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2キャラ目、流れ島の黒騎士

『邪剣使い』攻略の、14日目の朝。


またしても、この異世界の現実はおれの予想を上回ってくる。


『流れ島の三兄弟』によく似た、人と魚を合成したような外見のマーフォーク達に囲まれていた。


小さな島の浜辺で、三叉鉾の軍勢に囲まれているのだ。


どうしてこうなってる?


それはわからない。


だが、鮫馬と『流れ島の三兄弟』は、多勢に無勢で抵抗を続けている。


ぶっ倒れていたおれ、『邪剣使い』は、兄弟達に守られていたのだ。




すぐに立ち上がって、下っ端くんの目の前の敵に踏み込んだ。

手加減ッ!!!

手加減手加減手加減手加減、と頭の中で唱える。

最大限慎重、かつ、それなりの速度で、左拳を振るう。

魚馬のときみたいに相手が爆発しちゃうのはマズイ。

まだ状況もいまいち掴めないし、殺しちゃうのはヤバイかもしれない。

それに、いちおうは三叉鉾だってサカナ野郎だしな。

左拳がヒットした相手は、たぶん10人くらい巻き込んでぶっ飛んでいった。

マジか、これでもこんな威力なの?

この左拳はどうなっちゃったの?

いっ、生きてる、よね?

手加減、できたもんね?



「小アニキィーーーッ!!!?」


「ウオォーーッ!!?」


「まさかな!!!?おめぇ!!?」


鮫馬が、ブヒヒィーンと鳴いた。


質問したい。

今どんな状況なのか教えてほしい!

質問したいのに喋れない。

誰か教えてくれないかと思いつつ、キョロキョロしてみる。


「なっ、なな何をした何者だなんなのだァァーーーーッ!!?」


おっ、敵将か?

三叉鉾の軍勢の中に、こちらを指差しながら騒ぎ出したやつがいた。

なんか頭にモヒカンっぽい感じで派手な黄色いヒレが生えている。


「へっ!聞いて驚け!!こいつぁ俺様の兄弟!!『流れ島の黒騎士』よぉ!!!」


目の前の三叉鉾兵を片手で投げ飛ばした大兄貴が、モヒカンヒレ将軍に向かって声を張り上げた。


「きっ、きき兄弟!?どう見ても人間だろうがァァーーーッ!!?」


「ウオォッ!!!兄弟!!サカナ野郎!!!」


一番槍が直槍の柄で三叉鉾兵をぶっ叩いて吹き飛ばした。


「そうですぜ!小アニキはおめぇらみてぇなサカナの腐ったようなやつらとは違ぇや!!小アニキは立派なサカナ野郎でさぁ!!」


二叉鉾がおれの後ろに隠れながらまくしたてる。


「うっ、うううるさい!!我らが母なる女帝陛下に逆らう出来損ないどもが!!さっさとこの島を明け渡すがいい!!いっ、いい今ならまだ見逃してやるぞ!!早くどっか行け!!」


「オイそれ!!まさかな?おめぇ、女帝っつってたな?さっきも言ってたよなぁ?海底女王のババァは最近じゃ女帝なんて名乗ってやがんのか!?」


「バッ、バババババァ!?この出来損ないめがババァをババァ呼ばわりしたな!?我らがババァを愚弄する気か!?」


いや、なにそれツッコんで欲しいの?

周りの三叉鉾兵がドン引きしてるけど?

それチクられたらヤバイんじゃないの?


「うるせぇ答えやがれ!!なんで女帝なんて名乗ってやがるんだ!?なんだって突然ゾロゾロ連れ立ってこんな小せぇ島を奪いにきやがった!?」


「しっ、ししし知らんわそんなこと!!水精領域の支配者になるから全部攻め取れとしか言われてないわ!!こっちが知りたいわ!!泣きたいわ!!」


うわー、大雑把だなー。

全部攻め取れって?

マジでそんなボヤッとした命令されたの?

たしかに、このモヒカンヒレ将軍がうっかりババァ呼ばわりしてしまう気持ちもわかる。


「ちっ!まさかな!?ババァめ、急にアホなこと考えやがってよ!!」


「大アニキ!ひょっとすると、アレのせいなんじゃねぇですかい?ほら、ついこの間の、突如として海に沈んじまったってぇ噂の…」


「ウオォッ!!アラーネイ!水精領域都市国家同盟!!!」


「なるほどなぁ、盟主都市アラーネイ、か。たしかに、今は人間の国が混乱してるだろうから、海底のババァにとっちゃ好機ってわけだ」


いまさらだけど、やっぱり異世界すげぇわ。

そのとき歴史が動いた、って感じを味わってるな。

マーフォークの女帝が水精領域の支配に乗り出す、とか、そんな場面に立ち会ってるわけだ。


(マスター、その感動いまさらすぎる。アナタはもっと重大な場面に立ち会っていたではないか)


おっ、しー……邪剣。


(はうぅっ!わざとなの!!?呼びそうになっちゃうのわざとなの!?キュン死ぬの!!?)


誤作動発動させちゃったよ……。

重大な場面ね、まぁたしかに『奴』と『無明の万眼』の戦いに立ち会ったもんな。


(それだけではないぞ?マスターと出会わなければ、我は邪神様を復活させていたのだ。マスターは、「邪神復活失敗」という重大な場面に立ち会っていたのだぞ!)


なるほど、そうだった!

ん?

ってことは、実は1キャラ目のときには邪神が復活してたわけか?


「ハッ!?ぼっ、ぼぼぼさっとするな!!攻撃ッ!!攻撃だァァーーーッ!!」


モヒカンヒレ将軍の号令で、三叉鉾兵たちが押し寄せてくる。

手加減左拳で迎撃すると、敵はまたもや周囲を巻き込んでぶっ飛んでいく。

チラッと見てみると、鮫馬も大兄貴も一番槍も、いい感じに敵をぶっ飛ばしていた。

二叉鉾は、あぁ、うん、がんばってると思う。

っていうか、三叉鉾兵たちの戦意が早くも無くなってるんだけど。

オイお前いけよ、ヤダよお前いけよ、的なやり取りをしながら、どんどん遠ざかっていく。

こいつらやる気ねぇな……。

まぁ、たしかにこんな小島を攻め取ってもしょうがないのに、その割には相手が悪すぎるんだろう。

鮫馬はおれ自身手合わせしたからその強さを知っていたけど、大兄貴もかなり強いね。

たぶん三叉鉾兵とは踏んだ場数が違うんだろう。

パワーファイターのような見た目だけど、合理的な動きで軽く相手をいなしてぶっ飛ばしている。

『流れ島の喧嘩王』の名は伊達じゃないな。


「おっ、おおお前ら退がるなァァーーーッ!!エイッ!!くそ!!もういい!!俺がやる!!」


三叉鉾兵たちを押し退けながら、モヒカンヒレ将軍がおれの前に進んでくる。

指揮官のくせに前線に出ちゃマズイだろう。

まぁ、でも誰も戦おうとしないからしょうがないよね。

苦労性なやつだな。


「チッ!てめぇが出てくるのかよ!しょうがねぇ!!俺様が相手してやらぁ!!!」


大兄貴がこちらに来ようとしたが、おれは手を挙げて制止する。


「おめぇ………わかったぜ、兄弟に任せようじゃねぇか!!」


「小アニキ!気をつけてくだせぇ!!あいつぁ強敵ですぜ!」


「ウオォッ!兄弟!!がんばれ!!」


兄弟たちの声援を受けながら、モヒカンヒレ将軍と相対する。

ちょうどいい機会だ。

一国の指揮官の戦力がどんなもんなのか測らせてもらおう。

まぁ、スケルトンにも指揮官級の個体がいたけど、アレはちょっと別枠な感じだし。



「……………大いなる海において『流麗』の位を継ぐ者、推して参る」



モヒカンヒレ将軍の名乗りに、空気が一変する。



「俺様の兄弟、『流れ島の黒騎士』だ。覚えておきな」



おれの代わりに、大兄貴が応えた。

三叉鉾兵たちのざわめきには、期待と感動の声が混じっているようだ。

どうやら兵たちは、このモヒカンヒレ将軍、『流麗』とやらの戦いを目撃できるのが嬉しいらしい。


「いざ………」


『流麗』が構えた。


良い構えだ。


戦いになった途端に雰囲気が変わりやがった。


相手が動くのを待つ。


向こうもそのつもりなのか、少しも動こうとしない。


そう思った矢先、『流麗』が踏み込んだ。


無明の力強い踏み込みとは違う、流れるような静かな踏み込み。


だがこれは、鮫馬と戦ったときに経験済みだ。


『流麗』の三叉鉾が突き出される。


鋭い、これも良い突きだ。


突きの動きに独特なひねりが加えられ、3つに枝分かれした刃を器用に使い、攻撃範囲が広げられる。


『流麗』の名に恥じぬ、洗練された素晴らしい一撃だった。


しかし、おれには届かない。


残念ながら、『無明の万眼』には及ばない。


おれは後退し、その一撃を読み切った。


いや、読み切れていなかった。


その一撃の最速は、終わり際にやってきた。


突きが伸びる。


余裕をもって回避したはずが、鼻先まで伸びてきた。


見誤っていた。


危うく顔面を貫かれるところだった。


『流麗』の三叉鉾は、構えの定位置に既に引き戻されている。


二撃目がくる。


そう思い、気を引き締めて注視するが、『流麗』はまた動かないでいる。


三叉鉾兵たちのざわめきが、静まり返っていた。


『流麗』は、スッと構えを解いて後ろに向き直る。


「総員退却、この島は落とせない」


あれほど乱れきっていた三叉鉾兵たちは、ビシッと鉾を掲げ、整然と海の中へ行進していった。


その背中に、大兄貴が声をかけた。


「『流麗』よ、おめぇ、見事だったぜ」


『流麗』は顔だけで振り向いておれを見た。


「『流れ島の黒騎士』、覚えておくぞ」


それだけ言うと、海へと消えていった。



「兄弟、あの突きをあの避け方で見切るかよ」


大兄貴がニヤッと笑いながら話しかけてきた。

なんか、やたら眼光が鋭いけどね。


「参ったぜ、『流麗』のヤロウ、あの様子じゃまた強くなっちまうなぁ」


っていうか、なんか珍しく静まり返ってるよね?

そう思って二叉鉾くんと一番槍を見てみると、超真剣な目つきで見つめられていた。


「ギョッ、としちまった。小アニキ、いったいどれほど強えぇんですか?」


「ウオォッ、ワシ、まだまだ弱い」


(くふふっ!我のマスターだぞ!強くて当然であろう!!)


邪剣が威張っちゃってますけど。

それ、おれにしか聞こえないんだよ?

おれが恥ずかしいだけなんだよ?


「へっ、兄弟、体調はどうだ?酔いは覚めてんのか?」


大兄貴の問いに、頷いて見せる。


「そりゃあ良かったぜ。それなら…」


「小アニキ!!稽古つけてくだせぇ!!!」


「ウオォッ!!腕試し!!!」


「俺様も頼むぜ?」


なるほどねー。

こういう展開かー。

しょうがないな。

みっちりしごいてやるか!!!







砂浜に立ち尽くすおれに、鮫馬が寄ってきた。

ギロッと睨んで、催促するように背を向けてくる。

あぁ、そうか、こいつも仲間のところに帰りたかったのに、待たせちまってたのか。

倒れ込んで荒い息を吐いていた大兄貴が、上体を起こす。


「イテテ………行くのか、兄弟」


おれはこくりと頷いて、鮫馬にまたがった。

あの後、まずは全員と一対一で戦ってみたのだが、やはり大兄貴は強かった。

パワーファイターとしての素質だけでなく、やはり合理的な戦闘技術も身につけていた。技術の方は荒削りで、まだまだ強くなる余地がありそうだ。

まぁ、今でも馬鹿でかいマサカリを片手でビュンビュン振り回してて充分強いと思うけど。


「ウオォッ………兄弟!!また会う!!!」


一番槍は、単純な腕力なら大兄貴にも匹敵し、そのうえでリーチの長さを上手く活かしていた。

待ちの姿勢でいられるとなかなか厄介だし、自分の得意な距離を押し付けて攻めるのも上手かった。

攻防の切り替えや戦闘の流れを読む勘が鍛えられれば、もっと持ち味を活かせるだろう。


「………小…アニキ……あっし………もっとつよ…なりやすぜ………」


二叉鉾は、弱かった。

ただ、目が良いらしい。

動きは伴わないものの、こちらの攻撃に対する反応は他の2人よりも優れていた。

あとは、三対一のときの動きはなかなか目を見張るものがあった。

位置取りが絶妙で、こちらの標的にならないようにしつつ、背の低さを利用して執拗に足を狙ってくる。



おれは、スタスタと進んでいく鮫馬の上で後ろを振り返り、兄弟たちに向けて拳を突き出した。


体を起こした兄弟たちも、拳を突き出して、それからバタッと倒れ込んだ。


あばよ!!

サカナ野郎ども!!!







水の流れに逆らって、鮫馬がグングン突き進んでいく。


(しかし、マスターも随分物好きだな)


小島を出発してからだいぶ経っていた。

おれも邪剣も、またもや水中でかなりはしゃいでいたけど、邪剣がふと思い出したようにつぶやいた。


ん?

物好きって何がだ?


(わざわざあのようなサカナ野郎どもを強化してやるなんて。水精領域、と言っていたか、あやつらはおそらくあの水精の土地から出てこないであろう?だからせっかく強化しても、『運命改変』にはあまり影響を及ぼさないと思うのだが)


強化?

って言っても、ちょっと手合わせしてやっただけだし。

あれから強くなるかどうかは兄弟たち次第だろ?


(いやいやマスター、何を言っている?あっ、そうであった、マスターは残念マスターであったな!)


ちょっ、いきなり邪剣にディスられた!?

なんなの!?

今おれ別に残念発言なんてしてないよね!!?

どういうことなの!!?

事と次第によっては半デコを所望するぞ!!?


(マスター、よいか?アナタはぶっ飛んでる存在なのだぞ?それを踏まえたうえで、よく思い出してほしい。マスターと出会った日、我は一度説明しているのだぞ?)


出会った日?

いやいや、あの日は新情報が多すぎたじゃん。

どれのこと言ってんのかわかんないぞ?


(しかたないマスターだのう!くふふーっ!我がもう一度教えてやるぞ!もう!マスターってば我がいないとダメなのだからな!!)


久々に邪剣を鞘に戻してしまいたい気分。

このウザさ!!

まぁ、たまには悪くないですけど!!


(マスター、この世界では、強大な敵に挑むほど、数多の敵を屠るほど、得る力が大きいのだ。この説明、一度したであろう?)


あー、たしかに。

そんなこと言ってたね。

つまりアレか、強い敵と戦って、いっぱい戦って、そうすると強くなるよ!ってこと?

なにそれ、ドラ◯ンボールの世界かよ。

っていうか実は経験値システムか。

相手とのレベル差があるほど、各種行動で得られる経験値が増えるタイプだな?

某最終ファンタジーのタクティクス的なタイプだね。

仲間同士で殴り合って経験値稼げちゃうタイプか。

あっ、そうか、つまりおれは、兄弟たちにそれをやったってことなのか?


(うむ、マスターの魂から得た情報によると、正にそのファイナル幻想のタクティクス的なタイプだな。あっ、実は小数点以下の確率で盗めるらしいのだぞ?)


絶許ッ!!!!

許さないッ!!!!!

絶対にだッ!!!!!!

おれの魂に刻まれたトラウマを掘り起こしてはならないッ!!!!

盗めないッ!!!!!!

何度やっても絶対に盗めないッ!!!!!

小数点以下の確率なんて存在しないッ!!!!!!

謝れッ!!!!!!

信じちゃって何十時間も費やした全国のプレイヤーに謝れッ!!!!!!!


(えっ、でもゲームの攻略本にそう書いてあるのだぞ?)


許さないッ!!!!!!

絶対に許さないッ!!!!!!




過去のゲーム体験を思い出しつつそんなアホなやり取りをしていたら、鮫馬が急に水中から飛び出して上陸した。


なにか戸惑った様子で、周囲をキョロキョロと見回している。


ここは………。


おれも鮫馬から下りて、周囲をじっくりと見回してみる。


見覚えがあった。


ここは、この鮫馬と戦った林に似ている。


鮫馬が泳いできた小川を振り返る。


小川がぶっつりと途切れ、そこから急に草原が広がっていた。


『流れ島の三兄弟』の、大兄貴の言葉を思い出す。



ーーーー陸地がぶっつり途切れて、アラーネイがあった場所は突然海になっていやがったーーーー



池があったはずだ。


この鮫馬の群れの、魚馬たちが住んでいた池が、ここにあったはずだった。



ーーーーありゃあ何か、巨大な化け物に喰われたんじゃねぇか、って思っちまったーーーー



消えていた、壊れていた、無くなっていた。


あの池は『奴』に喰われていた。


『邪剣使い』攻略の14日目。


『奴』がこの地を通過していた。


倒すべき宿敵が、滅ぼすべき仇敵が、すぐ近くにいる。

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