん、もういなくなったよ。

あいつマジで女の子に嫌われるんだね。

この子、人間の女の子じゃなくて邪剣の女の子だけど。


(ではそちらの空間に戻るぞー!ただいまマスター!)


そうそう、こういう感じだよね、しーちゃんがこっちの空間にいると、めっちゃ身体を侵食してくるんだよね。

なんかもうその感覚でわかっちゃうわ。


(さてマスター、それではどんな話をしていたのか我にも教えてくれ!)


あぁ、うん、そうなるのね?

まぁ別に、ついでに情報の整理ができるからいいんだけどさ。

そういうわけで、22日目は、しーちゃんに『婦人憎まれ虫』から得た情報を教えつつ、剣を振るのでした。

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