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2キャラ目、黒いアレ

『邪剣使い』攻略、19日目の昼。


巨大な建造物を見上げる。


この異世界にはそぐわない、そんな気がしてくるようなデカさ。


そう、まるで、地球の日本で見かけたマンション、10階建てで1階層ごとに4号室まであるような、そういうサイズだ。


これがバルゴンディア王国の、崩壊した大城壁。


こんなもんを建てる技術があるってことなのか、この世界は。


(いや、マスター、これは建築技術の為せる技ではないのだぞ)


ん?

どういう意味だ?

建築技術じゃないって?


(統一王の配下には強力な魔導師がいたらしくてな、土魔法で創り上げ……あっ)


魔法ぅ?

今、ひょっとして、魔法ぅ、って言ったぁ?

あっそーう?

そうなのぉー?

便利だねぇー、魔法って。

魔法が使えるってすごいよねぇー。

こんなデカい城壁ぃ?

これでもまだ壊れて残った一部分なのにねぇー。

そんなすごい威力なんだねえぇー、魔法って。

すごいねぇー、魔法が使えるって、すっごいよねぇー。


(あっ、あのっ、マスター!そのっ、すまん!マスターは魔法が使えないから、魔法の話をしてはいけないのであったな!)


あれ、改めて言っちゃう?

魔法が使えないってこと、改めて言っちゃったね?

魔法なんだよ?

異世界なんだよ?

誰だってそりゃ使いたいじゃない!!?

魔導の神だっけか、死んじゃってるとか、なぜどうしてなんだぜ!?

もうちょっと気合い入れろよ!!

死んでる場合じゃないでしょ!!?


……………あれ?

………いや。

……ちょっと待て。

「魔導を司る神」が死んだから、魔法が使えない?

あっ、待って、マジか、いや、それはおかしいだろ。

いや、いやいや、マジか?

マジなのか?


(………どうかしたのか、マスター?その、魔法はもう諦めたほうが良いと思うのだが)


しーちゃん、「夜帳を司る神」が死んだのに、夜空に星が残っている理由は?


(えっ?あぁ、えっと、それはこのバローグの主神が「均衡を司る女神」で、この世界の理は、均衡律によって保護され、ある程度の世界の均衡が保たれているからだ。だから、星が完全に無くなることはないのだ)


そう、それだよ、しーちゃん!!

つまり、全ての星が無くなるなんて状態は、均衡が保たれていない、ってこと!

だから実際に星が残っていて、均衡が保たれている、ってことなんだろ!!?

だったら、「魔導を司る神」が死んでいても、均衡の為に魔法は残っているんじゃないのか!!?

つまりッ!!!

おれが魔法を使える可能性は残っているんじゃないのか!!?


(あっ、あぁ、うん。えっとマスター、だから、その………)


(だから、魔法はきっと消えていないのだぞ?前にも言った通り、尋常ではない魔法の才能か、神性があれば、おそらく魔法は使えるのだ)


(つまり、この世界から魔法は無くなっていないから、均衡は保たれている。えと、可能性は、たしかにマスターにもあるぞ?うん、諦めずに、夢を見続けるのも良いかもしれんな!)


うん、そうだった、この話はおしまいね?

おしまいね………。




おれは、失意のままに大城壁まで歩み寄ると、壁に背をもたれて座り込んだ。

あー。

あぁー。

ちょっと休憩。

とりあえずバルゴンディア王国には辿り着いているわけだし、ちょっとくらい休憩してもいいだろう。

ここまで走ってばっかりだったし、立ち止まって振り返ってみるのもいいかもな。

何か見落としたりしてないか、軽く思い出してみよう。



1日目、あぁ、1日目は長かった、濃密だった。

邪剣に呑まれている身体、魂の牢獄、虜囚の怨霊、『憤激の左拳』と精神防壁。

邪剣との出会い。

そして1日目から邪神……………のことを思い出すのはやめておこう。

っていうか思い出したくない、アレはマジ邪神、いや忘れよう!!

それから、魂の牢獄の外に出た。

赤い光景。

邪剣の、おれの罪。


2日目、墓を掘る夜明け、灰髪の少女。

大河と砂漠が見える家に、あの子を置いてきた。

石の祭壇を取り囲むように建てた、あの集落の墓。

そこから逃げ出して、魂の牢獄のダミーらしき別の祭壇のふもとで、バローグの歴史と地理の勉強をした。

そして旅に出る。


3日目、旅立っていきなりの挫折。

邪剣ルートに突入。

邪剣に名前を付けて、外見の設定をした。

邪剣が神性を消費して世界の理に働きかけ、奇跡を起こす。

本来は神だけが持つはずの神域という別空間を、邪剣は神に成ることなく手に入れた。

そして邪剣の神域で生しーちゃんと対面。

すぐに魂を身体に戻されて、水精領域を進み始めた。


4日目から11日目、水精領域をひたすら走り続ける。


そして12日目。

魚馬に襲われていた人間を助けたけど、逃げられました。

それから鮫馬との戦い。

林に連れていかれて、鮫馬にまたがって、激しい振り落としバトルが勃発。


13日目、早朝にようやく振り落としバトル終結。

と見せかけて水中での第二ラウンドへ。

水精領域の奥地へと泳いで遊び回る。

島に来ちゃいました。

『流れ島の三兄弟』との出会い、からのボエェェェーーーー。


14日目の朝、三叉鉾との戦い。

『流麗』との立ち合いの後、三兄弟との稽古。

そして島を出発して、猛スピードで逆流。

日暮れに林まで帰還したら、池が消えていた。

鮫馬と別れ、東の大陸中央方向へと向かう。


15日目、進路を北に変更して、丘の上から町と大城壁を発見した。

町に着いたけど門前払い。

でも既にバルゴンディア王国領内にいることが発覚しました、バルバルッ!

そこから大城壁を目指すことにした。


16日目から18日目、大城壁を目指して走る。

17日目にはハゲタカもどきに襲われている人間たちを助けたけど、やっぱり逃げられた。


そして今日、19日目、大城壁に到着、っと。


さて。

ここからどうするか。

本当は、ナーン森林付近まで行く予定だったんだよな。

でも、予定は変更せざるを得ない。

あの池が消えていたことで、それに気が付いた。

やはり、『奴』に接近しすぎるのは危険なのだ。

どんだけ石橋を叩いて確かめたって意味が無い。

渡っちゃいけない橋はある。

いとも容易くあっさりと『奴』に喰われて終わるなんて、そんなのは絶対に避けなければならない。

31日目、あとおよそ10日後には、『無明の万眼』のときにレンコンもどきを収穫した、あの沼の近くに『奴』が出没する。

それがわかっているのだから、これ以上のリスクを背負う必要は無いはずだ。

まぁ、あの沼の正確な位置がわかるならそれに越したことはないんだけど。


…………沼。


………黒マナ出るよね。


……いやいや、そうじゃなくて、某アメリカ産トレーディングカードゲームのネタはとりあえず置いといて。


なんかひっかかるんだよな、沼って。


なにかを見落としてるような、なにかに気付いていないような。


さっき『邪剣使い』の攻略を振り返ってみたばっかりなのに、なにか見落としているのか?


沼。


うーん、沼。


沼、島、平地、森………いやいや、これじゃ某アメリカ産トレーディングカードゲームじゃん。


あっ!

いや待てよ!!

島、って水精領域だよな!?

森、って木霊の土地、木霊領域だろ!?

じゃあ!!!

じゃあ、沼、ってなんだよ!!?

沼、湿地帯、それって水場じゃん!

植物が生い茂っている水場、それが沼!?

水精と木霊が入り混じっている場所、ってことか!!?

ひょっとして、あの沼は水精領域と木霊領域の境界なのか?


たしかに、しーちゃんはあの六角形の地図を描いたとき、「正確にはわからない」って前置きしてたよな。

六角形に描いたのだって、六方向に六元が分かれたイメージを伝えるためなわけだし。

ナーン森林付近、あの沼の辺りは、けっこう水精領域に近かったのか?

バルゴンディア王国領だったあの町も、水精領域からそんなに遠くなかったんだよな。


(うむ、六元分割当時の噂でバルゴンディアの近くが木霊の土地になったと聞いていただけであったからな。水精領域からはもっと離れているものかと思っていたのだ)


バルゴンディア王国に到着したのも、しーちゃんの予想よりだいぶ早かったもんね。


(すまんマスター、もっと遠いと思っていたから、そのつもりで日数を伝えたのだ)


いやいや、ぜんぜん問題無いから!

おれもだいたいの目安としてしか考えてなかったからね。

さて、とりあえずの想定でしかないけど、あの沼の位置もわかったわけだ。

これ以上不用意に進む必要はなくなったな。

これから31日目までどうやって過ごそうか。

んー。

まず動き回るのはやめておこう。

ここが安全なのかはもちろんわからないけど、一箇所に留まっているほうが『奴』に出くわす可能性も低いだろう。

それに、この大城壁はいい目印だ。

別キャラの攻略時に、『邪剣使い』が19日目からここにいることがわかりやすい。


別キャラ、か………。


『運命改変』は長くても5年間。

長くて、たったの、あと5年。

いや、今は考えない。

この感傷は、浸るには早すぎる。

考えないようにしていたのに、ふと湧き出してしまった。

『無明の万眼』が、近くにいるからかもな。


本当は変えたい。


今でも変えたい。


あのふたりの運命を変えたい。


今おれは、すぐに変えられる距離にいるのだ。


あのふたりに、会いに行くことができるのだ。


今、ふたりの運命を変えるのは簡単だ。


自分が以前操作していたキャラに、現在操作しているキャラで会いに行く。


それが本来は起こらなかった出会いなら、それだけで簡単に運命が変わるだろう。


それでも、おれは『無明の万眼』の運命を変えない。



ふー。

落ち着こう。

クールに判断する。

19日目から31日目までの決定事項を確認しよう。


・『奴』と遭遇しないため、『邪剣使い』の位置を把握しやすくするために、大城壁から動かない。


・『無明の万眼』の運命を変えない。


この2点は決定としておこう。

そうなると、あとはこの場所でおよそ10日間も何をして過ごすのか、だな。

超ヒマじゃん。

どうしよう。


(マスター、それについては、我から提案させてほしい)


……………マジメな話?


(マジメじゃない話をしても良いのか?それなら我はマスターと、いーっぱいやりたいことがあるのだぞっ?)


マジメな話でお願いします。

気になるけどね。

聞きたいけどね。

あっ、どうしよう、1個くらいならマジメじゃない話も…。


(ではマジメな話をするぞ!マスターには、鍛錬を重ねてほしいのだ)


えっ、鍛錬、ですか?


(もちろん、マスターにご奉仕する立場の我からこんな提案をするのはおこがましいのは知っているし、マスターが馬鹿強いのも良く知っている)


なぜあえてご奉仕とかいう言葉をチョイスするのか。

絶対おれの魂喰ったせいだよね。


(実は、マスターの戦い方を見ていて、気付いたことがあるのだ)


ほほう。

なんだろう、ホントにマジメな話だね。


(マスターって、剣術は素人であろう?)


はい、素人です。

なんたって、おれはただ運命改変アクションRPGを全クリしただけだからね!

いくら1キャラ目の『無明の万眼』で鍛えられたっていっても、31日間しかなかったし!!


(我は、マスターの、あっ、愛剣だから、その、我はね、もっとね、その…)


あれ、なんで急につっかえだしたの?

別に気を使う必要ないぞ?

自分でもちゃんと自覚してたことだからな。

むしろはっきり言ってくれたほうが助かる。


(もっと上手に、して?)


あれ……?

あっ、なんか、精神ダメージが………。

なんかすごいダメージを喰らったわ…………。

ちょっと……先生に精神防壁追加してもらいに行こうかな…………。




こうして、しーちゃんに「下手だからもっと上手になってよ」って言われたおれは、剣の鍛錬を始めることにした。

ただし、始めたのは20日目からだ。

19日目は、なんかもうダメだった。

「力だけでは技には勝てないから」的なことを言って説得してきたけど、むしろそれも意味深でなんかもうダメだった。

しょうがないよね。

そういうときもあるんだもの。


移動もせず、他の生物が出現したりもしなかったので、特に何も起こらないまま、ひたすら剣を振り続ける。

今までに戦った相手を仮想敵として思い浮かべて、剣術だけで打ち倒すつもりで、イメージトレーニングに没頭する。

『奴』に勝つイメージなんて浮かぶはずもなかったけど、『神殺し』が刀の形をしていたことを思い出して、剣の術理を学ぶ必要性をより一層感じた。

そうして、20日目、21日目と、ぶっ通しで剣術の鍛錬を続けていた。



22日目に、人間がやってきた。



おれは、それまでと変わらずに、大城壁の南側で剣を振っていた。

剣術の鍛錬に打ち込みながらも、『奴』を警戒して、周囲の様子を常に意識する。

その人間は、1人で大城壁の北側からやって来た。

おれが立てていた物音で、最初から向こうはこちらの存在に気が付いていたようだ。

こっそりと、壁の端からこちらを覗き込んできた。

大城壁の周囲には瓦礫も転がっているし、木々も生えていて、繁みも多い。

警戒していなかったら、おれはたぶんその人間に気が付かなかっただろう。

どうやら、気配を隠すのが上手そうだ。

おれは見られていることに気が付いていないように、ひたすら鍛錬を続ける。


じっくりと観察されている。


しばらくすると、こちらの観察をやめて、大城壁の向こう側に引っ込んだようだった。

おれは油断しないように気を張り続けながら、剣を振る。

さらに時間が経過した。

1人の人間が、無防備にガサガサと音を立てて繁みを突っ切って、こちらに近づいてきた。

ただし、先刻の人間が引っ込んだ大城壁の北側からではなく、おれの西の方向から。

しかし、おそらくこの人間は、さっきおれを観察していた人間で間違いないだろう。

わざわざ引き返して、別のルートからやって来たのだ。

油断ならないな。


「おぉっと!こんなところで人に会うなんてなぁ!!いやいや!ダンナは人間でしょうね!?まさかアンデッドが剣の素振りなんてしませんやねぇ!?イッヒッヒ!」


日に焼けて薄汚れた丸坊主に、ギョロついた片目。

めくれた上唇に、不潔な前歯。

片耳が千切れたように欠けている。

無明の外套にも劣らないほどボロボロの外套で、全身を隠している。

ただし、靴先すら隠すほどの長さでありながら、おそらくは誤って踏んでしまわぬような、絶妙な長さに調節されている。

背中のほうが盛り上がっているから、荷を背負っているのだろう。

この男は隠している。

装備だけでなく、無防備で卑屈そうなさまを装って、実力も隠している。


「あぁ、ダンナ怪しんでますね?アタシぁこんなツラしてますがね、野盗の類じゃございませんぜ?それに怪しさなら、全身真っ黒のダンナのほうが上じゃねぇですかい?イーッヒッヒッヒ!!」


あー、しまったな。

そういえば1日目からずっとフードはかぶっていなかった。

こういう怪しい人間に遭遇するなら、ちゃんと顔を隠しておけばよかった。

今度からホントに頭から全身真っ黒にしておこう。


「おぉっと!怒らねぇでくださいよ?ダンナみてぇな強そうなお人の手にかかったら、アタシみてぇな小悪党はひとたまりもありませんや!あぁ、これは失言、アタシぁ悪党じゃありませんよ?れっきとした、まっとうな商売人でございますよ!えぇ、もちろん商売を司る神に誓って!まっ、商売の神さんも生きてんだかくたばっちまったんだかわかりませんがね!!イーッヒッヒッヒ!」


まぁ、仕掛けてこないなら、勝手に喋らせておくか。

こいつ、おそらく本当の失言はしないだろう。

でもおれにとっては、この世界の常識ですら貴重な情報だからな。

取れる情報は取っておこう。

無視して立ち去ることもできるけど、こんなヤツに出くわしてしまった以上、何も知らないままでいるのはかえって落ち着かない。


「申し遅れました、アタシぁ、『婦人憎まれ虫』の名で通ってます。えぇ、あの台所の嫌われ者ですよ!あの黒くて汚ねぇ、逃げ足速くて神出鬼没のあの虫のことですよ!イッヒッヒ!!アタシにぴったりでしょう?この道じゃあ、黒虫だとか、虫のヤツだとかって呼ばれてましてね、どうです、聞き憶えありますかい?結構な評判だと思うんですがね!!」



『邪剣使い』の22日目。

こうしておれは、『婦人憎まれ虫』に遭遇してしまった。

『運命』は絶え間無く『改変』され続けている。

この邂逅がどんな意味を持つのか、知る由もない。

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